診察室
診察日:2005年8月23日
テーマ: 『本当は怖い高血圧〜見えなかった異変〜』
『本当は怖い乾いた咳〜漆黒の悪魔〜』

『本当は怖い高血圧〜見えなかった異変〜』

T・Yさん(女性)/52歳(当時) 専業主婦
専業主婦のT・Yさんは、すでに一人息子も独立し、今は夫と二人暮らし。そんな彼女のもとに10年ぶりの同窓会の案内状が届きました。ここ数年で体重が増え顔に余分な肉がついてきたことが気になるT・Yさんは、この機会にとダイエットを決意。早速フィットネスジムに体験入会しますが、血圧を測ってみると以前より30も高くなっていました。これも太り過ぎが原因に違いないと思った彼女は、ダイエットに励み、以前より体調が良くなったように感じていましたが、やがて、奇妙な異変が続きます。
(1)高血圧
(2)いびき
(3)指輪が入らない
(4)顔が変わる
先端巨大症
<なぜ、高血圧から先端巨大症に?>
「先端巨大症」とは、何らかの原因で脳の下垂体という部分に腫瘍ができてしまい、発育を促す成長ホルモンが過剰に分泌。その結果、手足や内蔵、顔が肥大してしまう病気です。この先端巨大症で、最もはっきり症状として現れるのが、顔の変化。先端巨大症の患者の顔を昔のものと比較すると、明らかに顔のパーツが大きくなっています。その特徴は主に4つ。1つ目は、唇が厚くなること。2つ目は、鼻が横に広がり、大きくなること。3つ目は、額が突き出してくること。そして4つ目の特徴は、下あごがせり出してくること。しかし、この顔の変化は、およそ10年間かけてゆっくり進行するため、自分自身はおろか、家族さえも気づくことが難しいのです。そして病の異変は、顔だけに止まりません。それがあのイビキ。過剰なホルモンがT・Yさんの舌を肥大させ、気道を圧迫したことで起こったのです。さらに指輪が入らなかったのも、手のひらの皮膚や骨が厚くなったため。そう、この病はその名の通り、体の先端から肥大化していくのです。しかし、こうした外見の症状より恐れなければならないのは、血管の拡大。全身の血管の厚みが増し、血液の通り道が極端に狭くなることで、血圧が高くなるのです。T・Yさんの高血圧も、先端巨大症が原因でした。これこそが、この病の最大の恐ろしさ。彼女の血管の通り道は、異常に狭くなり、血栓ができやすい動脈硬化に陥っていたのです。そして、自分の顔の変化にショックを受けたT・Yさんの血圧は、急上昇。この時、すでに異常な動脈硬化を起こしていた血管が、ついに血栓で詰まり、心筋が壊死。心筋梗塞を発症してしまったのです。先端巨大症を放っておくと、死亡する危険性は普通の人の2倍以上、10年も寿命が短くなると言われているのです。
「先端巨大症を早期発見するためには?」
(1)顔の変化に注意
(2)手や足が大きくなるなど、体のサイズの変化に注意
(3)こうした症状に加えて、もし高血圧になっていたら、 迷わず病院で検診されることをおすすめします。
『本当は怖い乾いた咳〜漆黒の悪魔〜』
K・Yさん(女性)/ 50歳(当時) 主婦
都内のファミリーレストランで働くK・Yさんの健康法は、よく歩くこと。安売りがあると聞けば隣町のスーパーでも歩いて出かけ、犬の散歩も朝夕欠かさず続けていましたが、ある日突然、乾いた咳が出て止まらなくなりました。特に気にかけることもなかった彼女ですが、その後も様々な異変が襲いかかります。
(1)渇いた咳
(2)微熱
(3)背中とわき腹のチクチクした痛み
(4)背中とわき腹の激しい痛み
肺腺癌(はいせんがん)
<なぜ、乾いた咳から肺腺癌に?>
「肺腺癌」とは、様々な種類の肺癌の中でもおよそ50%をしめる、最も発生頻度の高い肺癌です。主な原因として考えられているのがタバコ。そのほか、最近大きな社会問題化しているアスベストの吸引も、原因の一つと言われています。しかし、タバコやアスベストと縁がなく、健康的な暮らしを送っていたK・Yさんが、なぜ肺腺癌になってしまったのでしょうか?その大きな要因として考えられているのが、排気ガスなどに多く含まれ、空気中にまき散らされている粉じん。この粉じんが人間の肺に入り込み、蓄積してしまうことで、肺癌が発生してしまうと考えられているのです。「肺癌での死亡リスク」調査でも、山間部に比べ、都市部の大通り沿いでは実に25倍も肺癌で死亡する危険性があるのです。どこに行くにも、交通量の多い道ばかり歩いていたK・Yさん。さらに犬の散歩も、朝夕の車のラッシュ時に集中。そのため、彼女は排気ガスなどに含まれる粉じんを人一倍多く吸い続けていました。そして、長年に渡って蓄積した粉じんは、ついに肺の奥で癌細胞を発生させ、増殖を始めたと考えられるのです。その最初の警告が、あの乾いた咳。肺の奥の気管支が、癌細胞に触れ刺激されたため、咳が出たのです。1ヶ月以上にも渡って続いたこの乾いた咳が、肺癌の大きな特徴。しかし、肺癌は微熱も伴うため、乾いた咳をK・Yさんは風邪と勘違いしてしまいました。これが肺腺癌の落とし穴。そして、肺腺癌による背中とわき腹の痛みも、肋間神経痛(ろっかん しんけいつう)の痛みとよく似ているため、K・Yさんと同様に、勘違いしてしまう人が多いのです。この思い込みで、3ヶ月も癌を放置してしまったK・Yさん。ようやく病院を訪れた時、すでに癌細胞は肺全体に広がり、もはや手術することすらままならず、彼女は帰らぬ人となったのです。日本では今、毎年6万6千人もの人が肺癌を発症しています。特に注意しなければならないのは、排気ガスだけではなく、他の様々な粉じんも肺癌の原因となってしまうこと。しかし、誰も粉じんから100%逃れることはできません。だからこそ、50歳を超えたら、年に一度は必ず癌検診やCTで早期発見を心がけることが重要なのです。
「肺腺癌にならないためには?」
(1) 粉じんを吸い込みそうな行動を極力避ける
(2) 禁煙
(3) 空気のきれいな場所での運動が大切
(4) もしちょっとでも体に違和感を感じたら、 CTスキャンなどで詳しく検査されることをおすすめします。