診察室
診察日:2005年5月24日
テーマ: 『本当は怖い足のかゆみ〜悪魔が微笑む夜〜』
『本当は怖い早食い〜蝕まれたスクリーン〜』

『本当は怖い足のかゆみ〜悪魔が微笑む夜〜』

K・Eさん(女性)/45歳(当時) 主婦(スーパーにパート勤務)
家計を助けるため、2年前からスーパーのパートで働いていたK・Eさん。結婚から20年以上の間、病気らしい病気をしたことがありませんでしたが、ある夜、足にちりちりするようなかゆみを感じました。見たところ特に異常はなく、しばらくかいていると、かゆみは治まってしまいましたが、その後も次々と異変が現れます。
(1)足のかゆみ
(2夜、足がむずむずする
(3)ぐっすりと眠れない
(4)足先が勝手に動く
(5)足をミミズが這い回る感覚
(6)昼間も足がむずむずする
むずむず脚症候群
<なぜ、足のかゆみからむずむず脚症候群に?>
「むずむず脚症候群」とは、足首から腿にかけて「むずむず」「チクチク」といった異様な感覚が生じ、じっとしていられなくなる病。症状が悪化すると睡眠障害からうつ病を招き、最悪の場合、自殺する人もいる恐ろしい病気です。40歳以上の人が多く発症し、症状の軽い人も含めると、国内だけで実に200万人近い患者がいると言われています。でもなぜK・Eさんは、この病に冒されてしまったのでしょうか?残念ながら、発病のメカニズムは、はっきり判っていません。ただ大きな要因と考えられているのが、体質と食生活です。K・Eさんは、もともと貧血気味でした。しかもほうれん草やレバーといった鉄分を豊富に含む食べ物が苦手。そのため、慢性的に鉄分が不足していました。そう、この鉄分不足が、K・Eさんの全身の神経に異常をもたらしたのです。人間の神経で情報の受け渡しを行うドーパミンという物質は、鉄分が不足すると分泌量が減り、情報を正しく伝えることができなくなってしまうのです。K・Eさんを襲った、あの奇妙な感覚の数々。それはすべて脳への情報が誤って伝えられたせいで起きた、足の感覚異常だったのです。一方、「足が勝手に動く」という症状は、逆に脳からの指令が誤って足の筋肉に伝わり、勝手に動いてしまったものでした。また症状が夜間に集中したのは、夕方から深夜にかけてドーパミンの分泌量が低下するため。屈伸すると症状が治まったのは、身体を激しく動かすことで一時的にドーパミンの分泌量が増えたためだと考えられます。そして、この病気の最も恐ろしいところは、症状の悪化に伴う睡眠不足と過度のストレスから、本人も気づかないうちに「うつ病」になってしまうこと。K・Eさんも、このうつ病が悪化。発作的に自らの足を切り落とそうとしてしまったのです。幸い彼女の場合、不足した鉄分を補うことで、4週間後には元の生活に戻ることが出来ました。実は、むずむず脚症候群はまだ、医師の間でも十分に認知されていないのが現状です。だからこそ、疑わしい症状が出た場合は睡眠障害の専門医を訪ね、自ら病名をアピールすることが大切なのです。
「むずむず脚症候群にならないためには?」
(1) バランスのとれた食事を心がけ、鉄分が不足しないように注意する。
(2)眠れない時は、むずむず感など足の異常がないかをよくチェックする。
(3)もし、そんな症状がある時は、睡眠外来などの専門医に病名を告げて 検診されることをおすすめします。
『本当は怖い早食い〜蝕まれたスクリーン〜』
O・Nさん(男性)/35歳(当時) 飲食店経営
夫婦で営む定食屋が繁盛し、大忙しの毎日を送っていたO・Nさん。一息ついて食事にありつけるのは、ランチタイムが終わってから夜の仕込みまでの短い時間。そのため、彼はご飯もよく噛まず、急いでかきこむ早食いが癖になっていました。そんなO・Nさんに最近気になることが・・・。たっぷり食事を摂っても、1時間もすると、お腹が減って仕方がないのです。なぜ、こんなにお腹がすくのか本人にもわかりませんでしたが、その後もさらなる異変に襲われます。
(1)空腹感
(2)目の中に黒い糸くずのような物が浮かぶ
(3)風景がゆがんで見える
(4)岩のような物が見える
(5)視覚が真っ赤に染まる
糖尿病性網膜症(とうにょうびょうせい もうまくしょう)
<なぜ、早食いから糖尿病性網膜症に?>
「糖尿病性網膜症」とは、糖尿病の合併症の一つで、目の網膜に障害が起きる病。糖尿病が進行すると、3人に1人が発症し、年間3000もの人々が、この病で失明しています。実はO・Nさんも10年前から重度の糖尿病に蝕まれていました。そもそも糖尿病は、血液が糖分で溢れかえり、全身の血管で障害が起きる病。O・Nさんの場合、そのターゲットとなったのは目の網膜でした。網膜は、眼球の裏側にある見たものを映し出す膜のこと。その表面をびっしりと覆った毛細血管が長年、糖分だらけの血液にさらされたことで、いつしか詰まっていたのです。その結果、酸素不足に陥った網膜では、新生血管という新しい血管を作り出しました。ところが、この新生血管はもろく、破れてしまいやすいのが特徴。ただの 飛蚊症(ひぶんしょう)だと思い込んでいた、あの目の中に浮かんだ黒い糸くずのようなもの、そして風景が歪んで見えた現象は、新生血管から出血した結果、網膜の細胞があちこちで死んでしまい、見たものが正常に映らなくなったことによるものでした。そしてついに迎えた運命の朝。O・Nさんが見た、目の中の岩のようなもの。あれは寝ている間に、眼球の内側で出血したことが原因。岩のような影は、血液が固まったものだったのです。そして、この時のショックで彼の血圧は上昇。ついに大出血が起こり、眼球全体が血で赤く染まってしまったのです。では一体なぜ、O・Nさんは、ここまで重度の糖尿病になってしまったのでしょうか?その原因は、彼の食べ方にありました。小さい頃から、よく噛まず急いで食べ物をかきこむ、いわゆる「早食い」が癖だったO・Nさん。こういう食べ方をすると、血液中に糖分が急激に増加し始めます。すると、すい臓はこの糖分を処理しようと、インスリンを一気に大量分泌。その機能は大きく低下していました。例え、O・Nさんと同じ量の食事を摂ったとしても、妻のHさんのようにゆっくり食べていれば、インスリンの分泌はゆるやかになり、すい臓にも負担はかからなかったのです。こうして長年に渡り、糖尿病に蝕まれたO・Nさん。ようやく現れた症状が、あの異常な空腹感でした。あれこそ彼にとって、糖尿病を知らせる唯一のシグナルだったのです。
「糖尿病性網膜症にならないためは?」
(1) 一口で20〜30回噛む。
(2) 低カロリーの食事を心がける。
(3) 高血圧にならないよう注意。
(4) もしちょっとでも身体に違和感を覚えたら、病院で検診されることをおすすめします。