診察日:2004年8月24日
テーマ:
『本当は怖い薬の飲み方(1)〜身体に合わない薬〜』
『本当は怖い薬の飲み方(2)〜間違った薬選び〜』
『本当は怖い薬の飲み方(3)〜子供への薬の飲ませ方〜』
『本当は怖い薬の飲み方(1)〜身体に合わない薬〜』
T・Yさん(女性)/25歳(当時)
エアロビクス教室インストラクター
今までこれといった大病を患ったこともなく、健康には人一倍自信があったT・Yさん。
しかし、その日はちょっと風邪気味。ひどくなる前に治しておこうと、病院で診察を受けたところ、いわゆる『総合感冒薬』を処方されました。処方通り一日3回、食後に風邪薬を飲み続けた彼女。
薬を飲み始めて3日目、ようやく熱も下がり、一安心と思った矢先、なぜか喉が痛くなり・・・。
そしてさらなる症状が襲います。
(1)喉の痛み
(2)赤い発疹
(3)高熱
(4)目のかゆみ
(5)目の充血
(6)全身に赤い発疹
(7)口元の水ぶくれ
スティーブンス・ジョンソン症候群(T・Yさんは死亡)
<なぜ、『総合感冒薬』を飲んでスティーブンス・ジョンソン症候群に?>
「スティーブンス・ジョンソン症候群」とは、薬を飲むことによって突如発症する原因不明の病。身体中の皮膚や粘膜を次々と破壊し、最悪の場合、死に至ることもあります。それまで大丈夫だった薬でも発症することがあり、さらにはどの人に、どんな薬で起こるのか、それすら全くわかっていません。現在、日本では年間400人近くの人がこの病気になっていると言われています。T・Yさんの突然の死の原因は、医師に処方された風邪薬にありました。通常、体内に入った薬は、体の様々な場所の炎症を抑えてくれます。しかしT・Yさんの場合、薬のある成分によって皮膚や粘膜の細胞が突然変異。異物を退治する免疫細胞が、その突然変異した細胞を悪者とみなし、激しく攻撃を始めてしまったのです。喉の痛み、発熱、赤い発疹、目のかゆみ・充血、それら全ては免疫細胞の攻撃によるものでした。この病気の最も恐ろしいところは、いったん発症してしまうと、猛烈なスピードで細胞の破壊が進んでしまうこと。T・Yさんは、発症からたった2日で細胞の破壊が全身に広がり、ついには多臓器不全を起こし、帰らぬ人となってしまいました。T・Yさんが、唯一この病気に気づくことができたチャンス。それはただの風邪ではありえない赤い発疹。それこそが決して見過ごしてはならない症状だったのです。薬の注意書きをよく見ると、こんなことが書かれています。「服用中、発熱、発疹、紅斑等の症状が現れた時は、すぐに医師にお知らせください」もし、T・Yさんがこの注意書きを読んでさえいれば、最悪の結末をむかえることはなかったかも知れません。
『本当は怖い薬の飲み方(2)〜間違った薬選び〜』
Y・Kさん(男性)/ 37歳(当時)
会社員
連日の接待と不規則な生活がたたったのか、食事の度に胸焼けを起こしていたY・Kさん。
いつものことと、あまり気にいませんでしたが、ある日、なぜか乾いた咳が頻繁に出るように。
得意先との大切な会議がある彼は、早く咳をとめようと、会社に常備されていた『咳止め薬』を飲みました。するとすぐに咳は治まりましたが、翌日になると、また乾いた咳が止まらなくなり、症状はよりひどくなっているようでした。
(1)乾いた咳
(2)薬を飲むたびに治まるが、何度もぶり返す咳
(3)胸の激しい痛み
食道の潰瘍
<なぜ、『咳止め薬』を飲んで食道の潰瘍に?>
Y・Kさんの食道を蝕んでいた無数の潰瘍。その原因は、あの咳止め薬にありました。Y・Kさんにとってあの薬は、命を危険にさらす間違った薬だったのです。でも一体なぜ、咳止め薬が食道に潰瘍を作ってしまったのでしょうか?夜ごとの接待で、普段から脂っぽい食事を取り続けていたY・Kさん。そのため、彼の胃は懸命に消化しようと、常に大量の胃酸を出し続けていました。胃酸は鉄をも溶かしてしまう強力な酸。そんな胃酸が食道に流れ込まないよう、胃と食道の間にある噴門(ふんもん)と呼ばれる弁が、逆流をせき止めています。ところが、Y・Kさんは食事の後すぐに寝るのが習慣となっていたため、噴門がまだ閉じきらないまま胃と食道がほぼ一直線となり、胃酸が食道に溢れ出て炎症を起こしてしまったのです。その結果、胸焼けと同時に、咳が出るようになりました。あの咳は、肺や気管支の異常が原因ではなく、食道の神経が胃酸によって刺激され引き起こされた“空咳”だったのです。 ところが、その咳を止めようと、咳止め薬を飲んでしまったY・Kさん。その結果、咳止め薬の中のテオフィリンという成分が、Y・Kさんの食道の炎症を劇的に悪化させてしまったのです。通常テオフィリンは、気管支の筋肉を緩め、咳を止めてくれる有効な成分。しかし、Y・Kさんのように食道に炎症を患っている人がこの薬を飲むと、気管支だけではなく、胃酸の逆流を防いでいた噴門の筋肉をも緩めてしまうのです。こうなると噴門は開きっぱなし。横にならなくても大量の胃酸が食道へと流れ込み、食道の炎症は悪化の一途を辿ってしまったのです。薬を飲んだ時、Y・Kさんの咳が止まったのは、薬と一緒に飲んだ水が、食道の粘膜を覆っていた胃酸を洗い流していただけのこと。そうとは知らず薬を飲み続けたY・Kさん。さらに炎症は悪化し、ついには沢山の潰瘍が出来てしまったのです。Y・Kさんの場合、幸い、潰瘍の段階で治療を受けたため、大事に至ることはありませんでした。しかし、このような食道の炎症を繰り返していると、やがては食道がんから死に至る可能性もあるのです。
『本当は怖い薬の飲み方(3)〜子供への薬の飲ませ方〜』
M・T(女性)/5歳(当時)
園児
夜10時過ぎ、40度もの高熱を出したM・Tちゃん。
一人娘が苦しんでいるのを放っておけない両親は、以前病院で処方された『大人用の解熱鎮痛剤』を半分の量にして飲ませました。翌晩、熱が下がって楽になったのか、夕食を口にするようになったM・Tちゃん。母親はほっと胸をなで下ろしますが、彼女の体内では恐ろしい異変が起き始めていました。
(1)話しかけても答えない
(2)眠気
(3)嘔吐
(4)高熱
(5)痙攣(けいれん)
脳ヘルニア(M・Tちゃんは死亡)
<なぜ、『大人用の解熱鎮痛剤』を飲んで脳ヘルニアに?>
「脳ヘルニア」とは、何らかの原因で脳が腫れ上がり脳幹を圧迫、最悪の場合、死に至る恐ろしい状態です。一体なぜM・Tちゃんは、脳ヘルニアになってしまったのでしょうか?あの日、40度の高熱を出したM・Tちゃん。実は彼女は単なる風邪ではなく、インフルエンザに感染していました。そんな娘のためを思い、両親が量を大人の半分にして与えた解熱鎮痛剤。問題は、この薬に含まれる「アスピリン」という成分にありました。アスピリンは、痛みや熱を抑える薬として、多くの人に使用されています。しかし、1998年に当時の厚生省は、アスピリンを含む解熱鎮痛剤を15歳未満のインフルエンザの子供に与えないよう、通達を出しました。それでもM・Tちゃんの両親のように、アスピリンを子供に与えてしまうケースが後を断たないのです。では、アスピリンによって体内に何が起こったのでしょうか?私たちの体内には、侵入してきたウィルスを攻撃する免疫細胞がいます。体内の細胞がインフルエンザに感染すると、そこに免疫細胞が集まり、ウィルスに感染した細胞を攻撃します。この時、攻撃のための情報を伝達する役割を持つのが、サイトカインという物質。しかし子供にアスピリンを投与してしまうと、その量に関係なく、サイトカインが過剰に増加してしまうのです。サイトカインが増えすぎると、免疫細胞は暴走を開始、正常な細胞まで破壊し、事態は全身へと広がっていきます。病名「ライ症候群」。M・Tちゃんは、アスピリンを与えられたことで、ライ症候群を発症していたのです。ライ症候群は、様々な臓器に障害を与えます。M・Tちゃんの場合、その反応が強く出たのは、肝臓と脳でした。熱が下がったにも関わらず、だるそうにしていたり、ぼーっとして意識がはっきりしなかったのは、暴走した免疫細胞が肝臓の細胞を攻撃し破壊。肝機能障害を引き起こしたのが原因でした。さらにM・Tちゃんが見せた眠気、嘔吐、痙攣といった症状は、免疫細胞が脳を攻撃、脳全体が腫れ上がって脳圧が高くなったために起こったものでした。そして最後の瞬間、腫れ上がった脳が脳幹を圧迫。脳ヘルニアに至り、呼吸が停止、M・Tちゃんは亡くなってしまったのです。この病の恐ろしいところは、アスピリンを飲むといったん熱がおさまるので、回復に向かっていると勘違いしてしまうこと。しかし症状が出始めた時には、すでに手遅れ。急速に悪化していくため、手の施しようがないのです。