診察室
診察日:2004年11月9日
テーマ: 『本当は怖い体重の減少〜人気者の代償〜』
『本当は怖い肩こり〜肝っ玉母さんの悪夢〜』

『本当は怖い体重の減少〜人気者の代償〜』

Y・Kさん(男性)/30歳(当時) サラリーマン(保険会社勤務)
体重115キロ。大食い、一気飲みで場を盛り上げるので、合コンでは人気者だったY・Kさん。
淡い恋心を抱いた女性を誘ったものの、全く取り合ってもらえなかったことから、痩せることを決意。
それでも普通の人の2倍以上食べていたにも関わらず、1週間で5キロも体重が減っていました。
その時は喜んでいた彼ですが、次々と異変が起こり始めます。
(1)急激に痩せる
(2)倦怠感
(3)さらに痩せる
(4)甘い香りの口臭
(5)昏睡状態
ケトン性昏睡
<なぜ、体重の減少からケトン性昏睡に?>
「ケトン性昏睡」とは糖尿病の急性合併症の一つ。突然、意識障害を起こし、最悪の場合、死に至る病です。原因はY・Kさんの度重なる暴飲暴食にありました。食事をすると血液中にブドウ糖が増えてきます。そのブドウ糖をエネルギーとして利用することで人間は健康を保っています。この時、大切な役割を担っているのが、膵臓で作られるインスリン。日頃から食事の量が多かったY・Kさん。彼の膵臓は、大量にインスリンを作り出すため、毎日酷使されていましたが、ついに疲れ果て、インスリンの分泌を一気に減少させました。このため、ブドウ糖がエネルギーとして利用できず、Y・Kさんの体はエネルギー不足に陥ったのです。わずか1週間で5キロも痩せたのは、エネルギー不足に陥った体が不足分を補おうと、脂肪を分解してエネルギーに変えたため。ダイエットの効果などではなかったのです。そして体重の異常な減少こそ、Y・Kさんが急激に糖尿病を発症していた証でした。しかし、そうとも知らない彼の体内では、脂肪が分解された時、エネルギーとともにある恐ろしい物質が放出されていました。それが「ケトン体」。ケトン体は少量なら問題ないのですが、Y・Kさんのように脂肪の分解が一気に進み、ケトン体が体に大量にたまると危険な有害物質となるのです。Y・Kさんを襲った倦怠感も、ケトン体が血液中に増加したため。そして恋心を抱いた彼女から言われた「息が甘い香りがする」という言葉。香りの素は、肺を通して吐く息に混じったケトン体。実は果物のような甘い香りがするのがケトン体の特徴なのです。そして昏睡状態に陥ったのは、ケトン体が大量に増加し、脳の活動が一気に低下したため。さらに昏睡状態のまま、長時間放って置かれたY・Kさんは、脳の機能が回復せず、そのまま帰らぬ人となりました。この病気の恐ろしさは、急激な体重の減少を起こしてから、数週間でいきなり死を迎えることがあること。日頃、暴飲暴食をしている人なら誰でも、この病をいつ発症するか分からないのです。
『本当は怖い肩こり〜肝っ玉母さんの悪夢〜』
K・Tさん(女性)/44歳(当時) 主婦
忙しく子育てを始めた頃から太りだし、いつの間にか体重が92キロに達していたK・Tさん。
最近いつもの肩こりが特にひどくなって来ていました。
肩こりなんて病気じゃないと軽く考えていたK・Tさんですが、さらなる異変が襲います。
(1)肩こり
(2)頭痛
(3)悪夢を見る
(4)胸に激痛
睡眠時無呼吸症候群(すいみんじ むこきゅう しょうこうぐん) が原因で
心筋梗塞 
<なぜ、肩こりから睡眠時無呼吸症候群に?>
「睡眠時無呼吸症候群」とは、寝ている時に突然呼吸が止まってしまう病です。一晩7時間の睡眠中に10秒以上の無呼吸数が30回以上起こるか、睡眠1時間あたりの無呼吸数が5回以上の場合、この病気と考えられます。K・Tさんがこの病に陥ってしまった最大の理由は「肥満」。彼女は、空気の通り道である気道の周りにもたっぷりと脂肪がつき、さらに舌も太り、大きくなっていました。このような状態で仰向けになると、脂肪が重力で気道を塞ぎ、さらに太った舌も落ち込んでしまうため、気道を圧迫。睡眠中に呼吸が止まるという事が起こるのです。K・Tさんが悩んでいた肩こり、頭痛、そして悪夢は、すべてこの病が原因でした。無呼吸症が続くと全身に酸素が行き渡らず、肩の筋肉や脳が酸欠状態になり、結果、このような症状が現れたのです。この病気になると、深い眠りに入れないため、極度の睡眠不足に陥ります。そのため決して寝ないような緊張状態でも、突然、眠ってしまうことがあるのです。夕飯の調理中に起きた、天ぷら火災。実はあの時、K・Tさんは完全に眠っていたのです。そして彼女の体の中では更なる恐ろしい事態が起こっていました。それは「濃縮型血液」。K・Tさんのような無呼吸症になると、慢性的な酸欠状態になり、体内では酸素をより多く運ぼうと赤血球が増えるのです。さらにもともと肥満だった彼女は、動脈硬化が進行し、徐々に血管が細くなっていました。つまり血液の濃縮と動脈硬化が同時に進行してしまったのです。これこそがこの病の最も恐ろしいところ。その結果、赤血球が血管の盛り上がった部分に付着していき、日に日に血栓が大きくなっていったのです。そして最後の瞬間。ついに心臓の冠状動脈が血栓で塞がれ、血流がストップ。心臓の筋肉が活動を停止。K・Tさんは帰らぬ人となってしまったのです。睡眠時無呼吸症候群の患者が、心筋梗塞などの心疾患になる確率は、普通の人と比べると1,5倍から3倍。現在、睡眠時無呼吸症候群を治療中の患者は、およそ5万人。しかし潜在的には200万人とも300万人とも言われているのです。