診察室
診察日:2005年6月21日
テーマ: 『本当は怖いお腹のはり〜むなしき愛読書〜』
『本当は怖い鼻づまり〜無邪気な堕天使〜』

『本当は怖いお腹のはり〜むなしき愛読書〜』

K・Kさん(男性)/48歳(当時) 書店経営
商店街で書店を営むK・Kさんが最近、夢中になっているのは健康。暇さえあれば、店の医学関係の本を読み漁る一方、年に1度は必ず人間ドックで検査を受けていました。その年もコレステロール値が少し高い以外は、大きな異常がなくほっと一安心。しかし、人間ドックから1週間ほどたった頃、下腹部に“軽いはり”を感じます。それでも、おならをするとお腹はスッキリしたため、特に気にとめていなかったK・Kさん。ところが、3ヶ月が過ぎた頃から、新たな異変が現れます。
(1)お腹のはり
(2)右下腹部がキリキリ痛む
(3)激しい嘔吐
陥凹型結腸癌(かんおうがた けっちょうがん)
<なぜ、お腹のはりから陥凹型結腸癌に?>
「陥凹型結腸癌」とは、最も発見が困難とされる大腸癌の一種。通常の大腸癌は「隆起型」と言って、ポリープが何年もかけて大きくなり、その一部がゆっくりと癌化し増殖。そのため、癌細胞が大きくなると、癌に便がこすれ、血液が付着します。便に血が混じったり、排便時に出血するのは、この隆起型大腸癌の特徴なのです。一方、陥凹型結腸癌は、腸壁の内側の正常な粘膜が突然癌化し、クレーターのようにくぼんで出来るのが特徴。癌そのものがくぼんでいるため、便が通過しても、出血はほとんどありません。これこそが、この病の最大の落とし穴。陥凹型結腸癌は、便に血が混じらないことが多いのです。さらに、この癌の場合、通常の人間ドックの検査では発見が難しく、内視鏡検査で初めて見つかることが多いのです。そればかりか、K・Kさんは自分勝手な解釈で、病を誤解し続けていました。最初にK・Kさんを襲った、お腹のはり。あれは癌細胞の増殖によって、腸管が狭くなったため、ガスがたまっていたのです。そして下腹部のキリキリするような痛み。大腸で、陥凹型の癌がもっとも多く発生する場所は、右側の結腸。K・Kさんの場合も、増殖した癌によって結腸が圧迫され、便が通りにくくなったため、あの痛みを感じたのです。そして、最終警告となった嘔吐は、さらに肥大化した癌が便を詰まらせ、その結果、腸に大量の消化物がたまったため。この癌が恐ろしいのは、発見が難しいばかりか、通常の隆起型の大腸癌に比べ、進行が早く、さらに他の臓器に転移しやすいこと。そのため、発見された時には、手遅れになっている場合が多いのです。K・Kさんの場合も、すでに肝臓に転移。治療が続けられましたが、2年後に再発。帰らぬ人となってしまいました。日本でも、年々、増え続ける大腸癌。2015年には、胃癌や肺癌を抜き、大腸癌がトップに躍り出ると予測されています。そのため、40歳を過ぎたら、通常の人間ドックの検査だけではなく、腸の内視鏡検査もぜひ必要だと言われているのです。
「陥凹型結腸癌にならないためには?」
(1) バランスのとれた食事や禁煙を心がける
(2)運動不足などに注意しましょう
(3)家族に大腸癌になった方がいる場合は特に注意
(4)もしちょっとでも体に違和感を覚えたら、病院で検便や内視鏡などの詳しい検査をされることをお勧めします
『本当は怖い鼻づまり〜無邪気な堕天使〜』
S・Yさん(女性)/50歳(当時) スナック経営
小さなスナックのママ、S・Yさんは、2年前、夫の浮気に耐えかねて離婚。子供のいない彼女は、離婚後に飼い始めた愛犬‘ビター‘と過ごす時間を生き甲斐にしていましたが、最近“しつこい鼻づまり”に悩まされるようになりました。夏風邪かと思った彼女は、市販の風邪薬を飲み、鼻づまりはいつの間にか消えましたが、2週間ほど過ぎた頃から、新たな異変に襲われます。
(1)鼻づまり
(2)目の充血
(3)咳
(4)咳が止まらない
(5)高熱
(6)血痰
パスツレラ症
<なぜ、鼻づまりからパスツレラ症に?>
「パスツレラ症」とは、パスツレラ・ムルトシダという細菌によって引き起こされる感染症のこと。この菌に感染すると、皮膚の化膿や敗血症、さらには髄膜炎などを引き起こし、最悪の場合には死にも至る恐ろしい病です。S・Yさんは思わぬところから、このパスツレラ菌に感染していました。それは、なんと、ペットのビター。パスツレラ菌は、人間以外のほ乳類の、口の中や爪に住み着いているありふれた細菌。猫の97%、犬の75%が、この菌を保有していると言われています。では、どのようにしてS・Yさんは、感染してしまったのでしょうか?それは節度を超えたペットとの接し方にありました。例えばパスツレラ菌は、キスなどによっても感染してしまうのです。ビターの口からS・Yさんの鼻の中に進入したパスツレラ菌は、鼻の炎症を引き起こし、膿がたまりました。そう、彼女のあの鼻づまりは、風邪ではなく、パスツレラ菌が原因でした。そして、ビターと同じベッドで寝ていたことで、S・Yさんは、新たな症状に襲われます。目の充血です。これはパスツレラ菌が目に入り込み、炎症を起こしたと考えらます。パスツレラ症は、本人の抵抗力の強さによって、感染したりしなかったりする、いわゆる日和見感染症。もし感染したとしても、通常の体力があれば自然に治るのです。S・Yさんも、鼻づまりや目の充血は治まっていました。しかしその後、睡眠不足の日々が続き、抵抗力が衰えていたS・Yさん。そんな時、彼女はやってはならない行為をしてしまいました。自分のスプーンでビターに食べさせ、その同じスプーンを口に運んでしまったのです。その結果、パスツレラ菌を含んだビターの唾液は、呼吸器官に侵入。気管支が炎症を起こし、ついには重い肺炎にまで至ってしまったのです。幸いにも、一命を取り留めたS・Yさん。今は、節度ある触れ合いで、ビターとの幸せな時間を過ごしています。ペットブームの今、日本では、パスツレラ症患者は、毎年、25%から35%の増加を続けています。しかし、まだまだこの病気が知られていないため、潜在的な患者数は、数多く存在すると言われているのです。
「パスツレラ症にならないためは?」
(1) ペットを寝室に入れない
(2) 自分が使う箸やスプーンで食べ物を与えない
(3) ペットを食品のあるところに連れて行かない
(4) 糖尿病や肝臓病などは抵抗力が弱まっているので注意
(5) 手洗いやうがいをきちんとする
(6) あくまで人間の行動に責任があると自覚することが大切です。
決してペットが悪いわけではありません。正しい知識でペットとの生活を楽しみましょう。
もし、ちょっとでも体に違和感を覚えたら、病院で検診されることをお勧めします。