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2011年6月 7日

四畳半の宇宙

■先週末は僕にとって重要な舞台を二つ鑑賞させていただきました。石原正一ショー「熱海殺人事件」(一心寺シアター倶楽)、そしてもちろんイキウメ「散歩する侵略者」(ABCホール)、です■「熱海殺人事件」は、昨年亡くなったつかこうへいさんの初期の作品にして生涯の代表作。小説や映画になって賞を総なめにした「蒲田行進曲」の方が世間的知名度は上かもしれませんが、つかファンの間で作品の人気投票をすれば、「熱海」の断然1位は間違いないでしょう。73年初演。平凡な殺人事件の背後に潜む社会の矛盾・庶民の切ない心情を暴き出して犯罪史上に残る大事件に仕立て上げるべく、刑事と容疑者が団結して奮闘するというお話。シンプルにして骨太、圧倒的な量の笑いと痛烈な告発のメッセージ・・・時代とのリンクもあって最高にかっこよかったんです■しかも、男3人、女1人の出演者と、机2つに椅子3つさえあれば上演できるため、当時の若い演劇者たちは猫も杓子もこの作品を演りました。例えば、80年代から活躍を始めた関西を代表する4つの若手劇団・・・劇団そとばこまち、劇団新感線、劇団M.O.P.、シュン太郎劇団・・・旗揚げ公演はすべて「熱海」だったのです。80年代関西の小劇場運動はつかこうへいのコピーから始まったといっても過言ではありません■つかさんは90年代以降、「熱海」を様々なスタイルに改変して上演します。主役の部長刑事が女性になったり、ゲイになったり...。しかし今回のつかこうへい追悼企画第一弾「熱海殺人事件」はどうやらオリジナル版をやるらしい。そとばこまちOBである石原さんは、先輩たちの「熱海」にずっと憧れてきたのだから。そうこなくっちゃ!客電が落ちる前に流れ出す白鳥の湖「情景」で、昔みたいにおしっこチビらせてもらいたい!(・・・ちょっとテンション上がっちゃってすみません)・・・そんなノスタルジックな気分満載で劇場に足を運んだオールドつかファンの期待に違わぬ、それは『懐かしの熱海』でした■そして「散歩する侵略者」。2005年初演。SF的設定の中で人間の本質をえぐる作風で注目される前川知大さんの代表作■隣国との戦争の危機が迫る日本の小さな港町に、3人の宇宙人が降り立つ。人間に取り憑いた彼らは、出会った人々からあるものを奪い続ける。それは、「家族」、「所有」、などの『概念』。・・・それは確かに重大な喪失なのですが、同時に、奪われた人たちに結果としてある種の解放がもたらされる、という描写が深く心をえぐります。奪う者と奪われる者が織り成す奇妙な群像悲喜劇。終幕近く、宇宙人が憑依した夫と、夫の変容によって不思議な安らぎを感じるようになった妻との間で行なわれる、ある概念の移動のシーンが感動的です■再々演となる今回、3月の大震災を踏まえた改訂を経て、より危機感が切実に浮き彫りにされたといいます。ゼロ年代日本演劇を代表する作品のひとつなのではないでしょうか■執筆時期にして30年を超える隔たりをもつこれら二つの作品、僕には大きな共通点があるように思われました。《閉ざされた空間に、ある大きな不条理を持ち込むことによって人間の本質を炙り出す》、という仕組みです。《劇的な事件でないと捜査に値しない、とゴネる刑事》、《概念を奪う宇宙人の襲来》■「熱海殺人事件」と「散歩する侵略者」は、まったく次元の違う設定を持ち、テイストの異なる作品です。しかしいずれも、『大きなものについて語ろう』、という情熱を共有していると感じるのです。まあ、これは当たり前といえば当たり前なのかもしれません。でも今回僕は改めて思ったのです。「座布団の上に無限の世界が広がる」と形容される落語と同様、舞台という極端に狭苦しくて不自由な空間だからこそ、演劇は、広大な世界と関わるための翼を獲得して、そこに臨まなければならない、と■翼とは、例えば片方がテーマであり、もう一方が手法です。わ、かっこいいい(艦長)

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