診察室
診察日:2005年3月8日
テーマ: 『本当は怖いスランプ〜破滅へのゴールテープ〜』
『本当は怖い頭痛〜魔物の棲む夜〜』

『本当は怖いスランプ〜破滅へのゴールテープ〜』

Y・Hさん(女性)/30歳(当時) 主婦
学生時代に陸上の中距離選手だったY・Hさんは、3年前、ハーフマラソンで3位に入賞。以来マラソンのとりこになり、全国的にも有名な大会での入賞をめざしトレーニングに励んでいました。しかし、半年が過ぎた頃、調子は悪くないのに何故かタイムが落ちてしまいます。スランプを乗り切るには練習あるのみと練習量を倍にした彼女ですが、記録が伸びないばかりか、次々と異変に襲われます・・・。
(1)風邪を引きやすい
(2)体重の減少
(3)胸が締めつけられる
(4)不整脈で倒れる
運動性慢性疲労
<なぜ、スランプから運動性慢性疲労に?>
運動性慢性疲労とは、過度の運動により心臓をはじめ、体中のあらゆる臓器がその限界を超えてボロボロになってしまう深刻な病。Y・Hさんの場合、その存在をいち早く知らせるサインが、あのスランプ。タイムが落ちたその陰で、彼女の体は着実に壊れはじめていたのです。全ての原因は、1年も前から自己流で行っていた無謀なトレーニングにありました。それはまず彼女の喉を直撃しました。呼吸が速くなるにつれ、喉を通る空気のスピードも速くなります。空気が狭い喉を通過する時の速さは、なんと、時速50キロから150キロにもなります。その速い空気によって喉の細胞がはがされ、病原菌に感染しやすくなってしまったのです。これが風邪を引きやすくなり、しかも治りづらかった原因。さらに無謀なトレーニングによってY・Hさんがダメージを受けたのが、すい臓でした。そもそもすい臓とは、栄養吸収に必要な酵素などを分泌する重要な臓器です。ところが長期間激しくランニングをすると、脊椎のすぐ前に位置するすい臓は、かかとの着地の衝撃を長く受け続け、機能が低下。そのため、食べたものの消化や吸収を助ける酵素が正常に分泌されず、小腸での栄養の吸収が充分に行われなくなってしまったと考えられているのです。これが激ヤセの原因。そして病魔はついに心臓に襲いかかりました。その心臓の動きに影響を与え、脈拍をコントロールしているのが自律神経です。しかし過度の運動によって、Y・Hさんの自律神経には異常が生じていました。そんな時、突然のショックで心臓の動きが乱れ、不整脈を起こしてしまったのです。幸い、病院に運ばれるのが早かったため、Y・Hさんは九死に一生を得ることができました。いまや体を鍛えれば鍛えるほど、丈夫な体になるというのは幻想に過ぎません。現在、日本には間違ったトレーニングで内臓を痛めている人が、200万人もいると言われます。スポーツは、骨折やケガだけではなく、内臓こそ最も注意しなければならないものなのです。
「運動性慢性疲労にならないためには?」
(1) ジョギングやウォーキングなどでもやり過ぎに注意
(2) 十分に休養を取り、バランスの良い食生活を心がける
運動した後、3日間休んでも疲労が残った時は、 スポーツ内科などで検診されることをお勧めします。
『本当は怖い頭痛〜魔物の棲む夜〜』
K・Tさん(男性)/42歳(当時) 居酒屋経営
学生時代に名門相撲部で活躍したK・Tさんは、とある地方都市で相撲の同好会を主催する名物男。週末になると激しい稽古に汗を流し、体力には自信がありましたが、ある夜、突然頭の左半分に激しい痛みを感じます。朝になるとウソのように治まるため、単なる疲れと思っていましたが、毎晩の頭痛は次第に激しさを増し、さらに様々な症状が現れます。
(1)左半分だけの頭痛
(2)夜、床に就くと始まる頭痛
(3)耳鳴り
(4)頭痛が激しくなる
(5)眼球突出
硬膜動静脈瘻(こうまく どうじょうみゃくろう)
<なぜ、頭痛から硬膜動静脈瘻に?>
硬膜動静脈瘻とは、脳の血管にある恐ろしい異変が起きることで、様々な症状を引き起こす病。では、K・Tさんの脳の中では、一体どんな異変が起きていたのでしょうか?K・Tさんは長年にわたって相撲を取り続けてきました。そして、激しく顔面をはたかれる、何度も土俵に頭を打ち付けるなど、繰り返し脳に衝撃を与えていたのです。その結果、脳の奥、ちょうど目の裏側にある動脈が激しくねじれ、血管の壁に穴が開いてしまいました。そこからごく少量の血液が、血管の周辺にしみ出ていたのです。そして、その血液は下にある静脈に吸収されていました。漏れては…吸収、そんなことを長年に渡って繰り返すうち、ある日突然、動脈は静脈につながる新しい血管を誕生させてしまったのです。この異常な血管こそが小林さんを襲った様々な症状の原因でした。では、あの激しい頭痛は、なぜ寝ている時だけ起きたのでしょうか?そもそも人間の体内を流れる静脈は、横になると心臓と同じ高さになるため、流れが遅くなります。当然、脳の中の静脈でも流れは遅くなっています。しかし、脳の中でつながった異常な血管は、動脈からの血液を勢いよく流し込んでいました。その結果、流れの遅い静脈の中で血液が滞り、炎症を起こしてしまったのです。これが頭痛の原因でした。そして、あの耳鳴りは、異常な血管から流れ込む音が頭蓋骨へと伝わったために起きたもの。さらに流れの滞った静脈の影響で、眼球の血液も流れづらくなっていきました。そのため、血液が眼球にたまり、膨張したことで眼が飛び出したようになってしまったのです。しかし、なぜこの血管の異常は発見できなかったのでしょうか?恐ろしいことに、異常な血管は頭痛の起きている時にしか、検査で分からないことが多いのです。これが硬膜動静脈瘻の落とし穴。幸い発見が早かったため、K・Tさんは手術を受け、大事に至ることはありませんでした。この病、激しいスポーツと無縁だからと安心はできません。交通事故など一度だけの衝撃でも発症することがあるのです。
「硬膜動静脈瘻にならないためには?」
(1)日常生活で頭や顔への衝撃を避ける
(2)生活習慣に気をつけ、動脈硬化を予防する
(3)今まで経験したことのない激しい頭痛が続いたら、 脳神経外科や神経外科で検診されることをお勧めします。