診察室
診察日:2004年5月18日
テーマ:『本当は怖いかすみ目〜見逃される恐怖〜』
『本当は怖い咳〜10年後の病魔〜』
『本当は怖いかすみ目〜見逃される恐怖〜』
O・Yさん(男性)/45歳(当時) サラリーマン(営業)
ある日、新聞の小さな文字がかすんで見えだしたO・Yさん。
すぐに眼科を受診するが、「疲れによるかすみ目」と診断され、ひと安心。
しかし、程なくして、さらなる異変が襲う・・・
(1)かすみ目
(2)ドライブ中、まぶしく感じる
(3)首から後頭部に突然の痛み
(4)微熱
(5)吐き気
(6)二重に見える
(7)激しい頭痛
くも膜下出血
<なぜ、かすみ目からくも膜下出血に?>
「くも膜下出血」とは、脳の血管にできた動脈瘤が破裂し、大量出血、脳の機能が停止してしまう病気です。そもそも、くも膜は、脳を保護する3つの膜のうち、真ん中に位置する膜。脳の動脈はくも膜の内側を通っています。「動脈瘤」はその動脈の分岐点であるT字路にできる血管の瘤。でも一体、なぜ脳に動脈瘤ができたのでしょうか?O・Yさんの場合、きっかけは日頃の喫煙。タバコに含まれるニコチンが、血管の分岐点の弾性繊維を傷つけ、血管からしなやかさを奪っていったのです。しかもO・Yさんはお酒の席が多く、どうしても塩分の多い食事を取りがち。それが慢性的な高血圧をまねいていました。しなやかさを失った血管の分岐点に、高い圧力で血液が突き当たり、血管壁がふくれ、瘤が発生。少しずつ大きくなっていったのです。
O・Yさんの目がかすんだり、まぶしく見えたりしたのは、動脈瘤が出来た場所が眼球の動きを司る動眼神経のすぐ近くにあったため。動眼神経が大きくなった動脈瘤の圧迫を受け、レンズの役割を果たす水晶体をうまくコントロールできなくなり、かすみ目を起こしたのです。さらに光の量を調節する瞳孔までも、うまく動かせず、光が入りすぎてまぶしく感じたのです。
また、突然の頭痛や吐き気、微熱は大きくなった動脈瘤が小さな破裂を起こし、脳内に血液が充満したことが原因でした。幸い、小さな破裂のため、かさぶたでその傷をふさぐことができ、痛みはおさまりました。しかし、動脈瘤は日増しに成長していったのです。最終警告は、キャッチボールで息子の投げたボールが突然、二重に見えた時。これは運動により血圧が上昇したため、膨れ上がった動脈瘤がそれまでにない強さで、動眼神経を圧迫。眼球がコントロールを失い、モノが二重に見えたためでした。同時に、穴をふさいでいた「かさぶた」が血流の勢いに耐えきれず大破裂。くも膜の内側に大量の血液が流出。脳の機能がストップし、命を落としてしまったのです。
くも膜下出血の前触れは、症状も軽く、風邪など他の病気によく似ているため、専門医以外には診断が難しいのが実状。それほどこの病気のサインは見落とされやすいのです。
『本当は怖い咳〜10年後の病魔〜』
T・Tさん(男性)/47歳(当時) サラリーマン
息子の保育園で流行った咳がもとで、父親が肺炎にかかったT・Tさん。原因は肺炎クラミジア(性感染症のクラミジアとは異なる)とよばれる細菌。喉や肺に感染し、様々な呼吸系の病気を引き起こすものだった。程なくして、健康な身体が自慢のT・Tさん自身も、その肺炎クラミジアに感染。咳き込むようになったが、免疫力が強かった彼が肺炎になることはなく、咳も治まった。しかし、それから10年後、47歳のT・Tさんに突然、異変が・・・
(1)肺炎クラミジアに感染
(2)10年後に、胸の痛み
(3)発汗
(4)胸を締め上げる激痛
心筋梗塞
<なぜ、肺炎クラミジアから心筋梗塞に?>
「心筋梗塞」とは心臓の冠状動脈の一部が詰まって、その先に血液が流れず、心臓の筋肉が壊死を起こす病気。最悪の場合、突然死をまねきます。しかし、日頃から運動をし、タバコも吸わず、健康が自慢だったT・Tさん。心筋梗塞をまねく生活習慣などなかった彼がなぜ?原因は10年前に息子から感染した「肺炎クラミジア」。なんと、10年前に消え去ったはずのこの細菌が、T・Tさんの体内で身を潜めていたのです。では何故、肺炎を起こすはずの肺炎クラミジアが、心筋梗塞の原因となっていたのでしょうか?そもそも肺炎クラミジアがT・Tさんの体内に忍び込んだのは10年前。息子の咳によって感染した肺炎クラミジアは、喉の気道に取りつき、炎症を起こします。しかし、抵抗力の強かったT・Tさんの体内では、肺炎クラミジアと闘うために免疫細胞のマクロファージが出動。肺炎クラミジアはマクロファージによって食べられ、炎症も治まったのです。しかし肺炎クラミジアの怖いところは、生命力が異様に強いこと。時として、マクロファージの中でひっそりと生き続けることもあるのです。一方、T・Tさんの心臓を取り巻く冠状動脈では、血管壁に小さな傷ができていました。これは40歳を越えた人なら誰にでもある普通のことですが、その傷口から血液中のコレステロールが血管壁に入り込んできます。このコレステロールを取り除こうとやってくるのが、マクロファージ。しかし、このマクロファージは、内部に肺炎クラミジアという爆弾を抱えていました。肺炎クラミジアを抱えたマクロファージは、正常なものに比べ、コレステロールをより多く食べる性質を持っています。その結果、コレステロールを食べ過ぎて肥大化し、ついには破裂。血管内に脂肪のこぶを作り、血液の通り道を狭めてしまうのです。こうなれば血管はいつ詰まってもおかしくありません。T・Tさんの胸の痛みや、発汗はその前触れだったのです。