診察室
診察日:2004年7月13日
テーマ: 『本当は怖い水虫〜魔の連鎖〜』
『本当は怖い喉のつまり〜戦慄の不協和音〜』
『本当は怖い水虫〜魔の連鎖〜』
K・Kさん(女性)/27歳(当時) OL(大手メーカー営業部員)
大きな契約を次々と成立させ社内での評価はうなぎのぼり、充実した毎日を送っていたキャリアウーマンのK・Kさん。ある日、右足が無性にかゆくなり、よく見てみると、水虫になっていた。
しかし、夏休み旅行を計画していた彼女は、まとまった休日をとるため、毎日のように残業をし、水虫を放っておいたのです。ところが、それと同時に、彼女の体内では信じられない事態が進行していた。
(1)水虫
(2)皮がむけて赤くただれる
(3)足の甲の痛み
(4)足の甲が赤く腫れる
(5)関節痛
(6)高熱
(7)足が黒く変色
壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)
<なぜ、水虫から壊死性筋膜炎に?>
「壊死性筋膜炎」とは、筋肉を覆っている筋膜という部分に細菌が侵入し、細胞を壊死させてしまう病気です。でもただの水虫のはずだったK・Kさんが一体なぜ…。そもそも水虫の正体は白癬菌(はくせんきん)というカビの一種。K・Kさんの足の指の間にとりついた白癬菌は、皮膚の一番外側にある角層という部分を食べながら、角層の下にある表皮細胞に到達。細胞が菌に反応し、炎症を起こしていました。その結果、K・Kさんは足に激しいかゆみを感じ、さらに指の間の皮がめくれ、赤くただれたようになりました。ここでようやく薬局で買ってきた薬で治療を始めたK・Kさんですが、すでに手遅れでした。この時、白癬菌に冒された指の間は筋膜へと通じる傷口となっていたのです。そして、その傷口から白癬菌とは別の“ある細菌”が入り込んでいたのです。それは「溶連菌(ようれんきん)」と呼ばれる細菌。通常は人間の喉など、私たちの体内で共存しているごくありふれた菌なのですが、時として恐ろしい病気を引き起こすことがあります。さらに日々の激務によってK・Kさんの免疫力は大幅に低下していたため、足に侵入した溶連菌が急激に増殖。K・Kさんが感じた足の痛み、そして足の甲の赤い腫れは、溶連菌が出す毒素で足が炎症を起こしたものでした。さらにこの菌が恐ろしいのは進行が早いこと。血管に入り込んだ溶連菌は、血液から栄養をとって爆発 的に増えていくのです。K・Kさんに起きた関節の痛みや高熱といった症状は、溶連菌による大量の毒素によるもの。足がどす黒く変色したのも溶連菌の仕業。増えすぎた溶連菌が血管に詰まって血の流れを止め、細胞を壊死させてしまったのです。最終的に溶連菌は全身の血管をめぐり、すべての臓器の機能が停止。最初の足の痛みからわずか15時間後のことでした。
「壊死性筋膜炎」の致死率は、実に50%。発病後、数日以内で死に至る恐ろしい病です。しかし溶連菌が何故この病気を引き起こすのか。その原因も感染経路も、いまだわかっていないのが現状なのです。
『本当は怖い喉のつまり〜戦慄の不協和音〜』
O・Mさん(男性)/45歳(当時) 会社員(大手自動車メーカー勤務)
真面目な仕事ぶりが評価され、経理部の課長に昇進したO・Mさん。
責任ある役職に張り切っていたが、現実は上司と部下との狭間で苦悩する中間管理職。
しかも、家庭でも妻との折り合いが悪く、心底くつろぐことができなかった。
そんなある日、軽く喉がつまる感じを覚えたO・Mさん。実はそれこそ、激震の前触れだった。
(1)喉のつまり
(2)吐き気
(3)動悸
(4)めまい
(5)一瞬意識を失う
(6)ゴルフのパッティングの時に、突然倒れ死亡
心室細動(しんしつさいどう)
<なぜ、喉のつまりから心室細動に?>
「心室細動」とは、心臓の下半分を占める心室が痙攣して血液が送り出されなくなり、死に至る病。 O・Mさんの場合、その原因は思わぬところにありました。過度のストレスです。昇進による新しい人間関係とハードな仕事。さらに家庭でも安らぎを得ることができず、たまる一方だったストレスが、彼の心臓に大きなダメージを与えていたのです。そもそも心臓は脳からの命令が心臓の「洞結節(どうけっせつ)」という場所に伝えられ、電気刺激が発生。これによって規則的に収縮し、一定のリズムで動いています。しかし、O・Mさんのように極度にストレスがたまると、脳からの命令が異常をきたし、「洞結節」以外の場所からも電気刺激が発生。心拍のリズムが不規則になってしまいます。これがいわゆる「不整脈」。全ての症状は、この「不整脈」が原因でした。最初にO・Mさんを襲った「喉のつまり」や「吐き気」は、心臓のリズムが乱れることで発生した胸の不快感。「動悸」もまた、不整脈の典型的な症状でした。さらにストレスを解消しようとO・Mさんが頻繁に吸っていたタバコは心臓の血管を狭くし、不整脈を悪化させていきました。そしてO・Mさんに現れた「めまい」の症状。これは積み重なるストレスにより心臓に異常な電気刺激が200回以上も発生したため、心臓が血液をうまく送り出すことができず、脳が一時的に酸素不足の状態になったのが原因でした。会議中「一時的に意識を失った」のも、実は脳の一時的な酸素不足が引き起こした“失神”だったのです。さらに残業続きの疲れた体で、接待ゴルフに出かけた朝。極度の緊張を強いられるパッティングに集中した瞬間、またもや不整脈が発生。しかもこの時は発作がなかなか止まらず、ついに心室が激しく痙攣し始めました。この状態こそ「心室細動」でした。心室細動が起きると、心臓から血液が全く送り出されなくなり、意識を失います。そして、その状態が3分以上続いたため、O・Mさんは命を失ってしまったのです。実は、朝早く、疲れた体で極度の緊張をともなう運動をすることは、死に直結する心室細動をもっとも起こしやすい条件なのです。実際、朝のゴルフ場で突然死を遂げるケースが多発しているのです。現在、日本では成人の2人に1人が不整脈を持っており、そのうちの1割が治療の必要がある不整脈だと考えられています。そして、その不整脈を悪化させる最大の原因が他でもないストレスなのです。