診察室
診察日:2004年10月5日
夫婦で気をつける病気スペシャル
テーマ:
『本当は怖い物忘れ〜切断〜』
『本当は怖い耳鳴り〜恐妻家に迫る悪夢〜』
『本当は怖い発疹〜新妻を蝕む恐怖の影〜』

『本当は怖い物忘れ〜切断〜』

O・Kさん(男性)/48歳(当時) 運送会社社長
妻と力を合わせて小さな運送会社を営み、家庭では典型的な亭主関白というO・Kさん。
高血圧体質なのに肉類ばかりを食べ、生野菜はほとんど口にしないという食生活を続けていました。
そんなある日、O・Kさんは会社を出てわずか5分後、聞いたはずの配達先を忘れてしまいます。
年のせいと軽く考えていたO・Kさんですが、その後、様々な異変が襲います。
(1)物忘れ
(2)目的を忘れる
(3)自分のした事を忘れる
(4)突然怒り出す
(5)意欲低下
(6)夜間の異常な行動
多発梗塞性痴呆(たはつこうそくせいちほう)
<なぜ、物忘れから多発梗塞性痴呆に?>
「多発梗塞性痴呆」とは、脳の中の神経線維が死んでいき、最終的には重い痴呆状態に陥る恐ろしい病。O・Kさんが配達先を忘れてしまったのは、様々な情報を処理し、記憶・感情・理性をコントロールする神経線維が切れてしまったため。その原因は、生活習慣にありました。脂っこい食べ物が好きで、飲酒・喫煙の習慣もある上、血圧が高かったO・Kさん。その結果、彼の脳の血管には徐々にコレステロールが溜まり、動脈硬化や高血圧を引き起こし、ついには小さな脳梗塞が発生。脳の一部が壊死してしまったことで神経線維が切れてしまったのです。O・Kさんの物忘れは、その後も悪化の一途を辿りました。冷蔵庫に何を取りに来たのか思い出せず、自分が風呂に入ったことさえ忘れてしまったのです。この時、動脈硬化を放置した彼の脳では小さな脳梗塞が次々と発生。神経線維がズタズタに切断され、記憶を保つことが困難になっていました。そしてついには感情のコントロールにまで影響は及びます。O・Kさんが突然怒り出したのは、「感情失禁」と呼ばれる痴呆症状の一つ。もしこの時、病院に行っていれば最悪の事態は避けられたかも知れませんが、彼は病院に行こうとはしませんでした。この病気は症状が進むほど自分が痴呆だと認めなくなっていくのです。
多発梗塞性痴呆の最も恐ろしいところは、痛みなどの症状が身体に現れないこと。そのため、本人も気づかないうちに小さな脳梗塞が増えていき、脳の機能は失われていきます。こうしてO・Kさんは、極端な意欲低下、奇妙な行動、夜間せん妄という症状に襲われたのです。この時、O・Kさんには新たな危機が迫っていました。動脈硬化が脳以外の場所でも発生。血の流れが悪くなり、血栓ができてしまっていたのです。そしてあの運命の朝、O・Kさんは興奮し血圧が急上昇したため、血栓が押し流されて脳の大きな血管を塞いでしまい、その結果、脳の大部分が死んでしまう大梗塞を起こし意識を失ってしまったのです。痴呆の原因となる小さな脳梗塞は、早ければO・Kさんのように40代から起こります。痴呆は決して高齢者だけを襲う悲劇ではないのです。
『本当は怖い耳鳴り〜恐妻家に迫る悪夢〜』
H・Kさん(男性)/45歳(当時) 会社員(食品メーカー勤務)
残業が続き、身体の疲れがピークに達していたH・Kさん。
口うるさい妻と父親を敬遠する娘に挟まれ、家にいてもなかなか心休まることがありませんでした。
そんなある日、帰宅が深夜になり、妻からきつく当たられたH・Kさんは、突然キーンという耳鳴りに襲われました。幸い耳鳴りはすぐに治まりましたが、その後、様々な症状が出始めます。
(1)耳鳴り
(2)めまい
(3)赤ら顔
(4)足がしびれ、動けない
ストレス多血症による心筋梗塞
<なぜ、耳鳴りからストレス多血症による心筋梗塞に?>
「心筋梗塞」とは心臓の冠状動脈に血栓ができ、動脈が詰まることで心臓の筋肉が壊死する病気。最悪の場合、死に至ることもあります。これまで特に心臓に異常が見られなかったH・Kさんが突然、心筋梗塞に見舞われた主な原因は、家庭でのストレスにありました。40歳を過ぎ、高血圧や高脂血症など、ある程度の生活習慣病を抱えていたH・Kさん。実はその陰で、長年に渡るストレスの影響から思いもよらない、ある恐ろしい病を発症していたのです。病名「ストレス多血症」。ストレスが原因で濃縮型血液になり、身体に様々な障害の出る病です。H・Kさんがストレスを受けた時、その体内では交感神経が刺激を受けていました。すると、ノルアドレナリンというホルモンが分泌され、血管を収縮させてしまったのです。そのため、H・Kさんはさらなる高血圧に。この時、体内では血圧を元に戻すため、少しずつ水分を放出し、その流れを緩める働きをします。その結果、濃縮型血液になってしまったのです。こうなると全身に様々な影響が出始めます。H・Kさんが感じた、あの耳鳴りやめまいは、平衡感覚を司る三半規管の血液の流れが悪くなった結果、起きたもの。お酒を飲んでいないのに赤ら顔になっていたのは、血液の水分が減り、赤血球の密度が増えたためでした。そして最終警告、H・Kさんが踏み切りで感じた足のしびれ。あの時、H・Kさんの体内では血液の流れが滞り、足の筋肉にまで酸素が行き渡っていなかったため、足がしびれ動けなくなってしまったのです。この時点で病院に行っていれば十分に助かっていました。しかし、病に気づいていないH・Kさんの血液は、少しずつ動脈硬化を進め、その心臓の冠動脈はボロボロになっていきました。そしてついに迎えた最後の瞬間。妻の小言にH・Kさんが言い返そうとした時、興奮したせいで交感神経が刺激を受け、心臓の冠動脈が一気に狭まりました。そしてそこに血栓ができ、冠動脈が完全に詰まってしまいました。その結果、心臓の筋肉が壊死。呼吸することが出来なくなり、H・Kさんは死に至ったのです。ストレス多血症は比較的男性に多く起こり、現在、40歳以上の男性の10人に1人は、ストレスによる濃縮型血液の恐れがあると言います。知らずに放っておくと、最悪の事態を迎える恐れもあるのです。
『本当は怖い発疹〜新妻を蝕む恐怖の影〜』
S・Eさん(女性)/27歳(当時) 主婦
大らかで優しい彼と結婚し、新婚旅行でハワイに出かけたS・Eさん。
普段は色白の彼女も、ここぞとばかりに南国の陽射しを浴び、常夏の島を満喫して帰国。
その後、夢と希望に満ちた新婚生活が始まりますが、気づくと頬の辺りに赤く発疹が出来ていました。さらに、彼女の身に、新たな異変が起こります。
(1)日焼け後の発疹
(2)全身がだるい
(3)微熱
(4)再び全身がだるくなる
(5)何もする気がおきない
(6)蝶が羽を広げたように顔に発疹がひろがる
全身性エリテマトーデス
<なぜ、日焼けから全身性エリテマトーデスに?>
「全身性エリテマトーデス」とは膠原病(こうげんびょう)の一つとして知られ、全身のいたる所で激しい炎症が起きてしまう病。現在、この病気の患者数は全国でおよそ3万人。発症する確率は4千人に1人という、まれな病気ですが、若い女性に多いということを除けば、いつ誰が発症するか全くわかっていません。 S・Eさんの場合、きっかけは新婚旅行先のハワイでの日焼けでした。人間の身体には細菌やウィルスが入り込むと、それを撃退する免疫機能があります。しかしS・Eさんは日焼けしたことがきっかけとなり、突如、この免疫機能が異常をきたしてしまったのです。それを知らせる最初のサインこそ、S・Eさんの顔に出たあの発疹でした。この時、彼女の体内では、異常をきたした免疫機能が、自分の皮膚の細胞を攻撃。炎症を起こしたことで発疹が出来ていたのです。皮膚が薄く、陽射しを浴びやすい顔から発症することが多いのが、この病の特徴。そして顔で始まった免疫機能の異常は、ゆっくりと身体のあちこちへと広がっていきます。この時、炎症と同時に、発熱や倦怠感を引き起こす物資が発生。そのせいでS・Eさんは、だるさや微熱に襲われたのです。病院で処方された風邪薬も、S・Eさんにとっては落とし穴でした。風邪薬の鎮痛剤が一時的に炎症を抑えるため、治ったと錯覚してしまいますが、薬が切れると同時に、炎症は再燃。再び全身のだるさに襲われたのです。この病が恐ろしいのは、微熱やだるさといった何気ない症状が多いため、ついつい放っておいてしまうこと。その間にも、炎症は全身の至る所で悪化。結果、S・Eさんは家事も何もできない、無気力な状態になってしまいました。そして最後の瞬間、実家の海辺で浴びた陽射しが免疫機能の暴走に拍車をかけました。蝶が羽根を広げたようにひろがった顔の発疹。実は最も日焼けしやすい顔面に出るのが特徴なのです。その皮膚の下では激しい炎症が起こっていました。これは「蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)」と呼ばれ、この病の典型的な症状。こうして全身で起きた炎症は、ついには心臓にまで及び、呼吸困難を起こしてしまったのです。なぜ免疫機能が異常をきたすのか。その詳しいメカニズムは不明ですが、日焼け以外にも、妊娠・出産・手術など、身体に大きな負担がかかることがきっかけになると言われています。しかし、全身性エリテマトーデスは薬でコントロールが可能な病気。早期発見して治療を行えば、普段どおりの生活を送ることもできるのです。