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『本当は怖いおなかの張り〜沈黙のエイリアン〜』 |
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H・Tさん(女性)/22歳(当時) |
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OL |
一人っ子で寂しがりやだったH・Tさんにとって、愛犬のラッキー(ゴールデンレトリバー)はかけがえのないパートナー。12年間いつも一緒、まさに兄弟のように育ってきた。
そんなH・Tさんに最近気になる症状が現れてきた。 |
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(1)おなかの張り
(2)上腹部の痛み
(3)微熱
(4)おなかの張りが拡大
(5)体重の減少
(6)白目が黄色くなる
(7)肝不全 |
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エキノコックス症 |
<なぜ、おなかの張りからエキノコックス症に?> |
H・Tさんの死因は「肝不全」。彼女の肝臓はさなだ虫の一種であるエキノコックスという寄生虫に蝕まれていた。エキノコックスとは元々、北海道に住むキタキツネの寄生虫。その卵はキタキツネの中では孵化せず、糞に混じって体の外に出て子孫を増やそうとする。その卵を食べてしまうのがネズミ。エキノコックスの卵はネズミの肝臓の中で孵化し、幼虫となり、再びキタキツネに食べられる。こうして、キタキツネとネズミの間でエキノコックスは増殖を繰り返していきます。しかし、そのサイクルに新たに加わった動物がいました。それが犬。犬もエキノコックスを持ったネズミと接触することで、成虫の宿主となる。H・Tさんがエキノコックス症に感染した原因は、皮肉にもあの愛犬ラッキーだった。ラッキーの口のまわりについていた卵がH・Tさんの口から侵入した可能性があるのです。H・Tさんの体内に入り込んだエキノコックスの卵は肝臓に寄生。そこで孵化したエキノコックスは幼虫となり、10年もの歳月をかけゆっくりと成長していった。最初は1mm程度だったエキノコックスの幼虫は5〜6cmに、時には20cmにまで肥大し、肝臓を破壊していく。H・Tさんの「お腹のはり」は、この肝臓の肥大によるものだった。こうしてエキノコックスは肝臓を蝕み、徐々にその機能を低下させていく。「体重の減少」は肝機能の低下が原因。さらに、病巣の壊死が「発熱」をもたらし、末期には白目が黄色になる「黄疸」が出たのだ。そして、最悪の場合、肝臓の機能が停止してしまうのです。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、強い症状を示すことはほとんどありません。気づいたときには手遅れという場合も少なくないのです。2000年現在、日本でのエキノコックスの発症例は約500件。その中で、キタキツネの生息しない本州でも77件、確認されている。 |