診察日:2004年9月14日
テーマ:
『本当は怖いかぶれ〜母を襲った赤い悪魔〜』
『本当は怖いめまい〜忍び寄る侵略者〜』
『本当は怖いかぶれ〜母を襲った赤い悪魔〜』
I・Yさん(女性)/36歳(当時)
主婦
夫が単身赴任中のため二児の母として家を守り、PTAの役員もこなす忙しい毎日を送っていたI・Yさん。子供たちは育ち盛りだからと、食卓には毎日のように肉料理が並んでいました。
そんなある日、着替えようと服を脱いだ時、左の乳房の脇が赤くかぶれているのに気づいた彼女。さらに様々な異変が襲います。
(1)乳房の脇にかぶれ
(2)赤みが広がる
(3)左右の乳房の大きさが違う
(4)脇の下に違和感
(5)赤みが広がる
(6)乳房の皮膚が硬くなる
炎症性乳ガン
<なぜ、かぶれから炎症性乳ガンに?>
「炎症性乳ガン」とは、通常いわれる乳ガンとはまったく異なるタイプの乳ガンです。一般にいう「乳ガン」は乳房の乳腺にでき、そこで大きくなるガンのこと。一方、炎症性乳ガンは、ガン細胞が皮膚のリンパ管に入り込み、乳房全体に広がっていくガンなのです。I・Yさんの乳房にできたあの赤みは、ガン細胞によってリンパ管がつまり、リンパ液がせき止められたために起こったものでした。さらに炎症性乳ガンは、ガン細胞が乳房全体に広がっていくため、乳房の皮膚が硬くなるのが特徴。決して、「しこり」だけが乳ガンのサインではないのです。しかし、I・Yさんは婦人科で診察を受けた際「乳腺炎」と診断されました。どうしてガンであることがわからなかったのでしょうか?実は初期の炎症性乳ガンと乳腺炎の症状は非常に良く似ており、見分けがつかないことが多いのです。お医者さんから「症状が改善しなかったら必ず来て下さい」と指示されたにも関わらず、忙しさにかまけてついつい病院に行くのを怠ってしまったI・Yさん。その間にもガン細胞はリンパ液に乗って四方へと散らばっていきました。I・Yさんが脇の下に感じた違和感。あれは脇の下のリンパ節にガンが転移したためでした。この間、わずか2ヵ月。このスピードこそが炎症性乳ガンの最大の恐怖。リンパ管にガン細胞が入り込む炎症性乳ガンは、一般的な乳ガンと比べて進行が早く、全身に転移する危険性も高いのです。入院から1年、懸命の治療もむなしく、I・Yさんはガンが全身に転移、帰らぬ人となってしまいました。なぜ乳ガンができるのか?その詳しいメカニズムはまだ解明されていません。ただI・Yさんのように肉料理などの高カロリーの食事が多い人、そして年齢的には40代の女性に発症する率が高いというデータがあります。炎症性乳ガンは、その前兆を見逃されやすいガンですが、定期検診をきちんと受けていれば、早期発見は十分に可能なのです。
『本当は怖いめまい〜忍び寄る侵略者〜』
S・Aさん(女性)/31歳(当時)
ブティック店長
この春から、都内のあるブティックの店長に抜擢されたS・Aさん。ノルマへのプレッシャーに加え、人間関係も複雑で、気疲れすることも増えましたが、お店をまかされたやりがいと責任感から、毎日頑張っていました。そんなある日、お喋りに夢中な店員に注意したその時、突然、めまいに襲われた彼女。さらに新たな異変が襲いかかります。
(1)めまい
(2)動悸
(3)胸が締めつけられる
(4)激しいめまいと動悸
(5)呼吸困難
パニック障害
<なぜ、めまいからパニック障害に?>
「パニック障害」とは、過度のストレスなどから起こる心の病。突然、めまいや動悸といった発作を起こし、その発作への恐怖心から日常生活に支障をきたします。女性に多く発症し、その数は男性の約3倍。特に20代・30代の女性の10人に1人が、一度はかかると言われています。 では、なぜS・Aさんはパニック障害になってしまったのでしょうか?きっかけは、店長への昇進でした。もともと生真面目で人の良い性格の彼女は、実はその重圧に強いストレスを感じていたのです。さらに、複雑な人間関係が拍車をかけました。このストレスが、S・Aさんの脳内にある中枢神経を刺激、普通の人よりも敏感にさせていたのです。そして、さぼっていた店員を注意しようとした時、店員の反応を気にした彼女の中枢神経は過敏に反応。ノルアドレナリンという物質が分泌されました。ノルアドレナリンとは、人が危険を感じた瞬間、その危険に対応できるよう、全身に信号を発する物質です。この時、ノルアドレナリンが分泌されたS・Aさんの体内では、心臓や肺の動きが活発になり、あのめまいを引き起こしたのです。以来、ささいなストレスでも、ノルアドレナリンが過剰に分泌されるようになってしまった彼女。さらに症状が進むに連れ、S・Aさんは常に強い不安を感じるようになりました。これこそパニック障害の最も恐ろしい症状。発作が起きることへの不安、予期不安です。発作が起きたらどうしよう…。という不安が新たなストレスとなって、また発作を起こしてしまう。この悪循環によって、パニック障害は徐々に慢性化。ついにS・Aさんはうつ病を併発、家から一歩も出られなくなってしまったのです。めまいや動悸など体の症状が出る、この病。そのため、重症化するまで心の病と気づかないことが多いのです。現在、S・Aさんは心配した家族の勧めで、心療内科に通い徐々に回復しつつあります。しかし仕事は辞めたまま、社会復帰のめどはまだ立っていません。