診察室
診察日:2005年4月5日
テーマ: 『主婦を襲うストレスの恐怖(1) 本当は怖い生理不順〜負担〜』
『主婦を襲うストレスの恐怖(2) 本当は怖い肩こり〜重圧〜』
『主婦を襲うストレスの恐怖(3) 本当は怖い頻尿〜忍耐〜』

『主婦を襲うストレスの恐怖(1)
本当は怖い生理不順〜負担〜』

S・Mさん(女性)/34歳(当時) OL(旅行代理店勤務)
旅行代理店に勤務するS・Mさんは、企画・営業、添乗員もこなすキャリアウーマン。 2年前に結婚して以来、仕事と家庭を両立させようと頑張ってきましたが、35歳を前に子供が欲しいと思い、辞表を出すことを決意。しかし上司に説得され、結局、仕事を辞めることは出来ませんでした。そんな彼女の煮え切らない態度に、夫はいらだちを覚え、不満を爆発。家庭は冷えきったものに・・・ちょうどその頃、S・Mさんの生理が不順になり、予定日よりも数日遅れるようになっていました。特に気にもせず放っておいた彼女ですが、さらに気になる症状が現れます。
(1)生理不順
(2)疲労感
(3)肌荒れ
(4)動悸・息切れ
卵巣機能不全(らんそうきのうふぜん)
<なぜ、ストレスによる生理不順から卵巣機能不全に?>
「卵巣機能不全」とは、卵巣の機能が正常に働かなくなり、身体に様々な悪影響をもたらす病。最悪の場合、不妊症になってしまうこともあります。S・Mさんが卵巣機能不全になってしまったのは、最近、若い女性に増えている恐ろしい異変が原因でした。「若年性更年期障害」。一般的には女性が閉経を迎える50歳前後で始まる更年期。その時に起こる様々な障害が、20代や30代の若さで現れるもの。現在、仕事を持つ主婦を中心に増加傾向にあるのです。S・Mさんの体は、若年性更年期障害によって急激に老化していました。その原因はストレス。仕事と家庭で受けていた数々のストレスが、S・Mさんの「脳の視床下部」に影響を及ぼしていたのです。視床下部は脳下垂体に働きかけ、全身にホルモンを分泌させるための指令を出す重要な場所。ところが、この視床下部がストレスを受けると、脳下垂体への命令が正常に機能しなくなってしまいます。このため、全身のホルモン分泌が異常をきたし、卵巣では女性ホルモンの分泌が急激に減ってしまいました。こうして女性ホルモンが減少したため、生理が遅れることが多くなり、不順な状態が続いたのです。さらに肌が荒れてしまったのは、肌のみずみずしさや髪の毛の色つやなどを保つ女性ホルモン「エストロゲン」が不足し、全身に行き渡らなくなったため。そして夫との冷めた関係や姑の一言が、S・Mさんのストレスに拍車をかけました。疲労感や動悸・息切れなど若年性更年期障害の症状に襲われたのは、女性ホルモンの不足によって視床下部にある自律神経の中枢がバランスを失い、全身の自律神経の機能が低下してしまったためだったのです。1ケ月以上生理がなく不安に思った時点で、病院に行っていれば、大事には至らなかったはず。しかし、忙しさにかまけてその後2ケ月も放っておいたS・Mさんは、ついに突然倒れるという事態に陥ってしまったのです。この時、S・Mさんの卵巣は、自力で回復する力を失うほど萎縮し、卵巣機能不全を引き起こしていました。こうなると生活習慣の改善だけで、再び排卵が起こることはほとんどありません。S・Mさんは現在、仕事を辞め、不妊治療を始めています。
「ストレスから卵巣機能不全にならないためには?」
(1) 生理の周期に常に注意する
(2) 喫煙や偏った食生活など、生活習慣に気をつける
(3) ストレスをため込まない
(4) 気になる生理不順が続いたら、産婦人科で検診されることをお勧めします
『主婦を襲うストレスの恐怖(2)
本当は怖い肩こり〜重圧〜』
M・Sさん(女性)/56歳(当時) 主婦
主婦のM・Sさん(56歳)は、このほど夫が定年退職。これからは夫婦水入らずで、第二の人生を楽しもうと思っていました。しかし、根っからの仕事人間だった夫は、これといった趣味もなく、時間を持て余す毎日。今まで頑張って働いてくれたのだからと、M・Sさんは温かく見守ることにしますが、この頃からこれまで感じたことのなかった肩こりを感じるようになります。歳のせいかと思っていた彼女ですが、やがてさらなる異変が現れます。
(1)肩こり
(2)頭痛
(3)膝が震える
(4)動悸
主人在宅ストレス症候群
<なぜ、肩こりから主人在宅ストレス症候群に?>
「主人在宅ストレス症候群」とは、その名の通り、常に夫が家にいる状態が妻のストレスとなって様々な症状を引き起こす病。高血圧や狭心症をはじめ、最悪の場合、うつ状態などの精神疾患を引き起こすこともあるのです。そして、この病は60歳以上で、夫と二人暮しとなった妻がかかりやすいと言われています。M・Sさんがこの病になったきっかけは、夫の定年退職。それまで夫を送り出した後、一人の時間を自由に過ごしていた彼女。ところが一日中、夫が家にいることが、M・Sさんにとって思った以上にストレスとなっていったのです。そして、そのストレスのせいで、ある神経が異常をきたし始めました。それは自律神経。自律神経とは、自分の意思とは無関係に臓器や器官を調節している神経です。そして、この自律神経の一つに、交感神経という神経があります。この神経は起きている時や運動する時に働き、体を緊張状態にさせるもの。M・Sさんの場合、夫が家にいるストレスが、なんとこの交感神経を刺激し続けたのです。その結果、彼女の肩や頭部の筋肉は常に緊張状態となり、肩こりや頭痛を引き起こしました。しかし、まさか夫が病の原因だとは思いもしなかったM・Sさん。これこそが主人在宅ストレス症候群の落とし穴。そして最後の瞬間、たまりにたまったストレスで、膝が震え激しい動悸が胸を打ちました。あの時、必要以上に刺激された交感神経は、ついに心臓の鼓動をも異常なまでに活発にしていたのです。現在、M・Sさんは夫と別居。病と向き合いながら、回復することに専念しています。主人在宅ストレス症候群が報告されたのは、比較的最近のこと。しかし今後、団塊の世代が一斉に定年退職を迎えます。その時、患者が激増する可能性があると言われているのです。
「ストレスから主人在宅ストレス症候群にならないためには?」
(1) 夫婦お互いをよく理解する
(2) お互いに趣味を持つ
(3) お互いを尊重し何でも言い合える関係を作る
(4) もし、体に違和感をもったなら、心療内科で相談することをお勧めします
『主婦を襲うストレスの恐怖(3)
本当は怖い頻尿〜忍耐〜』
K・Mさん(女性)/46歳(当時) 主婦
主婦のK・Mさんは、同居する姑から毎日嫌みを言われ、ストレスはたまる一方。そんな彼女にとって、ストレスのはけ口は主婦仲間との食べ歩き。豪華な料理を前に、家庭の愚痴をこぼしては日頃の憂さを晴らしていました。それでも肥満を心配し、標準体重を超えないよう気をつけていたK・Mさん。そんな彼女がもう一つ気になっていたのは頻尿。夜中に度々トイレに起きるようになったのです。歳のせいと軽く考えていたK・Mさんですが、その後も気になる症状が現れます。
(1)頻尿
(2)足の裏の違和感
(3)靴ずれが化膿する
心筋梗塞
<なぜ、頻尿から心筋梗塞に?>
「心筋梗塞」とは、心臓に通じる冠状動脈に血栓ができ、動脈が詰まり、心臓の筋肉が壊死する病。K・Mさんが突然心筋梗塞に見舞われたきっかけは、姑からのストレスでした。長年に渡り姑から嫌みを言われ続けた彼女にとって、食べることだけが唯一のストレスのはけ口。ところが、そのストレス解消法がある病を引き起こしてしまったのです。それは、糖尿病。糖尿病とは、血液中の糖分が脂肪や筋肉に蓄えられず、血液が糖分だらけとなる病。私たちの身体は食べ過ぎると、血液中に糖分が余計に増えてしまいます。この糖分を脂肪に蓄える役目を果たすのが、膵臓で作られるインスリン。ところがK・Mさんの場合、度重なる間食によって膵臓が酷使されていました。お陰で疲れ果てた膵臓は、インスリンの分泌を一気に低下。その結果、血液が糖分で一杯となり糖尿病となってしまったのです。この血液の異常が慢性化してしまうと様々な合併症が引き起こされ、最悪の場合、死に至ることもあるのです。K・Mさんはストレスによる間食から糖尿病を発症。心筋梗塞に至りました。しかし彼女は常に体重を計り、肥満にならないよう気をつけていたはず。そんな彼女がなぜ糖尿病になってしまったのでしょうか?その理由は体型にありました。K・Mさんは一見やせているように見えながら、下っ腹だけが太る「隠れ肥満」だったのです。この体型は内臓脂肪型肥満であるケースが多く、K・Mさんも内臓のすき間にたっぷりと脂肪をため込んでいました。そのため、自分が肥満であることに気づかなかったのです。こうして密かに糖尿病を発症したK・Mさん。病気はじわじわと進行するため、初めは全く症状が現れません。そんな彼女の糖尿病を加速させたのが、姑から毎日のように受けたストレス。ストレスを受けた時、K・Mさんの体内ではアドレナリンが分泌。すると、脂肪が再び糖分へと分解されてしまい、血液中の糖分がさらに増加。身体を蝕んでいきました。これこそがストレスと糖尿病の最も恐ろしい関係。そして10年という時を経て、ようやく症状が現れ始めました。それが夜中度々トイレに起きた、あの頻尿。あれは血液中に増え過ぎてしまった糖分を、腎臓が一緒に強制的に排出しようとしたため。K・Mさんが足の裏に違和感を感じたり、靴ずれの化膿に気づかなかったのは、足の毛細血管の血流が糖分により著しく悪化したため。その影響で末梢神経がダメージを受け、感覚が麻痺してしまったから。こうなると免疫力も低下してしまうため、壊疽(えそ)に陥ってしまうケースも少なくありません。この時点で適切な処置を受けていれば、命は助かったかも知れません。糖分だらけの血液は長年に渡り、全身の血管を痛めつけ、心臓の冠動脈でも動脈硬化が進行。そして姑の陰口にK・Mさんのストレスが頂点に達したその時、刺激を受けた交感神経が心臓の冠動脈を一気に狭め、そこに血栓ができたことで完全に血流がストップ。彼女は死に至ったのです。現在、日本の糖尿病人口はおよそ1600万人。そして女性の糖尿病予備軍は、わずか5年の間に30代以上の全ての世代で増えているのです。
「ストレスによる過食から心筋梗塞にならないためには?」
(1) 食べることでストレスを解消しない
(2) 運動などでストレスを解消する
(3) バランスのとれた食生活を心がける
(4) もし、体に違和感を持ったなら、病院で検診することをお勧めします