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『本当は怖い声のかすれ~見えない時限爆弾~』 |
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Y・Sさん(男性)/58歳(当時) |
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工務店経営
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親分肌で情に厚いY・Sさん(58歳)は、カラオケが唯一の趣味。仕事上がりには必ず、社員を引き連れて馴染みのカラオケスナックで盛り上がっていましたが、ある夜、絶好調で歌っていた時、一瞬、自慢の声がかすれました。幸い咳払いをすると、それはすぐに治まりましたが、やがて新たな異変が忍び寄ります。 |
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(1)声がかすれる
(2)咳き込む
(3)食べ物が飲み込みにくい
(4)血痰
(5)胸と背中に激痛
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胸部大動脈瘤(きょうぶ だいどうみゃくりゅう) |
<なぜ、声のかすれから胸部大動脈瘤に?> |
「胸部大動脈瘤」とは、心臓から出ている一番太い血管・胸部大動脈がコブのように膨らみ、最悪の場合死にいたる病です。60代以上の男性に多く、毎年1000人近い命を奪っているこの病気。その予備軍は、実に8万人に達すると考えられています。しかし、なぜY・Sさんは、胸部大動脈瘤の犠牲者になってしまったのでしょうか?最大の原因は、タバコと高血圧でした。40年近く、毎日2箱のタバコを吸い続けてきたY・Sさん。その結果、胸部大動脈で徐々に動脈硬化が進行。血管がもろくなっていました。この血管の壁を、心臓から送り出された血液が、高血圧の勢いも加わって激しく圧迫。長い時間をかけ、胸部大動脈の一部を膨らませていったのです。ちなみに正常な胸部大動脈の直径は、2㎝ほど。これがY・Sさんの場合、6㎝もありました。これはまさにギリギリの状態。恐ろしいことにこの病気は、こうなって初めて自覚症状が現れてくることが多いのです。Y・Sさんを襲った「声のかすれ」や「咳き込み」。あれは大きくなった胸部大動脈瘤が声帯の神経を圧迫。結果、声帯が麻痺してしまったことで声が出にくくなり、唾液などがうまく飲み込めず咳き込んでしまったのです。しかし、声帯の麻痺は一時的に回復するため、こうした症状が治まってしまうこともあるのです。これこそが胸部大動脈瘤の落とし穴。ついつい見逃してしまう恐るべき病なのです。「食べ物が飲み込みにくい」という症状は、動脈瘤が食道を圧迫したために起きたもの。「血痰」は、動脈瘤が破れかけ、すぐ隣にある肺の中に血液がじわじわと染み出したものでした。この時、すでにY・Sさんの大動脈瘤は、いつ破裂してもおかしくない状態。それでも、すぐに専門医の診察を受けていれば、最悪の事態は避けられたかも知れません。しかし、病院に行こうとしたその矢先、「大きな異常はなし」という健康診断の結果が届いてしまいます。実は胸部大動脈瘤はレントゲンに写らないことがあり、通常の健康診断では発見されにくいのです。それなのにお酒を飲んで血圧が上がった体のまま、マイクを握ったY・Sさん。クライマックスで全身に力をこめた瞬間、極限まで膨れあがっていた胸部大動脈瘤が破裂。致命的な大出血を引き起こし、倒れてしまったのです。いったん胸部大動脈瘤が破裂してしまうと、その生存率はわずか25%。それはまさに「見えない時限爆弾」なのです。 |