診察室
診察日:2004年5月11日
テーマ:『本当は怖いのどの渇き〜失われた影〜』
『本当は怖いおなかの張り〜沈黙のエイリアン〜』
『本当は怖いのどの渇き〜失われた影〜』
M・Hさん(男性)/42歳(当時) サラリーマン(食品関係商社勤務)
部長に抜擢され、社運をかけたプロジェクトを任されることになったM・Hさん。
会社の期待に応えたいと率先してチームを引っ張っていくよう心がけていた。
そんなM・Hさんに気になる変化が起きてきた。
(1)のどが渇く
(2)のどの違和感
(3)眠れない
(4)記憶力の低下
(5)味を感じない
(6)皮膚のただれ
仮面うつ病
<なぜ、のどの渇きから仮面うつ病に?>
「うつ病」とは、ストレスが引き金となり長期間気分が落ち込んだ状態が続き、家から出られなくなってしまうなど日常生活に支障をきたしてしまう心の病。しかしM・Hさんにはうつ病特有の精神症状はなく、充実した日々を送っていたはず…。が、実はそこに大きな落とし穴があった。
M・Hさんの病名は「仮面うつ病」。気分の落ち込みなど、うつ病特有の精神的な症状がほとんどないため、うつ病の中でも特に発見しづらい病なのだ。M・Hさんの場合、昇進という環境の変化が大きなストレスとなりました。しかし、頑張り屋のM・Hさんはストレスの自覚がなく、知らないうちにそのストレスが蓄積されていきました。やがて、蓄積されたストレスは脳に多大な悪影響をおよぼすようになります。大脳では思考や感情、身体の機能をコントロールするため、様々な神経伝達物質が情報をやりとりしているが、過度のストレスを受けると働きが鈍り、誤作動を起こしてしまう。M・Hさんが感じた「異様なのどの渇き」、「のどの違和感」 「味覚障害」などは脳の誤作動により、自律神経が異常をきたし、だ液が出づらくなっていた結果、現れた症状。さらに「記憶力の低下」や「睡眠障害」、「皮膚のただれ」も免疫系など様々な場所に影響をおよぼした結果だったのだ。
そして、最悪のケースは突然の自殺衝動にかられてしまうこともあるのです。
『本当は怖いおなかの張り〜沈黙のエイリアン〜』
H・Tさん(女性)/22歳(当時) OL
一人っ子で寂しがりやだったH・Tさんにとって、愛犬のラッキー(ゴールデンレトリバー)はかけがえのないパートナー。12年間いつも一緒、まさに兄弟のように育ってきた。
そんなH・Tさんに最近気になる症状が現れてきた。
(1)おなかの張り
(2)上腹部の痛み
(3)微熱
(4)おなかの張りが拡大
(5)体重の減少
(6)白目が黄色くなる
(7)肝不全
エキノコックス症
<なぜ、おなかの張りからエキノコックス症に?>
H・Tさんの死因は「肝不全」。彼女の肝臓はさなだ虫の一種であるエキノコックスという寄生虫に蝕まれていた。エキノコックスとは元々、北海道に住むキタキツネの寄生虫。その卵はキタキツネの中では孵化せず、糞に混じって体の外に出て子孫を増やそうとする。その卵を食べてしまうのがネズミ。エキノコックスの卵はネズミの肝臓の中で孵化し、幼虫となり、再びキタキツネに食べられる。こうして、キタキツネとネズミの間でエキノコックスは増殖を繰り返していきます。しかし、そのサイクルに新たに加わった動物がいました。それが犬。犬もエキノコックスを持ったネズミと接触することで、成虫の宿主となる。H・Tさんがエキノコックス症に感染した原因は、皮肉にもあの愛犬ラッキーだった。ラッキーの口のまわりについていた卵がH・Tさんの口から侵入した可能性があるのです。H・Tさんの体内に入り込んだエキノコックスの卵は肝臓に寄生。そこで孵化したエキノコックスは幼虫となり、10年もの歳月をかけゆっくりと成長していった。最初は1mm程度だったエキノコックスの幼虫は5〜6cmに、時には20cmにまで肥大し、肝臓を破壊していく。H・Tさんの「お腹のはり」は、この肝臓の肥大によるものだった。こうしてエキノコックスは肝臓を蝕み、徐々にその機能を低下させていく。「体重の減少」は肝機能の低下が原因。さらに、病巣の壊死が「発熱」をもたらし、末期には白目が黄色になる「黄疸」が出たのだ。そして、最悪の場合、肝臓の機能が停止してしまうのです。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、強い症状を示すことはほとんどありません。気づいたときには手遅れという場合も少なくないのです。2000年現在、日本でのエキノコックスの発症例は約500件。その中で、キタキツネの生息しない本州でも77件、確認されている。