その2 必殺仕掛人
やっぱり『仕掛人』は、かなり強い印象があるね。この作品は、殺しのテクニックとか面白さとか、基本的に迫力を中心にしたんですよ。それから、殺し屋の日常性を中心にしてやった。藤枝梅安はきわめてグルメで、女性が好きで金が好きという欲望肯定型の男。それまでの時代劇に絶対ないタイプやったんですな。

その頃は大方は欲望否定型やった。女が寄ってきても知らん顔しとるしね。冗談で言うんやけど、旗本退屈男は絶対に前のお膳のものを食えへん。それから、ヤクザもんにやられてる女性を助けても、名前も名乗らんと去っていく。…っていうぐらい、欲望を否定してる。それと全く逆の人物というのを設定したんですよ。それが新しかったんやと思うよ。金もらったら、どんな悪も平気やという。お金もらったら職業やからやりましょうと。考えようによっては、職業やから人を殺すのが許されることもあってね。『許せねえ』って言うてヤクザが殺しに行くのは、お前が許せねえって思てるんやろ。お前は神さんかと。それよりは、我々は職業でやってますねんっていう考え方。これは『仕掛けて仕損じなし。…ただしこの稼業 江戸職業づくしにはのっていない』という早坂暁の文句に象徴されると思いますね。