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『本当は怖い胸の痛み
~明け方に聞こえる悪魔のささやき~』 |
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S・Hさん(男性)/44歳(当時) |
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サラリーマン(商社勤務)
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中堅商社に勤めるS・Hさんは、春の人事で課長に昇進。社運をかけたプロジェクトを任され仕事に燃えていましたが、気がかりなのは1ケ月前に子供たちと交わした約束。ゴールデンウィークは家族みんなで沖縄に行こうと約束していたのです。死に物狂いで頑張れば、なんとか休みがとれるはずと、猛然と仕事に打ち込むS・Hさん。ある日の明け方、悪夢にうなされて目をさますと、胸に重石を載せられたような痛みが残っていました。仕事のことを考え過ぎと自分を納得させますが、さらなる異変に襲われます。 |
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(1)明け方に、胸に重石を載せられたような痛み
(2)別の明け方に、胸を押されるような痛み
(3)さらに、別の明け方に、胸が締めつけられるような痛み
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異型狭心症(いけい きょうしんしょう) |
<なぜ、胸の痛みから異型狭心症に?> |
そもそも狭心症とは、高血圧や高コレステロールによって、心臓の血管の中にできたプラークという塊が血流を滞らせることで、酸素の供給が減少、最悪の場合、死に至る病です。一方、異型狭心症は、何らかの原因で心臓の血管自体が異常をきたし極度に縮んでしまうことで、血流を止めてしまう病です。つまり、異型狭心症は血液に異常がなくても起きてしまう狭心症なのです。だからこそ、健康診断の血液検査でも、S・Hさんには異常が見られなかったのです。では、彼の心臓の血管が異常をきたした原因は何だったのでしょうか?それは意外にも彼の性格にありました。せっかちで、いつも時間に追われている典型的な仕事人間だったS・Hさん。こうした性格は「タイプA」と呼ばれ、ストレスを感じやすい性格だと言われています。そして、このストレスこそが、心臓の血管にとって最大の敵なのです。S・Hさんの場合、プロジェクトを任されるというプレッシャーと家族との約束が、さらなるストレスを生み出し、極度の疲労も相まって、心臓の血管は致命的な異常をきたしてしまいました。胸に重石を載せられたような痛みは、病の始まりを告げる最初のサイン。この時、ストレスによって異常をきたしていた心臓の冠動脈は、過剰に縮んでいたのです。そのため、心臓の筋肉に血液が届かず、酸素不足に陥っていました。しかし、冠動脈は数分後には元に戻ってしまうため、痛みはウソのように消えてしまったのです。これが異型狭心症の恐ろしさ。すぐに痛みが治まるため、多くの人が「たいしたことはない」と思い込んでしまうのです。こうして症状は次第に悪化。そして極度の酸素不足に陥り、異常な動きが生じてしまう心室細動によって死に至ってしまったのです。ではなぜ明け方の時間だけ、胸の痛みが襲ったのでしょうか?実は異型狭心症の発作は、自律神経の一つ、副交感神経が活発となるリラックスした状態の時に発症します。これは体も精神も、最もくつろいでいる明け方の時間帯。だからこそ、日中にとった心電図では発見することが難しいのです。異型狭心症は、日本人に多く見られる狭心症と言われます。それはタイプAの性格が日本人に多いため。時間や仕事に追われ、働きすぎてストレスを蓄積。そんな人が異型狭心症を発症しているのです。 |