診察室
診察日:2004年11月16日
テーマ: 『本当は怖い腰痛〜見落としたハザードランプ〜』
『本当は怖いしゃっくり〜ある受付嬢の豹変〜』

『本当は怖い腰痛〜見落としたハザードランプ〜』

I・Kさん(男性)/58歳(当時) タクシーの運転手
無事故無違反の安全運転を続けて30年になる模範的なドライバー、I・Kさん。
いけないとわかっていても、お客さんが降りた後の一服と仕事終わりの脂っこい食事が止められないでいました。 そんなI・Kさんには半年ほど前からしつこい腰痛が続いていましたが、仕事がら仕方がないと半分諦めていました。しかし、油断の陰で恐るべき病が進行していたのです。
(1)腰痛
(2)腰痛が長く続く
(3)足のしびれ
(4)寝ていても腰が痛む
(5)尿が出ない
(6)便が出にくい
(7)強い腰痛
腹部大動脈瘤(ふくぶだいどうみゃくりゅう)
<なぜ、腰痛から腹部大動脈瘤に?>
腹部大動脈瘤とは、全身に血液を送っている大動脈がお腹の中でコブ状に膨らんでしまう病。I・Kさんがこの病に冒されてしまった原因は、彼の生活習慣にありました。長年の喫煙、高カロリーの食事、そして運動不足。これらによってI・Kさんは、高血圧になっていたのです。心臓のポンプの力で全身に送り出される血液。しかし、I・Kさんのように高血圧になると送り出される圧力が高くなり、血管が劣化、いわゆる動脈硬化を引き起こしてしまいます。この動脈硬化の影響が最も出やすい場所の一つが、腹部大動脈。常に大量の血液が流れている、この動脈の壁がいったん弱くなると、そこに大きな圧力がかかり、次第に瘤状に膨れあがってしまうのです。ではなぜ、腹部大動脈瘤が出来ると腰が痛むのでしょうか?それは大きくなったコブで、脊髄を圧迫するため。だからこそ横になっても腰の痛みが治まらなかったのです。そしてこの腹部大動脈瘤は、通常のレントゲンにはほとんど映りません。そのため整形外科でも発見されなかったのです。こうして成長を続けたI・Kさんのコブは、ついに直径10センチを超えてしまいます。尿が出にくくなったのは、巨大化したコブが尿の通り道である尿管を圧迫したため。便意はあるが便が出ないという症状も、大腸を圧迫したために起きたものでした。ここまで来ると大動脈瘤は、いつ破裂してもおかしくない状態。そして腰を伸ばそうと身体を反らしたあの時、圧迫された腹部大動脈瘤がついに破裂。失血性のショックで命を絶たれてしまったのです。破裂してしまうと、その7割以上が死に至るといわれるこの病。ほとんどの人は、病院への搬送中に亡くなっています。だからこそ、破裂する前の発見が、生死を分かつ重要なポイントとなるのです。
『本当は怖いしゃっくり〜ある受付嬢の豹変〜』
Y・Mさん(女性)/28歳(当時) 大手商社の受付嬢
熱心な仕事ぶりが買われ、今では新人の教育係を頼まれることも多かったY・Mさん。
いつものように訪問客を応対していた、その時、突然しゃっくりが出て止まらなくなりました。 最初は深く考えることもなかったそのしゃっくりこそ、彼女の身に迫る恐ろしい病の産声だったのです。
(1)しゃっくり
(2)突然の嘔吐
(3)耳が遠くなる
(4)リズムのある頭痛
(5)性格の変化
脳腫瘍
<なぜ、しゃっくりから脳腫瘍に?>
脳腫瘍とは、その名の通り、脳に出来た腫瘍が周りの脳の神経に影響を与えることで様々な障害を起こす病。なぜ腫瘍が出来るのかその原因はまだわかっていませんが、腫瘍が出来る場所によって現れる症状は千差万別です。Y・Mさんの場合、腫瘍は小脳と脳幹を包む髄膜に出来ていました。彼女の最初の症状、しゃっくりは、脳幹の呼吸を司る部分が腫瘍に圧迫されたことにより、呼吸のリズムが乱れたため。そして突然の嘔吐も、胃の動きをコントロールする中枢が圧迫されたためでした。しかし処方された薬で治ったと勘違いしたY・Mさんは、2度と病院を訪れることはありませんでした。そしてその間にも、腫瘍はどんどん大きくなっていったのです。半年後、耳が聞こえなくなってしまったのは、腫瘍により耳の神経の働きが阻害されたため。そして突然の頭痛は、巨大化した腫瘍が脳の中の髄液の流れをせき止めたために起きたもの。行き場を失った髄液が脳室に溜まり、脳全体を膨張させ痛みを引き起こしたのです。この時点で適切な処置を受けていれば、Y・Mさんは充分に助かっていました。しかしついに最終警告の時が。きちんとしていた服装がだらしなくなる。突然怒り出すといった激しい性格の変化。これも腫瘍によって、脳の性格と感情を司る部分が正しく働かなくなったため。さらに腫瘍は致命的な部分に到達。呼吸を司る呼吸中枢を押しつぶし、Y・Mさんは命を奪われてしまったのです。女性の方が男性よりおよそ2倍発症する、この病。その理由はまだわかっていません。しかし悪性でない限り、早期に発見して治療をすれば、ほとんどの場合、命は助かります。だからこそ症状を見逃さないことが最も重要なのです。