診察室
診察日:2009年7月7日
アルツハイマー病にならないための食習慣スペシャル
テーマ:『症例【アルツハイマー病】〜謎を解く手がかり〜』

『症例【アルツハイマー病】〜謎を解く手がかり〜』

T・Mさん(男性)/69歳 会社経営
50歳を過ぎてからは毎年、健康診断を欠かさず受診し、健康面での大きな問題はなかったT・Mさん。そんな彼に最初の異変が起きたのは、66歳の時。昨日読んだ本をどこまで読んだのか、よく思い出せないのです。その1年後、地図通りに来たつもりなのに、なぜか目的地が見つからなくなります。その3ヵ月後、ついに自宅への帰り道もわからなくなってしまいます。
(1)どこまで読んだか思い出せない
(2)地図が読めない
(3)毎日通っている道がわからない
アルツハイマー病
<なぜ、ある生活習慣からアルツハイマー病に?>
 「アルツハイマー病」とは、脳の神経細胞が死滅し委縮、認知機能が低下してしまう病気。物忘れにはじまり、やがて徘徊などの症状が起こり、最終的には寝たきりになってしまうこともある病です。
 アルツハイマー病を引き起こす要因には、様々な説がありますが、これまでの研究で主に4つの危険因子がわかってきています。それが「加齢」、「遺伝」、「高血圧などの血管性因子」、「生活習慣」です。では、T・Mさんの場合、どんな危険因子があったのでしょうか?
 まずは「加齢」。そもそもアルツハイマー病は、50歳を過ぎた頃から脳の神経細胞が生み出し始めるアミロイドβタンパクという、いわばゴミのようなものが脳にたまることで、神経細胞が死滅、認知機能が低下すると考えられています。発症当時、67歳だったT・Mさんの場合も、脳にアミロイドβタンパクがたまっていたと考えられます。とはいえ、年をとれば、誰もがこの病を発症するというわけではありません。
 そこで重要になってくるのが、「加齢」以外、残り3つの危険因子です。しかし、T・Mさんの場合、「遺伝」、そして「高血圧などの血管性因子」は、あてはまりませんでした。
 では残る「生活習慣」はというと、実は近年、世界中の研究者の間で、生活習慣の中でも特に「食生活」がアルツハイマー病と密接に関わっているのでは、と注目され始めています。
 病を発症する前のT・Mさんの食事をみると、朝食は殆ど毎日パン食、昼食は麺類が中心、夕食ではお酒はあまり飲まないものの、好物は揚げ物料理でした。一見ごく普通に見えますが、こうした食生活と病にまつわる謎を解く手がかりが意外なところにありました。
 それが島根県出雲市で5年前から行われている「高齢者の認知機能と食生活に関する調査」。厚生労働省の研究班が始めたこの調査は、地域在住の高齢者357人を対象に、日々どんなものを食べているかなどを事細かに調べ、認知機能の推移と食事との関係を調べた調査です。その結果、認知機能が低下してしまった人は、食生活に二つの特徴があることが分かったのです。一つは「魚介類をあまり食べない」こと。そして、もう一つが「野菜をあまり食べない」こと。T・Mさんも、認知機能が低下した人と同じく、魚介類と野菜はあまり食べないという同じ特徴が見られました。
 では、なぜ、魚介類や野菜を食べないと認知機能が低下し、アルツハイマー病の危険性が高くなってしまうのでしょうか?まず魚介類は、n―3系脂肪酸が関係していると言われています。n―3系脂肪酸とは、いわゆるDHAやEPAの事。サバやサンマなどの青魚に多量に含まれている脂です。中でも認知機能と深くかかわっていると期待されているのがDHA。DHAは、加齢と共にたまるアミロイドβタンパク、脳の中のゴミを、たまりにくくすると考えられています。野菜も同様。ポリフェノールや抗酸化ビタミンが、同じような働きをするのではと考えられているのです。だからこそ、年齢とともに脳にたまるゴミを少しでも減らし、アルツハイマー病のリスクを下げるためには、魚介類と野菜を積極的に食べることが大切ではないかと注目され始めているのです。
認知機能低下を予防する料理