診察日:2005年1月18日
テーマ:
『本当は怖い朝の頭痛〜取り返しのつかない誤解〜』
『本当は怖い肌の赤み〜長い冬〜』
『本当は怖い朝の頭痛〜取り返しのつかない誤解〜』
T・Hさん(女性)/22歳(当時)
大学生
都内の市立大学に通い、卒業を半年後に控えていたT・Hさん。
卒業論文さえ終われば、あとは楽しみな卒業旅行。待ち遠しくて仕方ありません。
しかし、そんなT・Hさんの身に気になる異変が。朝起き上がる時、頭頂部にズキンズキンと脈打つような痛みが走るようになったのです。「きっと卒論でがんばりすぎたせい」と思っていたT・Hさんですが、さらに新たな症状があらわれ始めます。
(1)朝の頭痛
(2)立ちくらみ
(3)腕に力が入らない
(4)目のかすみ
(5)激しい頭痛
(6)意識喪失
腎血管性高血圧(じんけっかんせい こうけつあつ)による脳出血
<なぜ、朝の頭痛から腎血管性高血圧に?>
脳出血とは、脳の中の血管が破れ血液が脳内に流れ出てしまうことで、最悪の場合は死に至る恐ろしい病。T・Hさんが脳出血になってしまった原因は、意外なところに隠されていました。それは腎臓。なんと、彼女の腎臓に潜んでいた病魔が、脳出血の引き金となってしまったのです。病名「腎血管性高血圧」。腎臓に血液を送る腎動脈の異常により危険な高血圧を引き起こしてしまう病です。T・Hさんの場合、腎動脈の壁が厚くなったせいで、血液の通り道が異様に細くなっていました。その結果、腎臓に向かう血液の量が減ってしまったため、腎臓は血圧を上げる働きを持つ「レニン」という物質を分泌。つまり、全身の血圧を上げることで血流を回復しようとしたのです。血管がこのような状態になることを「線維筋性異形成(せんい きんせい いけいせい)」といいます。原因はわかっていませんが、この病は20代から30代の若い女性に多く発症し、現在潜在的に約30万人がかかっていると言われています。しかし、そのすべてが高血圧になる訳ではありません。ほとんどの場合、何の問題もありませんが、T・Hさんのように腎動脈が細くなりすぎてしまった場合は、腎血管性高血圧になってしまうのです。これによってT・Hさんの血圧は上昇。倒れる数カ月前から、異常な高血圧に陥っていました。では彼女の頭痛はなぜ朝に起きたのでしょうか?通常、人間は寝ている時、血圧は比較的落ち着き、安定した状態になっています。しかし、起き上がると脳の血流を維持するために血圧が上昇します。この時、ただでさえ血圧が高かったT・Hさんはさらに異常な高血圧になり、頭痛を引き起こしたのです。あの「立ちくらみ」も、高血圧が原因。さらに「腕に力が入らない」という症状。実はこれこそ腎臓の異常を知らせる重要なサインでした。腎血管性高血圧になると副腎からあるホルモンが分泌されます。するとこのホルモンが体内から尿とともにカリウム(筋肉の動きを正常に保つために必要なミネラル)を排出させてしまい、T・Hさんは、あの脱力感に襲われたのです。その後、腎血管性高血圧はさらに悪化。そしてあの「目のかすみ」こそ、最終警告でした。目の奥にある毛細血管が高い血圧に耐えきれず出血。眼球が異常をきたしたため、目がかすんだのです。そして卒業旅行出発の日に襲った激しい頭痛。あれは高血圧のため、T・Hさんの脳の血管がついに破裂。この時から脳出血が始まっていたのです。そして彼女がイスから立ち上がろうと、頭をあげた瞬間、脳内での圧力が高まり、出血が進行、意識を失い倒れてしまったのです。高血圧といえば中高年のものという固定観念は大きな落とし穴。20代、30代の若い女性でもT・Hさんのように腎動脈の異常から高血圧となり、最悪の場合、死に至ることもあるのです。
『本当は怖い肌の赤み〜長い冬〜』
T・Kさん(女性)/68歳(当時)
農業
農業を継いでくれた息子夫婦と同居、悠々自適な生活を送っていたT・Kさん。しかし、嫁との仲はうまくいっているとは言えず、夫が亡くなってからというもの、日がな一日、自分の部屋にこもるように…。もともと冷え性だったこともあり、冬場はこたつに長時間当たっていることが多くなっていました。そんなT・Kさんに起きた異変は、足の赤み。冬場になると、なぜかスネの肌が赤らむのです。よく見ると、網目状に赤らんでいます。実は20年前から冬になる度に同じ症状を繰り返していたのです。しかし、痛みもかゆみもないため、単なる肌荒れと思い込んでいたT・Kさんですが、さらに気になる症状があらわれ始めます。
(1)肌が赤らむ
(2)皮がむけ、血がにじむ
(3)傷が大きく盛り上がる
有棘細胞癌(ゆうきょく さいぼうがん)
<なぜ、肌の赤みから有棘細胞癌に?>
「有棘細胞癌」とは、皮膚癌の一種で、主に紫外線や火傷などの刺激で発症するといわれる病。そもそも私たちの皮膚は表皮、真皮、皮下脂肪の3層に分かれています。有棘細胞癌とは、表皮に出来る癌のことを言います。では一体なぜ、T・Kさんの右足にこの癌が出来てしまったのでしょうか?原因は、彼女の間違ったこたつのあたり方にありました。昔から冷え性だったT・Kさんは、いつも長時間こたつにあたっていました。しかもスカートだったため素足に直接熱が伝わり、さらにあまり姿勢も変えなかったため、すねの部分が集中的に熱を浴びていました。20年前から気になり始めた肌の赤みは、温められ続け拡張した血管が皮膚の表面から透けて見えていたものだったのです。これはやけどの一種で、熱性紅斑(ねつせいこうはん)と呼ばれる状態ですが、決して珍しい症状ではありません。もしこの時、地肌を衣服等で覆ったり、暖める場所を変えたりしていれば、やがて治まったはず。ところがT・Kさんは、ほとんど痛みのないこの熱性紅斑を冬場の単なる肌荒れと勘違いしてしまいました。そしてなんと、20年以上もの間、冬がくる度に、同じ箇所に熱での刺激を繰り返していたのです。この慢性的な刺激によって表皮の細胞の中にある遺伝子が繰り返し傷ついていきました。そして、ついに傷ついた遺伝子によって細胞が癌化してしまったのです。すねの皮がめくれ、血がにじんだあの症状。それは増殖した癌細胞が、ついに皮膚の表面にまで達し、さらに血管が通る真皮にまで及んだため。しかしT・Kさんは、それを単なるひっかき傷によるものと思い込み、そのまま放っておいてしまいました。そして癌細胞が出来てから1年後。増殖をとめることのない癌細胞は、ついに皮膚のすぐ下の骨にまで達してしまったのです。T・Kさんのように暖房機具から癌を発症する例は減ってはいるものの、有棘細胞癌の患者数は年々増加しています。主な原因は紫外線。この場合も同じ箇所を長時間刺激し続けることが要因となっているのです。