診察室
診察日:2004年7月27日
テーマ: 『本当は怖い虫刺され〜死の棘〜』
『本当は怖い夏風邪〜陽炎の罠〜』
『本当は怖い虫刺され〜死の棘〜』
K・Sさん(女性)/18歳(当時) 大学生
大学1年の夏、蚊にさされた跡が異様なほど腫れ上がってきたK・Sさん。
でも「ただ蚊に刺されただけ」と気にせず、そのまま放っておきました。
そんな彼女に気になる症状が現れてきました。
(1)蚊に刺された跡が腫れ上がる
(2)発熱
(3)頻繁に発熱を繰り返す
(4)頬に水疱ができる
(5)ぶつけていない部分にもアザが出来る
(6)意識が朦朧とする
慢性活動性EBウィルス感染症
<なぜ、虫刺されから慢性活動性EBウィルス感染症に?>
「EBウィルス」とは、日本人の90%以上が持っていると言われる、ごくありふれたウィルス。多くの場合、EBウィルスは人間の血液中のリンパ球に入り込み、特に悪さをすることなく共存していきますが、ごくまれにEBウィルスによって異常をきたす人がいます。それが「慢性活動性EBウィルス感染症」。幼い頃、この「慢性活動性EBウィルス感染症」にかかったK・Sさんはよく熱を出したり、すぐ寝込んでしまうような弱い体質になってしまいました。しかし、それ以外は特に何も起こらず症状も軽かったため、この病にかかっていることすら気づかずに成長してしまったのです。そんなK・Sさんの「慢性活動性EBウィルス感染症」を劇症化させたのは、虫刺され、つまり蚊でした。蚊の唾液に含まれている成分がK・Sさんのリンパ球に潜んでいたEBウィルスを活性化させ、それに伴いリンパ球も過剰反応を開始。刺された皮膚に激しい炎症を発生させたのです。こうなるとリンパ球は他のささいな刺激に対しても過剰反応を起こすようになります。K・Sさんの顔にできた水疱は紫外線の刺激でリンパ球が活性化したもの。すねをぶつけたのに、ふくらはぎに出来た奇妙なアザも、足をぶつけた刺激によってリンパ球が活性化。広い範囲の血管が破壊され、ふくらはぎにまで達する炎症となったものでした。しかし、この段階でも病の存在に気づかなかったK・Sさん。再び蚊に刺されたことによって、それまで辛うじてK・Sさんを支えていた免疫システムがついに限界に達し、K・Sさんは還らぬ人となってしまったのです。蚊などの虫刺されによってEBウィルスが活性化してしまう事実がわかったのは、十数年前。現在もほとんどの人がこの病の存在自体に気づいていないのが現状なのです。
『本当は怖い夏風邪〜陽炎の罠〜』
H・Sさん(女性)/37歳(当時) 主婦(保険会社勤務)
家のローン返済のため、夏風邪の微熱に耐えながら仕事に復帰したH・Sさん。
3日ぶりに出勤すると、休んでいた遅れを取り戻そうと、フル回転で仕事をこなしていました。
そんな彼女に奇妙な症状が現れ始めました。
(1)手のしびれ
(2)手に力が入らない
(3)もの忘れ
(4)目のかすみ
(5)右半身不随
 脳梗塞
<なぜ、夏風邪から脳梗塞に?>
「脳梗塞」とは、脳の血管に血の塊がつまり、脳の一部が壊死、最悪の場合、死に至る恐ろしい病。H・Sさんが脳梗塞になった原因は、あの夏風邪にありました。風邪をひいていたH・Sさんの体は熱を放散させるため、大量の汗をかいていました。その量は、一日およそ2リットル。通常の3倍もの水分が知らないうちに体から失われていたのです。こうして常に脱水症状を起こしていたH・Sさんの血は、いわゆる「濃縮型血液」になっていました。それでもこの段階で風邪を治していれば良かったのですが、H・Sさんは無理をして仕事に復帰してしまいました。連日30度をこえる真夏日の条件下では、1時間に1リットル近い水分を失ってしまう場合もあります。忙しさに追われ、十分な水分補給をしなかったH・Sさんの血液はさらに濃縮され、ついにその血管に血の塊、血栓が出来てしまいました。H・Sさんを最初に襲った「手の症状」は、血栓のかけらがはがれ、脳の右手の感覚をコントロールする部分を詰まらせたため。さらに「物忘れ」や「目のかすみ」も、血栓が脳の様々な箇所につまった結果、起きたもの。しかし、出来て間もない血栓は柔らかく、一度血管に詰まっても自然に溶けてしまい、脳細胞はすぐに機能を回復、症状も消えてしまいます。しかし、運命の日、炎天下にも関わらず、無理をしたH・Sさん。彼女の体は大量の水分を失い、血液はこれ以上ないほどに濃縮され、ついに頸動脈に巨大な血栓をつくり出していました。それにも関わらず、その後、クーラーの効いたビルの中に入ったH・Sさん。急激な気温低下によって、彼女の血管は一気に収縮。激しくなった血流が、頸動脈にできた巨大な血栓を根こそぎ押し流してしまいました。その結果、巨大な血栓は脳の太い血管を完全に塞いでしまい、脳の左側に広い範囲に渡る壊死を招いたのです。
現在、毎年およそ20万人の日本人が脳梗塞を発病しています。中でも、夏場に起きてしまう要因として、夏風邪からくる脱水症状が意外にも多くあげられているのです。