診察日:2004年12月7日
テーマ:
『本当は怖い関節痛〜忍び寄る苦痛〜』
『本当は怖い頻尿〜静かなる侵略者〜』
『本当は怖い関節痛〜忍び寄る苦痛〜』
K・Hさん(男性)/53歳(当時)
会社員
責任感が強く、几帳面な仕事ぶりで部下からの信頼も厚い理想の上司だったK・Hさん。
若い頃からスポーツマンとしてならし体力には自信を持っていましたが、最近、体の節々が痛むようになりました。
「寄る年波には勝てないのか」と思っていたK・Hさんですが、やがてさらなる症状が現れます。
(1)関節痛
(2)鼻づまり
(3)集中力の低下
(4)不眠
(5)身体がだるく起きられない
(6)めまい
(7)気力を失う
男性更年期障害(だんせい こうねんき しょうがい)
<なぜ、関節痛から男性更年期障害に?>
女性が閉経を迎える時期におこる「更年期障害」。それが実は男性にも起こることが最近になってわかってきました。その詳しい原因ははっきりとはわかっていませんが、大きく関係していると考えられるのが男性ホルモン。これが低下することで、身体や精神に様々な症状が出るのです。男性ホルモンは主に精巣で作られ、生殖機能の調整をはじめ、骨や筋肉の増強を促すなど、男性らしい身体や精神を保つ役割をしています。つまり男性ホルモンは生きていく上で欠かすことのできないホルモンなのです。K・Hさんが最初に感じた関節の痛みは、男性ホルモンが低下したために起きたもの。関節には骨や筋肉が集中していますが、K・Hさんの場合、それらを作るのを助ける男性ホルモンが減ったため、関節が痩せ衰え、痛みを感じるようになったのです。あの異様な発汗も、男性ホルモンが減ったことで自律神経が異常をきたし体温のコントロールができなくなったためでした。また集中力が落ちる、眠れない、朝めまいがして身体がだるい。これらの症状も、すべては男性ホルモンの低下によって、精神のバランスが崩れたために起きたこと。しかし病院に行ったK・Hさんは、うつ病と診断されました。
実は男性更年期障害は、男性ホルモンを調べない限りわからない病気。うつ病と症状がよく似ているため、そう診断されてしまうことが多いのです。こうしてK・Hさんは、家から一歩も出られなくなるほど病を悪化させてしまいました。40代後半から60代前半にかけて一気に増えるこの病。その原因の一つは加齢によって男性ホルモンが低下するためと考えられていますが、だからといって必ずしも発症するわけではありません。男性更年期障害のもう一つの原因は、ストレス。K・Hさんのように几帳面で責任感が強い人はストレスによる精神的なダメージを受けやすく、病を引き起こしやすいと言われているのです。まだ世間にあまり知られていない男性更年期障害。そのためK・Hさんのように原因がわからないまま、病が悪化。家から一歩も出られず、仕事につけなくなるケースも増えています。男性更年期障害は、決して侮ってはいけない病なのです。
『本当は怖い頻尿〜静かなる侵略者〜』
K・Yさん(男性)/50歳(当時)
会社員(商社部長)
仕事はもちろん、遊びにも手を抜かず、部下からも慕われる上司だったK・Yさん。
50の大台に乗ったとはいえ、まだまだ若い者には負けないつもりでしたが、最近気になる症状が。
それは夜中になぜかトイレに行きたくなって何度も目が覚めてしまう「頻尿(ひんにょう)」です。
その後も、様々な症状が起こります。
(1)頻尿
(2)尿意を我慢できない
(3)尿がなかなか出ない
(4)残尿感
(5)腰の痛み
(6)足のしびれ
前立腺癌(ぜんりつせんがん)
<なぜ、頻尿から前立腺癌に?>
「前立腺」は、精液の一部をつくったり排尿をコントロールする、男性にしかない臓器。この前立腺に発生する前立腺癌は、様々な症状を起こし、最悪の場合死に至ることもあるのです。今や、50歳を過ぎて検診を受けた日本人男性の100人に一人が発見されると言われるこの病。発癌のメカニズムははっきりとはわかっていませんが、食生活に原因の一つがあると言われています。外食が多く、脂っこいものが大好きだったK・Yさんの食事は、高脂肪高たんぱく。これらは前立腺癌の誘発要因として考えられているのです。そんなK・Yさんを最初に襲った症状は、夜中の頻尿でした。あの頻尿は、前立腺の癌細胞が増殖し、膀胱が圧迫されたために起こった症状だったのです。そして昼間でさえ尿が我慢できなくなったのは、癌がさらに広がり、膀胱がますます圧迫されるようになったせい。尿がすぐに出なかったり、残尿感を感じたりしたのは、前立腺癌が増殖を続け、膀胱だけでなく尿道までも圧迫してしまったためでした。この段階で病院に行っていれば、大事には至らなかったはず。しかしK・Yさんはすべてを歳のせいだと思い込んでしまいました。それこそ、この病気の落とし穴。歳をとると誰でも眠りが浅くなり、膀胱の伸縮性が悪くなるため、特に夜の尿の回数が増えます。そのため、癌の症状を歳のせいだと勘違いしてしまうのです。さらに前立腺癌と間違いやすい病気があります。それが「前立腺肥大症」。50歳以上になると、男性の5人に1人がかかると言われる病です。前立腺癌と症状がよく似ているため、自分は前立腺肥大症だと思い込んでしまう人が多いのです。病院にも行かず放っておいた結果、K・Yさんの病は取り返しのつかないことに・・・。それが、あの腰の痛み。これこそ最悪の事態を知らせるサイン。この時、K・Yさんの前立腺癌は、腰椎へと転移してしまっていたのです。K・Yさんのレントゲンに映った白い影は、癌が骨に転移したもの。実際、前立腺癌患者の2割前後が骨に転移すると言われているのです。足がしびれて歩けなくなったのは、腰椎に転移した癌細胞が脊髄神経を圧迫したため。ここにいたって、ようやく病院へ行ったK・Yさんでしが、もう遅すぎたのです。2年後、K・Yさんは治療の甲斐なく、この世を去りました。尿の症状が出た時、すぐに病院で検査を受けていたら、手遅れにならずに済んだのに。