診察室
診察日:2006年5月23日
テーマ: 『本当は怖いホクロ〜黒い悪魔〜』
『本当は怖い鼻風邪〜悪魔が住む洞窟〜』

『本当は怖いホクロ〜黒い悪魔〜』

Y・Mさん(男性)/61歳(発症当時) 警備員
妻に先立たれた後、娘夫婦と同居し、定年後も警備員として働いていたY・Mさん。可愛い初孫との時間を楽しみにしていましたが、ある日、足の爪を切っていた時、左足裏のかかとに小さなホクロが出来ているのを見つけました。もともとホクロの多いタイプだったY・Mさんは、さほど気にしていませんでしたが、1年が経った頃から、さらなる異変に襲われ出しました。
(1)足の裏のホクロ
(2)ホクロが大きくなる
(3)ホクロの色が薄くなる
(4)足の付け根にしこり
(5)咳
メラノーマ
<なぜ、ホクロからメラノーマに?>
「メラノーマ」とは、皮膚ガンの一種で、メラニン色素を作る細胞「メラノサイト」がガン 化したもの。ガンの中でも特に転移しやすく、短期間で全身に広がってしまうこともある恐 ろしい病です。メラノーマはあらゆる場所で発症するガンですが、足の裏に出来ることが多 いのが、日本人の特徴。全体の3割を占めます。Y・Mさんの場合も、最初にできた足の裏 の小さなホクロが、実は早期のメラノーマでした。なぜ足の裏にメラノーマが出来るのかは、 はっきりと解明されていません。しかし、Y・Mさんの場合、歩くことにより、足の裏の何 らかの傷に繰り返し刺激を与え続けていたことが原因と推測されます。事実、足の裏のメラ ノーマは、地面にふれない「土踏まず」にできることはほとんどないのです。しかしY・M さんは、たかがホクロと見過ごしてしまいました。とはいえ、それは、色が薄くなり消えか かっていたはず。なのに何故?あれはリンパ球などの免疫細胞がメラノーマを攻撃。そのた め、ガン細胞の数が減り、色が薄くなったのです。しかし、完全にガンが消えたわけではあ りません。生き残ったガン細胞は、リンパ管や血管を通って移動を開始。足の付け根のリン パ節に転移したガン細胞は、ついに肺にまで到達してしまったのです。半年後、ガンは全身 に転移。Y・Mさんは、もう一度、孫を抱きたいという願いもかなうことなく、亡くなって しまいました。あのホクロが大きくなった時点で病院に行っていれば、最悪の事態は避けら れたのに・・・。
「メラノーマにならないためには?」
(1)日頃から自分のホクロの形や色、大きさをチェックしておくことが大切です。
(2)以下の条件に当てはまるホクロは要注意
★いびつな形をしている
★ホクロと自肌との境目があいまい
★色の濃淡がある
★大きさが7ミリ以上
(3)疑わしいホクロがあったら、メラノーマを疑い、迷わず皮膚科で検診されることをおすすめします。
『本当は怖い鼻風邪〜悪魔が住む洞窟〜』
S・Fさん(女性)/52歳(発症当時) 主婦
商店街の一角で、小さな文具店を営むS・Fさん。ここ数日、やけに鼻水が出るのが気になっていました。それは黄緑色の鼻水で、しかも不思議なことに右の鼻からしか出てこないのです。鼻水ぐらい…と、特に気にすることもなかった彼女ですが、その後も更なる異変が襲います。
(1)鼻水(右の鼻のみ)
(2)鼻づまり(右の鼻のみ)
(3)右頬に鈍い痛み
(4)右目の痛み
(5)右目が開かない
副鼻腔真菌症(ふくびくう しんきんしょう)
<なぜ、鼻風邪から副鼻腔真菌症に?>
「副鼻腔真菌症」とは、真菌、いわゆる「カビ」が、鼻の奥に広がる副鼻腔という空洞に住み着くことで様々な症状を引き起こす病。原因となるカビの中でも、最も多いのがアスペルギルスです。このカビは、家の中の暗く湿った場所など、どこにでもいる、ごく普通のカビです。築30年、S・Fさんの文具店は、暗くて風通しが悪く、カビが生息するには絶好の環境。しかも、掃除嫌いのため、カビの栄養源となるホコリやゴミが溜まり、カビが大増殖。1日中、店の中にいたS・Fさんは、大量のカビの胞子を吸い続けていたのです。鼻から体内に入った胞子は、鼻の奥に広がる右側の副鼻腔に入りこみました。実はこの副鼻腔、温度と湿度が常に一定なため、カビが繁殖するのに最適な場所。そのため、S・Fさんの副鼻腔内では、恐ろしいことが起き始めます。なんと、カビが発芽し、どんどん増殖していったのです。右の鼻にだけ起きた、あの鼻水、鼻づまり、頬の痛み。それは、いずれも右側の副鼻腔で生えたカビが原因で起きた症状でした。しかし、通常の副鼻腔真菌症の場合、症状がこれ以上、悪化することはほとんどありません。では何故、S・Fさんは失明にまで至ってしまったのでしょうか?そこには、彼女自身も気づいていなかった、もう1つの病の存在がありました。それは・・・糖尿病。S・Fさんは知らず知らずのうちに、糖尿病を患っていたのです。彼女のような糖尿病の患者が副鼻腔真菌症にかかってしまうと、免疫力が弱いため、カビはますます増殖。勢力を拡大し、目の神経まで冒されることがあるのです。副鼻腔真菌症は、初期の段階で治療を行えば、ほとんどの場合は完治します。しかし、逆に目の神経にまで至ると治療は非常に困難。最悪の場合、カビが眼を通って脳にまで到達し、死に至ることもあるのです。
「副鼻腔真菌症にならないためには?」
(1)病の元となるカビを発生させないことが大切です。
掃除や換気をこまめにする、洗濯物は室内で干さないなど。
(2)湿気が多い時期はこまめに換気をしましょう。
もし黄色い鼻水が1週間以上続いたら、迷わず病院で検診されることをおすすめします。