診察日:2008年3月11日
疲労の全てを徹底解明スペシャル
テーマ:「症例 心筋梗塞〜徳光和夫さんの場合〜」
「本当は怖い疲労〜日常に潜む見えない悪魔〜」
『症例 心筋梗塞〜徳光和夫さんの場合〜』
徳光和夫さん(男性)/67歳(現在)
フリーアナウンサー
今から7年前、ちょうど60歳の還暦を迎えたばかりの頃、突然病に倒れた徳光和夫さん。当時、週に6本のレギュラー番組を抱えていた彼は、休みはほとんどなく、収録が終っても別の打ち合せで仕事が深夜に及ぶこともしばしば。さらにストレス解消法として、徹夜で麻雀をし、タバコは1日に100本以上。毎日の睡眠時間は、4、5時間。美味しいものには目がなく、魚の肝や魚卵など脂っこいものが大好きという生活を送っていました。そんなある日、ゴルフを終え、夕食をとりながら仕事の打ち合せをしていた徳光さん。しかしなぜか食事が美味しく感じられず、胃の辺りに、えも言われぬ不快感を覚え始めます。本人はその異変を食事が合わなかっただけと思っていましたが、症状はますますひどくなっていきました。
(1)胃の不快感
(2)吐き気
(3)大量の発汗
(4)衰弱して立ち上がれない
急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)
<なぜ、胃の不快感から急性心筋梗塞に?>
「急性心筋梗塞」とは、心臓を動かす血管「冠状動脈」が、何らかの原因で突然詰まり、血流がストップ。心臓の筋肉が壊死し、最悪の場合、命を失う恐ろしい病。現在、日本では毎年約25万人がこの病で倒れ、そのうち4万人もの人が亡くなっています。そんな急性心筋梗塞に襲われ、緊急手術を受けた徳光さん。手術の時、徳光さんの心臓は右の冠状動脈が完全に詰まっており、もはや心臓の約4割に血が通っていませんでした。もう少し処置が遅れていたら最悪の事態もありえた、とても危険な状態だったのです。医師の適切な判断のおかげで、幸い一命は取り留めた徳光さん。しかし発症から16時間も経過していたため、その後3日に渡り、集中治療室での治療を受けることになってしまったのです。それにしても、それまで何の前兆もなかった徳光さんが、なぜ突然、心筋梗塞になってしまったのでしょうか?一番の原因は、食生活にありました。徳光さんのように、コレステロールが高い食事ばかりしていると、血管内では血中コレステロールが高い状態になってしまいます。さらに、もうひとつ悪しき生活習慣が喫煙です。喫煙の影響で傷ついた血管の壁に、コレステロールが侵入。すると不安定プラークというコレステロールの塊が作られてしまいます。徳光さんの血管壁にも不安定プラークができていたと考えられるのです。しかし、この段階ではまだ血流が保たれています。そのため徳光さんは動悸や息切れといった、心筋梗塞の前段症状を訴えることはありませんでした。ところが、一度この不安定プラークが破裂すると、そこに集まってくる血小板などにより、血管が急激に塞がれてしまうのです。ではなぜ、徳光さんの血管内に潜んでいた不安定プラークは、突然破裂したのでしょうか?その大きな要因の一つと考えられるのが、多忙による疲労とストレス。疲労やストレスは、心拍数をあげるホルモンの分泌を促し、血圧を上昇させます。そして勢いを増した血流の影響で不安定プラークが破裂。冠状動脈がせき止められてしまったと考えられるのです。徳光さんを死の淵に追い詰めた犯人は、無謀ともいえるその生活習慣と、働き過ぎによる疲労とストレスだったのです。手術から1ヵ月。徳光さんは無事、仕事に復帰することができました。そして今、「今回は本当に助かったというより助けられた。生きているというより生かされていると実感している」と語ってくれました。
『本当は怖い疲労〜日常に潜む見えない悪魔〜』
A・Mさん(男性)/43歳
会社員
家電メーカーの営業課長、A・Mさんは、新商品販売のチームリーダーに抜擢されてから生活が一変。毎月の残業は100時間を超え、慢性的な疲れを覚えるようになっていました。それでも新商品の売り上げが伸びないため休むに休めなかったA・Mさん。疲れから目がしょぼしょぼし、肩がこって仕方がないなどの症状が出ても、チームリーダーとしての責任感から、部下に疲れを見せることも出来ませんでした。そんな激務が続くこと1ヵ月、新商品が急に売れ始めると、それまでのひどい疲れが一気に吹き飛んだ気がしたA・Mさん。やがて、彼を小さな異変が襲い始めます。
(1)慢性的な疲労
(2)目の疲れ
(3)肩こり
(4)手に力が入らない
(5)暑くもないのに汗が出る
(6)寝付きが悪い
(7)疲れを感じない
脳内出血
<なぜ、外慢性的な疲労から脳内出血に?>
「脳内出血」とは、何らかの原因によって脳の動脈が破れて出血。脳の組織が壊死してしまう病。喫煙や食生活などの生活習慣、そして加齢が大きな要因と考えられています。しかしA・Mさんの場合、生活習慣にはほとんど問題はなく、年齢も43歳という若さ。さらに健康診断でも異常なしと、どの要因も当てはまりません。ではなぜ脳内出血を引き起こしたのでしょうか?その原因こそ「疲労」。なんとA・Mさんは、日常生活の中で誰しもが感じたことのある疲労が蓄積したことで突然、死に至ってしまったのです。では疲労とはいったい何なのでしょうか?私たちの体は生命活動を維持するため、常にエネルギーを作り続けています。その際、エネルギーと一緒に生み出されるのが、「活性酸素」という酸素が有害な形に変化した物質。厄介なことにこの活性酸素には、周りの組織や細胞を傷つける働きがあります。実はこの細胞が傷ついた状態こそ、疲労の正体なのです。体内で生じたこの疲労が信号となって脳に伝わると、私たちは「疲れた」と感じます。これがいわゆる疲労感。「だるい」といった感覚で活動を抑制し、無理をしないよう知らせてくれます。A・Mさんを襲ったあの疲労感こそ、痛みや発熱などと同様、体の異変を教えてくれるSOSだったのです。ところがA・Mさんは、大きな仕事を任されていたため、休むに休めませんでした。その結果、長時間のデスクワークに必要な大量のエネルギーを生み出すのと同時に、活性酸素も大量に発生。全身のあらゆる細胞にダメージが及び、「目がしょぼしょぼする」「肩がこる」といった症状を招いてしまいました。しかし、この程度の疲労感は、誰もが経験するもの。A・Mさんの場合も、ここでしっかり疲れを取っていれば、大事には至らなかったはず。ところがその矢先、担当していた商品の販売が一気に好転。同時にA・Mさんは疲れが吹き飛ぶような充実感を覚えました。実はこれこそ、疲労感のワナ。意欲や充実感など高揚した気分には、疲労感を覆い隠す働きがあります。つまり本当は疲れているのに、それを感じることができないという異常な状態になってしまうのです。その結果、さらに無理が出来るようになってしまったA・Mさん。すると、異変は次の段階へと移行します。体に「休め」という信号を出す副交感神経と、「働け」という信号を出す交感神経が、常にせめぎあっている状態が続き、自律神経のバランスが崩れていったのです。こうしてA・Mさんは、自律神経の働きが末端まで伝わらず、手に力が入らなくなることに。また、体温を調節する自律神経の機能も低下。暑くもないのに汗をかき、さらに眠れるはずの時間でも興奮をつかさどる交感神経が働いていたため、寝つきが悪くなってしまったのです。しかし、A・Mさんは健康診断の「異常なし」という結果から、自分の体調を過信。さらに睡眠を削り、無理を重ねることに。その結果、生じたのが疲れを感じなくなる奇妙な現象。実は絶え間なく届く疲労の信号に脳が慣れ、疲れを全く感じなくなってしまっていたのです。ところがA・Mさんは、疲労感がないのは疲れていないことと勘違い。ついに決定的な事態を招くことに。なんと彼の中で生まれた大量の活性酸素が全身の毛細血管で暴走を始めたのです。特に最ももろい脳の毛細血管と、自律神経を攻撃し、傷つけ始めました。そしてあの運命の瞬間、異例の昇進による興奮で血圧は急上昇。頭を下げ、脳の血流がさらに増えたことで、ボロボロになっていた脳の毛細血管が破裂。A・Mさんは、命を奪われてしまったのです。厚生労働省の最新データによると、A・Mさんと同じく、脳内出血による死亡者数は、1年間で100人以上と最も多く、決して他人事とは言えません。疲れているはずなのに、疲労を感じない。そのギャップが大きければ大きいほど、脳内出血など突然襲ってくる病に注意が必要なのです。