診察室
診察日:2007年8月7日
テーマ: 「本当は怖い腰痛〜蘇る魔の追憶〜」
「本当は怖い爪の切り方〜負のスパイラル〜」

『本当は怖い腰痛〜蘇る魔の追憶〜』

K・Aさん(女性)/51歳 専業主婦
OLだった20代の頃は毎日ハイヒールを履いていたものの、結婚後はもっぱらゆるめの靴やおばさんサンダルで過ごしていたK・Aさん。最近、腰に重い痛みを感じるようになった彼女は、同居している息子の嫁に誘われ一緒にウォーキングを始めたところ、何となく身体が軽くなり腰痛が治まっているのを感じました。気を良くしたK・Aさんは、毎日欠かさずウォーキングを続けるようになりますが、1週間後、再びあの腰痛がぶり返し、さらなる症状まで出始めました。
(1)腰痛
(2)腰の張りが背中全体に広がる
(3)ふくらはぎから下が痛む
外反母趾(がいはんぼし)
<腰痛が病のサイン!外反母趾が進行すると大変なことに・・・>
「外反母趾」とは、その名の通り、足の親指が体の外側、すなわち、小指の方向に曲がってしまう病。放置すると、K・Aさんのように激痛で歩けなくなってしまうこともあります。外反母趾は、圧倒的に女性に多く、実に男性の10倍にもなります。原因は、遺伝や女性特有の関節の柔らかさなど様々ですが、中でも影響が大きいのがハイヒールなどの踵の高い靴。そもそも足の指の骨は、じん帯によってアーチ状にしっかりと束ねられています。それがハイヒールなど、かかとの高い靴を履くと、足先に体重の多くがかかることで、じん帯が疲弊し緩んでしまいます。その結果、じん帯の支えを失った5本の骨が広がり、親指が回転し始めます。さらに先の尖った靴によって横から圧迫されることで、親指がどんどん小指側に変形してしまうのです。実はK・Aさんも、20代のOL時代はハイヒールの毎日で、すでに外反母趾になっていました。結婚後は、ハイヒールから開放され、ゆるい靴を履くことで痛みから逃れていたため、外反母趾のことなどすっかり忘れていました。これこそ、この病の落とし穴。実は外反母趾は、ある程度進行してしまうと、サンダルやゆるい靴などに変えてもじわじわと悪化してしまうのです。正常な状態であれば、歩くときには、親指に最も体重がかかり、そこで踏ん張って蹴りだします。しかし、外反母趾になってしまうと、親指が回転しているため、かかった力は、親指をより曲げるよう作用してしまうのです。さらに、踏ん張るときの力が中指など他の指にも分散。足の裏に不可思議なタコが出来てしまいます。これこそ親指だけではなく、中指などに異常な力がかかってしまっている証。つまり、このようなタコがある人は、外反母趾になっている可能性が高いのです。こうして、20年の時を経て、徐々に悪化したK・Aさんの外反母趾は、ついに新たな症状を引き起こします。それが、あの腰痛。外反母趾だと、無意識に痛む足をかばった歩き方になるため、体のバランスが崩れてしまいます。その結果、腰にアンバランスな力がかかり、それが腰痛を引き起こしたのです。事実、腰や膝などの痛みの影に、外反母趾が潜んでいることが多いと言われます。良かれと思ったウォーキング。実はこれも逆効果でした。足に過度の圧力をかけることで外反母趾を悪化させ、ひいては骨格全体にも悪影響を及ぼしていきました。そして、久しぶりに履いたハイヒール。これが決定的な事態を招いてしまいます。圧迫された彼女の親指は、ついに脱臼してしまったのです。外反母趾はハイヒールを履く若い人だけのものと思われがちですが、実際の患者数を見てみると、意外にも50代以降に多いことが分かります。これはK・Aさんのように、若い時に、たかが外反母趾と放っておいてしまったため、知らず知らずのうちに悪化し、ひどい状態になったからと考えられるのです。
『本当は怖い爪の切り方〜負のスパイラル〜』
T・Eさん(女性)/32歳 OL
結婚を間近に控えた大手商社の受付嬢T・Eさん。ある日、足の爪がひっかかりストッキングが破れてしまった彼女は、それ以来、爪の両端まで白い部分は完璧に切るようにしますが、3ヵ月が過ぎたころ、なぜかつま先に針で刺されたような痛みが走るのを覚えます。ストッキングを脱いで見てみると、爪の端が親指の肉に食い込み、親指の脇が赤く腫れ上がっていることに気づいたT・Eさん。そこで以前にも増して爪の両端を深く切り落としたところ、新たな異変に襲われます。
(1)親指の脇が赤く腫れ上がる
(2)爪の端から膿みが出る
(3)爪の端から粒状に肉が盛り上がる
陥入爪(かんにゅうそう)
<なぜ、悪い爪の切り方から陥入爪に?>
「陥入爪(かんにゅうそう)」とは、爪の角がトゲのようになって肉に刺さり、炎症を引き起こす病。放置すれば、最悪の場合、爪が肉に食い込み細菌感染を起こすこともあります。陥入爪になりやすいのは足の親指。軽症も含めると、成人の10人に1人がこの病を患っていると言われています。ではなぜ、T・Eさんは陥入爪になってしまったのでしょうか?その原因は、彼女の爪の切り方にありました。T・Eさんは、爪の両端を白い部分が完全になくなるまで切っていました。つまり、ずっと深爪の状態を続けていたのです。このように、爪の両端を深く切り落としてしまうと、切った爪の下の柔らかい組織が、地面からの圧力で盛り上がってきます。すると爪は、盛り上がった肉の圧力で、どんどん巻き始め、皮膚に刺さるようになってしまうのです。そうとも知らず、T・Eさんは爪が食い込んだらすぐに切るということを繰り返していました。これがこの病の落とし穴。確かに食い込んだ爪を取り除くと、一時的に痛みは治まります。しかし、これが結果的に病を悪化させ、痛みから再び深爪をするという悪循環を生み出していたのです。でも爪が食い込んだときに、思わず深爪をする人はたくさんいるはず。それなのになぜT・Eさんだけが陥入爪になってしまったのでしょうか?実は彼女も仕事柄、ハイヒールの毎日。そう、外反母趾だったのです。外反母趾になると、親指が回転します。すると、親指の爪の端に非常に大きな圧力がかかり、肉に食い込みやすくなってしまうのです。陥入爪は、登山やテニス、スキーなど爪に強い圧力がかかるスポーツなどでも、発症しやすいと言われていますのでご注意下さい。病院を訪れてから1年。今も爪にワイヤーを入れ、元通りにする治療を続けているT・Eさん。完治までもう少しの辛抱です。