診察室
診察日:2007年5月8日
テーマ: 「本当は怖い花粉症〜招かれざる来訪者〜」
「本当は怖い手のしびれ〜消える悪魔〜」

『本当は怖い花粉症〜招かれざる来訪者〜』

K・Fさん(女性)/45歳(発症当時) 教員
小学校5年生を担任するK・Fさんは、20年来の花粉症。それも周りの人より長引き、夏前まで続くため、毎年この時期は憂鬱でしたが、特に対策はしていませんでした。クラス担任にとって新学期まもないこの時期は特に忙しく、自分の花粉症のことなど後回しにせざるを得なかったのです。そんな中、食事のとき、急に口の中にムズムズとしたかゆみを感じたK・Fさん。かゆみは数十分で治まったため、特に気に留めることもありませんでしたが、その後も更なる異変が彼女に襲いかかりました。
(1)口の中のかゆみ
(2)口の中がイガイガする
(3)じんましん
口腔(こうくう)アレルギー症候群
<なぜ、花粉症から口腔アレルギー症候群に?>
「口腔アレルギー症候群」とは、ある特定の果物や野菜を食べた時に起こるアレルギー反応のこと。この病になると、口の中や唇だけでなく、目、鼻、あるいは全身で、かゆみやイガイガ、ヒリヒリする刺激感などの症状が現れます。最悪の場合、劇症型のアレルギー反応であるアナフィラキシーショックを引き起こし、あらゆる場所が腫れあがり、呼吸困難や血圧低下で死を招くこともあるのです。最近増加傾向にあると言われる、この口腔アレルギー症候群。特にこの病は、子供に発症する事も多いため、学校でも注意が叫ばれているのです。では、一体なぜ口腔アレルギー症候群になってしまうのでしょうか?実はその発症にこそ、花粉症が大きく関係していたのです。花粉症は、本来無害であるはずの花粉のタンパク質を、身体が有害であると過剰反応することでおきる病。いったん花粉症になると、花粉に触れる度にかゆみを引き起こす物質が放出され、口や鼻などの粘膜に炎症を引き起こしてしまいます。そして実は、ある特定の果物や野菜に、この花粉のタンパク質とよく似た形のタンパク質が含まれているのです。そのため身体が野菜や果物のタンパク質を、花粉のものと勘違いし、様々なアレルギー反応が起きてしまうことがあるのです。K・Fさんの場合も、果物や野菜を花粉と勘違いした身体がアレルギー反応を起こしていました。しかし、花粉症を患っている人全員が、この病を患うわけではありません。では、一体なぜ口腔アレルギー症候群になってしまうのでしょうか?口腔アレルギー症候群発症のきっかけは、長期に渡って花粉症を放置していること。さらに過労や風邪などによる、抵抗力の低下が引き金となると考えられています。K・Fさんはこの2つの条件にあてはまっていたため、口腔アレルギー症候群を発症してしまったと考えられるのです。そして、さらにこの病にはもう一つ、大事な注意点があります。それは自分がどの花粉症にかかっているかということ。実は花粉症の中には、口腔アレルギー症候群を発症させやすいタイプがあるのです。季節によって分けられる代表的な花粉症を見ると、日本人で最も多く患者がいるのは2月から4月にかけてのスギ・ヒノキ花粉症ですが、他にも様々なタイプがあります。そんな中で最も危険なのが、4月から6月に症状が出るシラカバ・ブナ花粉症です。その理由は、この花粉症の人がアレルギーを起こしやすい食べ物の数が多いということ。スギ・ヒノキが1種類なのに対して、シラカバ・ブナ花粉症の人は、20種類以上もの食べ物に注意が必要なのです。口腔アレルギー症候群から身を守るためには、病院で検査を受け、自分がどの花粉症にかかっているかを知ること。そして、たかが花粉症と放置せず、きちんと治療を受けることが大切なのです。

※出典「食物アレルギー」監修:斎藤博久 編集:海老澤元宏
『本当は怖い手のしびれ〜消える悪魔〜』
K・Hさん(女性)/35歳(発症当時) OL
同じ課に配属された10歳年下の後輩に猛アタックし、見事、結婚へとこぎつけたK・Hさん。その数日後、残業に励んでいた彼女は、なぜか右手の指先にしびれを感じました。しびれは生活に支障をきたすほどではなく、1週間後にはすっかり治まったK・Hさん。しかし、ある日、入浴中に再び右手がしびれ、今度は感覚が鈍くなっている気がしました。湯上がりの身体の火照りが冷めていくと同時に、手のしびれも治まりましたが、その後も更なる症状が彼女を襲います。
(1)手のしびれ
(2)手がしびれ、感覚がにぶる
(3)右目の視界がぼやける
(4)両足のひどい疲労感
(5)膝下の感覚が無くなる
多発性硬化症
<なぜ、手のしびれから多発性硬化症に?>
「多発性硬化症」とは、厚生労働省で難病に指定されている病。1970年以来、増加の一途を辿り、現在、日本に約1万2千人の患者がいるといわれています。また、25歳から35歳で発病することが多く、女性の患者数は男性の約2倍といわれています。詳しいメカニズムは分かっていませんが、通常外敵から身を守るはずの免疫が、何らかの原因で突如暴走。脳や脊髄などの神経を覆う皮膜を破壊。体の各部分への情報伝達に支障をきたし、様々な症状を引き起こしてしまうのです。発症の引き金として現在考えられているのは、主に風邪などの感染症と、強いストレス。K・Hさんもこの条件に当てはまっていました。彼女の場合、1人で何から何まで準備をしたあの結婚式をきっかけに、急激な生活環境の変化がストレスとなり、免疫力が低下。そして軽い感染症をきっかけに、病を引き起こしたと考えられます。この病は、早期のうちは小さな症状が現れては消えるのを繰り返すことが多いのが特徴。K・Hさんを襲った多発性硬化症の典型的な初期症状が、「視界のぼやけ」と「手のしびれ」。どちらも1週間から2週間で消えてしまったため、彼女は病の存在に気付けませんでした。しかし、症状は無くとも病は彼女の体の奥に潜み続け、1年後、再び現れた時には、「両足の疲労感」と「膝下の麻痺」という重篤な症状を突然もたらしたのです。では、この病に気付くためには、どうしたらいいのでしょうか?実は早期発見のポイントは、K・Hさんの身にも起きていました。それが…あのお風呂での手のしびれ。実はこの病にかかると、お風呂などで体温が上昇した際、脳内の信号伝達に使われる電気信号が不安定になります。すると、正確な情報が身体の各所に伝わらなくなり、一時的に症状が現れることが多いのです。これこそ多発性硬化症の最大の特徴。手のしびれ、視界のぼやけなどが、お風呂に入った時に出たら、この病を疑うことが重要なのです。その後、K・Hさんは薬による治療を続け、幸い生活には差し支えがないほどにまで回復を遂げています。