15年振り、ABCホールプロデュースでの大田王に寄せて

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撮影:池川梢(株式会社500G)

川下大洋(Piper)

1996年。今は無き扇町ミュージアムスクエア「OMS」で「コントジャンボリー」というお祭りがあった。
色んな劇団や演劇人が参加してコントを繰り広げた。
私が参加したのは後藤ひろひとのチーム「ボンジャリー」だった。
そこにいたのが当時劇団MOPにいた三上市朗、そして現遊気舎座長の久保田浩、さらにMONO主宰の土田英生だった。
「ボンジャリー」の後、三上が私に「コント公演をやらないか」と言ってきた。
二つ返事で乗った。
コワモテでバカなことをさせたら右に出るものはない男だ。
京都時代からの友人でもある。プロジェクト名は「田王」にした。
「川下」と「三上」の名を物理的に合体させたのだ。
そして三上のアイデアで、スタートレックとEarth Wind & Fire の二つをモチーフにし、いくつかのコントが行われる公演をやった。
このとき参加していた後藤ひろひとが「自分もプロデュースチームに入れろ」と言ってきたので「田王」と「大王」を合体して「大田王」にした。それが名前の由来である。

「大田王」名義では2回公演を打った。
97年の、スターウォーズをモチーフにした「Bugs in the Black Box」、99年のミッションインポッシブルをモチーフにした「Mission Impatient」である。
合わせて3回の公演、いずれもメンバー全員がアイデアや脚本を出し合い、それを後藤がまとめてひとつの流れにするというものだった。
今回もそれにのっとり、皆好き勝手な案を出し合う。
この一連の公演で、後藤の夫人でもある超絶コメディエンヌ楠見薫、石原正一ショーを主宰するマンガ朗読師・石原[水泳くん]正一も参加したのだった。
そして今回、あの伝説の劇団「惑星ピスタチオ」の元主宰にして、我が「Piper」のメンバーでもある腹筋善之介がメンバーに加わった。
川下・三上・後藤・土田・久保田・楠見・腹筋・石原‥‥‥。
はなからまとまりなど誰も期待していないが、いったいどんな風にまとまるのかまるで見当がつかない。

川下大洋(かわしたたいよう)
1958年生まれ よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属 通称「Doc」
劇団「そとばこまち」に10年間在籍し、劇団運営に携わりながら50数本の作品に出演する。
後藤ひろひとと「Piper」を結成。
本公演での活動はもちろん自身のプロデュース公演「川下大洋劇・ゴーゴーハリケーン」「ドナインシタイン博士のひみつ学会」等で演劇プロデュース力を発揮している。
持ち前の美声と京都大学理学部卒のインテリジェンスを併せ持ったキャラクターで、ラジオのMC、テレビ・CM・PVのナレーターとしても活躍している。

三上市朗

20年近くになるか。拠点を関西に置き、劇団M.O.P.に在籍していた私は軽い気持ちでコントがやってみたくなり軽い気持ちで軽い友人の川下大洋さんをはじめ色んな関西在住の役者に声をかけた。
ここからの詳しい歴史は大洋さんから語られるであろうから省くが、とにかく最後に大田王をやってから15年が経つらしい。
うっかりしていた。其の間私は拠点を東京に移し、結婚し、子供を授かりM.O.P.は解散した。

舞台、映画、ドラマ、声優、ナレーション…
色んな仕事をしながらも時折思い出したようにコントの舞台がしたくなっていた。
しかしどうにも大田王のメンバーのような役者が東京では集まらない。 そんな気持ちが鬱積し15年。
とうとうあのメンバーでコントが出来る!思いっきりコントが出来る!こんなに嬉しい事はないではないか。
しかしこの気持ちは悟られないようにしよう。「あー、へー、そうなんだー。じゃ、やりますかねー」くらいのスタンスでいよう。
だってそんな嬉しい気持ち全面に出してテンション高くても恥ずかしいだけだからで、ろくなことにならない事もわかってるからだ。
そして、お客さんより我々の方が断然楽しみなのはお客さんにも悟られないようにしなくては。

三上市朗(みかみいちろう)
1966年生まれ 株式会社レディバード所属
かつて関西演劇界の中心的劇団であった「劇団M.O.P.」に所属(2010年解散)。
拠点は東京で、舞台はもちろん「踊る大捜査線」等を初め多くのTVドラマや映画等でも活躍している。
「スタートレック」の大ファンであり、愛称は「艦長」。

【最近の代表舞台作品】
2012年シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ2012「祈りと怪物〜ウィルヴィルの三姉妹〜」KERAバージョン
2013年「銀河英雄伝説」
2014年「コンダーさんの恋〜鹿鳴館騒動記」
9月にはミュージカル「ファントム」出演決定

後藤ひろひと(Piper)

関西の演劇界からタレントが消えた。スターが消えた。
この15年の間に関西演劇界は賢そうな作家や無口な俳優がどっさり増えた。
海パン一枚で寒空の下のロケに挑むのは芸人の仕事になり、喫茶やバーに少人数を集めて物を見せるのが演劇人の仕事になった。
私はそれが逆だった時代を知っている。
その逆転を"時代の流れ"と片付けるのは簡単だ。
けど本当の原因は我々にある。
かつては“タレント俳優”とか“スター演劇人”とか呼ばれた我々が後輩達にその“遊び方”を見せなくなったせいだ。
後輩達に、そして今の演劇ファン達に伝え忘れた事がある。

だから今。

老いた三人は帰って来た。

Buckle Up Kids!
Let's Go Back To 90's!!

後藤ひろひと(ごとうひろひと)
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属 通称「大王」
1987年遊気舎に入団。89年〜96年の退団まで二代目座長として活躍。
98年に川下大洋と「Piper」結成。
Piper以外でもパルコプロデュース、G2プロデュースなど数多くの舞台で脚本や演出を手がけ、2001年には自身が主宰する「王立劇場」を旗揚げ。
劇作に限らず、TV/映画等多岐に渡って台本を提供、自身も出演し、常に表に裏にマルチな才能を遺憾なく発揮している。
魅力溢れる世界と、個性的なビジュアルと怪演でカリスマ的人気を誇る。

プロデューサー:山村啓介(朝日放送/ABCホール)

「今までに観た舞台で一番楽しかった作品は?」と訊かれれば僕は迷わず『大田王』と答えます。
無論僕の観劇経験なんて高が知れているのですが、その10倍観ていたとしても答は変わらないと言い切ります。
今回15年ぶりに集った大田王はじめ8人のメンバーにとってもそれは不本意な話(「じゃあ自分の代表作『※★〒▼§』はどうなのよ!?」とか)かもしれないけれど、やっぱり言い切ります。
関西の小劇場を支えていた若手の演劇人たちが、かつて劇団の枠を超えて結集し、本気でバカの限りを尽くした舞台。
今回のABCホールプロデュース公演は決して懐古趣味ではありません。
アーティストはいつでも誰でも前しか向いていないのです。
「昔のアレがよかったからまたやろう」と言うことは、ある意味創造を生業とする人々に対する侮辱だと自覚しています。
でも、何だか、無理をお願いしてでも今これをやる必要があると感じたのです。
ここには書ききれないような色んな意味合いがあります。
とにかく、平均年齢48歳の肉体たちが撒き散らす汗を、しっかり見届けてください。
新作・旧作入り乱れて繰り出されるおバカな作品たちを、とことん楽しんでください。
相変わらず彼らは本気です。

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