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『本当は怖い息切れ〜山に潜む黒い悪魔〜』 |
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K・Tさん(男性)/ 52歳(当時) |
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サラリーマン |
ゴールデンウィーク、妻に誘われ、初心者向きの登山コースにやってきたK・Tさん。日頃から運動不足で、40歳を過ぎた頃から太りはじめた彼は「たまには汗を流すのもいいだろう」、そう考えていました。ところが、登山を始めて15分後、普段の運動不足がたたったのか、早くも息切れ。しばらく休むと息切れはおさまり、再び登り始めますが、その後も新たな異変に襲われます。 |
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(1)息切れ
(2)胸が重苦しくなる
(3)胸が締めつけられる
(4)胸が突き刺されるような激痛
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心筋梗塞(しんきんこうそく) |
<なぜ、息切れから心筋梗塞に?> |
「心筋梗塞」とは、心臓に血液を送り込む血管がつまることで酸素の供給が不十分となり、心臓の筋肉が壊死。最悪の場合は死に至る恐ろしい病。中高年の登山ブームの中、登山やハイキング中の突然死が数多く報告されています。そのほとんどが心筋梗塞だと言われているのです。ではなぜK・Tさんは、こんな初心者向きの登山コースで、しかも登り始めてからわずか1時間で死に至ってしまったのでしょうか?元々ヘビースモーカーで脂っこいものが大好き。普段、ほとんど運動することがなかったK・Tさんは、以前から心筋梗塞の4大危険因子を全て持っていました。一つ目は血管の壁を傷つけ、動脈硬化を進める高血圧(160/90mmHg以上が危険とされる)。二つ目は高脂血症(総コレステロールの値が220mg/dlが危険とされる)。余分なコレステロールが血管壁に付着。プラークという塊を作っていました。3つ目は糖尿病(血糖値が200mg/dl以上が危険とされる)。過剰な糖分が血管壁を傷つけ、動脈硬化が進行していたのです。そして最後は喫煙。ニコチンが血管を収縮させ、動脈硬化を促進していました。心臓に4つの危険因子をはらんだK・Tさんの登山は、まさに自殺行為。実は登山は7〜8時間歩き続けると、フルマラソンにも匹敵すると言われているほど、酸素を大量に必要とします。そんな登山で、最初にK・Tさんを襲ったのは息切れでした。この時、彼の心臓は沢山の血液を必要としているにも関わらず、冠動脈の血液が流れにくくなり、心臓に十分な酸素を送り込めなくなる狭心症を発症していました。そんな心臓の異常に気づかず登山を続けたK・Tさん。さらに発汗作用によって血液中の水分とミネラル分が失われ、血液はより濃縮。血流が滞るようになってしまったのです。そして次なる症状が、あの胸の重苦しさでした。これは激しい運動によって血圧が上昇。悪玉コレステロールの塊によって、細くなっていた心臓の冠動脈が詰まり始めたことが原因でした。そのため以前にも増して、心臓の筋肉に必要な酸素と栄養を送り込むことが出来なくなっていたのです。あの胸の痛みは、酸素不足に陥った心臓の悲鳴だったのです。そして最後の落とし穴は、いったんその痛みが治まったこと。これは休息したことで血圧が下がり、心臓の負担が減少。そのため少ない酸素でも心臓が機能しただけのことでした。しかし一安心したK・Tさんは、再び動き始めてしまったため、血圧が上昇。悪玉コレステロールの塊が破れて流れ出し、一気に血栓が出来てしまいました。そのため、彼の冠動脈は完全に塞がり、酸素の供給がストップ。酸欠となった心臓の筋肉が壊死してしまったのです。こうした登山中の心筋梗塞は、早朝、体が激しい運動に慣れていない登り始めから1時間以内に起こることが多いと言われています。普通の場所であれば、すぐに救急車で運ばれ、助かる見込みもあったのに…。こうした人里離れた山奥で発症した場合は、手遅れになってしまうこともあるのです。 |