診察室
診察日:2005年2月22日
テーマ: 『本当は怖い生理痛〜幸福の紅い罠〜』
『本当は怖い肌のかゆみ〜逆流〜』

『本当は怖い生理痛〜幸福の紅い罠〜』

O・Sさん(女性)/35歳(当時) 主婦
結婚から10年目で、ようやく念願の赤ちゃんが誕生したO・Sさん。なかなか子宝に恵まれなかった彼女にとって、それは待ちに待った出来事。実は以前、子宮内膜症(しきゅう ないまくしょう)と診断され、子供ができなくなるかもと心配していたのです。O・Sさんは母になった喜びをかみしめていました。ところが、出産から半年後、O・Sさんは下腹部に生理痛を感じるようになります。もともと生理が重い方だった彼女は、それほど気にとめていませんでしたが、さらなる異変が襲います。
(1)生理痛
(2)下腹部の張り
(3)下腹部の痛み
(4)咳
卵巣癌
<なぜ、生理痛から卵巣癌に?>
卵巣癌とは、文字通り、卵巣にガンが出来てしまい、最悪の場合死に至る恐ろしい病です。しかし一体なぜO・Sさんの卵巣にガンが巣食ってしまったのでしょうか?全てのはじまりは、あの出産後の生理痛。子宮内膜症がまだ治っていないにも関わらず、子供を産んで安心していたO・Sさんは、市販の薬で痛みをごまかし、半年に一度の定期検診を怠ってしまいました。このことが取り返しのつかない事態を招いたのです。原因はわかっていませんが、実は子宮内膜症は、まれにガンへと変化することがあります。その結果起こったのが、あの下腹部の張りと、生理でもないのに感じた痛み。あれは子宮内膜症によって出来た袋状のかたまりがガン化。大きくふくれ上がったために起こった症状だったのです。これらの症状は、卵巣癌を発見する重要な手がかりなのです。だからこそ医師はこう言ったはず。「生理でない時にも痛みがあったり、お腹が張ったりするようなら、必ずまた病院に来て下さい。」この時点で検査を受けていれば、最悪の事態はまぬがれていたかも知れません。しかし、O・Sさんが何よりも恐れたのは不妊。だからこそ無事出産したことで安心し、病院へ行かなくなってしまいました。これこそ子宮内膜症になった人が最も陥りやすい落とし穴。しつこく咳が続いたのは、ガンが肺を覆う胸膜に転移、胸水がたまって肺を圧迫したためでした。卵巣癌の特徴は、転移が極めて早いこと。症状が少ないため、中々気づくことが出来ず、肺などに転移してから初めて発見される場合も多いのです。卵巣癌が発生するメカニズムは、まだよくわかっていません。しかし動物性脂肪の多い食生活が原因の一つと言われ、その死亡者数は年間約4000人。この50年間で約8倍に増えています。子宮内膜症はほとんどの場合、良性の病気です。しかし放っておくとまれに、卵巣癌になる可能性があることを決して忘れてはならないのです。
「子宮内膜症から卵巣癌にならないためには?」
生理痛というサインを見逃さないこと
(1) 薬が効かないほどの生理痛
(2) それどころか、さらにひどくなる生理痛
以上の生理痛がある場合は病院での検診をお勧めします。
『本当は怖い肌のかゆみ〜逆流〜』
K・Fさん(女性)/48歳(当時) クリーニング店経営手伝い
明るい性格で、近所の人たちからも親しまれる存在だったK・Fさん。彼女の唯一の楽しみは、毎日の晩酌。子供もなく、ひたすら働き続けてきたK・Fさんにとって、何よりホッとできる時間でした。
しかし、そんなK・Fさんにもちょっと気になることが。時々身体のあちこちがかゆくなるのです。
特に湿疹や赤みがあるわけでもないため、冬で肌が乾燥したせいと軽く考えていたK・Fさん。健康診断の結果、一抹の不安を覚えた彼女は、一大決心をして禁酒しますが、その後も様々な異変に襲われます。
(1)肌のかゆみ
(2)しつこい肌のかゆみ
(3)肌のかゆみがひどくなる
(4)背中の激痛
(5)吐血
原発性胆汁性肝硬変(げんぱつせい たんじゅうせい かんこうへん)
<なぜ、肌のかゆみから原発性胆汁性肝硬変に?>
そもそも私たちの肝臓には栄養素の貯蔵や有害物質の解毒などのほか、もう一つ大切な働きがあります。それは脂肪やビタミンなどの消化吸収を助ける胆汁という成分をつくること。原発性胆汁性肝硬変とは、アルコールや肝炎ウィルスではなく、何らかの原因で免疫機能が異常をきたし、この胆汁の流れる管が攻撃され、破壊されてしまう病気なのです。その結果、行き場を失った胆汁があふれ、肝臓を侵食。さらに血流に乗って全身を巡りはじめることで、特徴的な症状を引き起こすのです。それが、しつこく続いた、あの肌のかゆみ。血管を流れる胆汁が全身の皮膚の末梢神経を刺激したことで、かゆみが起こっていたのです。しかし、ただの乾燥肌と軽く考えていたK・Fさんは、健康診断でもかゆみを医師に伝えず、お酒を控えれば大丈夫と勝手に判断してしまいました。これこそが落とし穴。その間にも沈黙の臓器と呼ばれる肝臓は、静かにゆっくりと蝕まれ続けていたのです。そしてついに起こったのが、背中の激痛。実はあの時、K・Fさんの背骨は骨折していたのです。一体なぜそんなことになってしまったのでしょうか?胆管が破壊されたせいで、K・Fさんの腸では、本来送られるはずの胆汁が不足していました。そのため、骨を形成する栄養素が吸収されなくなってしまい、K・Fさんの骨はちょっとした衝撃ですぐに折れてしまうほどボロボロの状態になっていたのです。さらに、この時、固くなっていたK・Fさんの肝臓に血液が入ることができずに逆流。その結果、食道の静脈が圧力に耐えられなくなり、ついに破裂。K・Fさんは吐血してしまったのです。幸い一命をとりとめたK・Fさんは今、リハビリを続けながら、肝移植をするための肝臓提供者を待ち続けています。現在、この病気にかかっている患者は、およそ2万人。しかも原因はわかっていませんが、その9割はなんと女性です。肝炎ウィルスがなく、アルコールも飲まないからと行って、決して安心してはいけないのです。
「原発性胆汁性肝硬変にならないためには?」
肝臓についての誤った思い込みを変え、 アルコールやウィルス以外にも肝臓の病気があることを知る
(1) しつこい肌のかゆみ
(2) γ―GTPなどの肝機能に関わる数値が高い
以上のような症状が現れたなら一度、病院で胆汁の検査を受けることをお勧めします。