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2015年1月 9日

私の記憶が消えないうちに

■ラジオで耳にした中山千夏さんの「芸能人の帽子」という本が面白そうなのでネット書店を調べていたら、関連書籍で、女優・吉田日出子さんが昨秋出版された「私の記憶が消えないうちに」という本を見つけました。吉田さんは現在71歳。独特のスコンと抜けたような、それでいてセクシーな声と話し方が、清水ミチコさんの絶品物真似でおなじみです。でも、最近ご本人をテレビ・映画などでお見かけしないな、と思ったら、この本の解説によると、数年前から高次脳機能障害の発症により記憶の力が衰え、台詞を覚えることも困難になっておられるのだそうです。そうだったのか■吉田さんと云えば、何といっても音楽劇「上海バンスキング」(初演・1979)の可憐なヒロインが代表作ですね。僕はたしか2度拝見していますが、1981年に京都市教育文化センターで観たのが最初。強烈でした。戦前、新天地を求めて自由都市・上海に渡り、次第に戦争の渦に呑まれてゆく日本のジャズマンたちと彼らのマドンナ的存在だったお嬢様シンガー(吉田)の物語。もう楽しくて哀しくて。特筆すべきは、ジャズマンを演じる俳優たちが、猛特訓を経て自分たちで本格的な楽器演奏をする、という演出です。中でも、お芝居が終わった後舞台の上でのアンコール演奏があって、更に劇場ロビーで、帰ろうとしていたお客様の目の前でサプライズなミニコンサートを開くという趣向が、もう感動的でした■繰り返し上演されてきた名作ですが、2010年、十数年ぶりに東京で上演されています。すでに吉田さんは闘病中でしたが、共演の皆さんのフォローで何とか乗り切られたのだとか。その公演の千秋楽のロビーコンサートの様子が、動画サイトで見られます。主な役どころは初演のまま、串田和美さん、小日向文世さんがサックスを、笹野高史さんがトランペットを奏でる中、吉田日出子さんが心底楽しそうに歌うテーマ曲「ウェルカム上海」。お馴染のイントロのところでもう、僕の目の奥はじわーっとなるのでした。出来ることなら吉田さんが健康を回復され、もう一度あの作品を観たい、と思う演劇ファンは多いと思います■「上海バンスキング」という『劇』が持つ独特の魅力、それは、小劇場発の作品でありながら、オペラやミュージカルとはちょっと異質の祝祭性を備えている点だと思います。手法としてではない、劇の中に有機的に摂り込まれた音楽。とても悲しい物語でありながら、その悲しみをすべて浄化してしまう歌と演奏のパフォーマンス。まだまだ色褪せることはないし、今こそ必要な作品だという気がするのです■「静かな演劇」でもいわゆる「エンタメ」でもなく、お祭りみたいな劇。うーむ(艦長)

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