診察室
診察日:2005年7月5日
テーマ: 『本当は怖い薬の飲み方(1)〜体に合わない薬〜』
『当は怖い薬の飲み方(2)〜古い薬〜』
『本当は怖い薬の飲み方(3)〜薬の飲みすぎ〜』

『本当は怖い薬の飲み方(1)〜体に合わない薬〜』

K・Aさん(女性)/27歳(当時) アルバイト(大手ファッションブランド勤務)
憧れのファッション業界で1年間アルバイトとして働いてきたK・Aさん。真面目な仕事ぶりが認められ、10日後の面接試験に合格すれば正社員に採用されることになっていました。しかし、そんな大切な時期に熱を出してしまい、夏風邪かも知れないと思った彼女は、いつも服用していた解熱鎮痛剤を飲むことに。薬の効果はてき面で、その日の午後には熱は下がっていましたが、効果が薄れるとまた熱が上がるため、K・Aさんはその後3日間に渡り、解熱鎮痛剤を飲み続けました。4日目には体調も戻り、一安心しますが、いつの間にか、両腕にかぶれたような発疹ができていました。特にかゆみはないため、放っておいた彼女ですが、翌朝から新たな異変が現れます。
(1)発疹
(2)微熱
(3)倦怠感
(4)白目が黄色くなる
(5)異常行動
薬剤性劇症肝炎(やくざいせい げきしょうかんえん)
<なぜ、体に合わない薬で薬剤性劇症肝炎に?>
「薬剤性劇症肝炎」とは、突然薬に対するアレルギー反応がおきることで、発症する病。飲んだ薬が何らかの原因により毒性の高い物質に突然変化。肝臓を攻撃し、ほとんどすべての細胞を破壊してしまうという恐ろしい病です。K・Aさんの場合、風邪の熱を下げようとした、あの解熱鎮痛剤が最も疑わしいと考えられます。では彼女には、薬のアレルギー反応が始まったことを知る手だてはなかったのでしょうか?実はK・Aさんが服用していた薬の説明書には、「発疹などが出た場合は、ただちに服用を中止し、医師または薬剤師に相談すること」と注意書きがありました。K・Aさんの場合、薬を飲んだ翌日に出た、あの両腕の発疹こそアレルギー反応が始まったことを知らせる重要なサインでした。しかし彼女は説明書を全く読まなかったため、サインに気づかず放っておいてしまったのです。その後、再び微熱と倦怠感に襲われたK・Aさん。一見夏風邪の症状にも見えますが、実はそれが落とし穴。それらはすべて薬剤による肝臓の異常が原因だったのです。さらに薬を飲み続けた彼女の肝臓は、猛スピードで蝕まれていきました。こうして現れた最終警告が、あの黄色い目。あれは黄疸の症状であり、肝炎が劇症化したことを知らせる重大なサインだったのです。しかし大切な面接を控えたK・Aさんは、そのサインを気にしている余裕はありませんでした。そして病院へ行かなかったことで、ついに病は最悪のステージへ。肝臓が体内の有害物質を解毒できなくなったため、アンモニアなどの有害物質が血流に乗って脳に到達。ボーッとして居眠りをしたり、面接試験で異常な行動を取ったのは、すべて脳に毒素が回ったために起きた症状だったのです。ここまで症状が進行すると、多くの場合、生体肝移植という治療をする必要があります。しかしK・Aさんは肝臓の提供者を見つけることができず、亡くなってしまったのです。最初に薬を飲んでから、たった2週間後のことでした。薬剤アレルギーは、薬を飲むだけで突然発症する病。つまり誰にでも起こりうること。特に花粉症や気管支ぜんそくなどアレルギー体質の方は薬剤アレルギーを発症しやすく、重篤な病に至る危険性が高くなると考えられているのです。
「薬アレルギーで命の危険にさらされないためには?」
(1) 自分のアレルギー体質を知る
(2) 薬を飲むときは説明書をよく読み、発疹、発熱、倦怠感などの症状を見落とさないよう注意する
(3) 誰にも突然襲いかかるのが薬アレルギー。もし薬を飲んで体に違和感を覚えたら、迷わず病院で検診されることをおすすめします
『当は怖い薬の飲み方(2)〜古い薬〜』
I・Rさん(女性)/ 53歳(当時) 保険会社の営業員
10年前に夫を亡くし、一人娘を大学まで出してやりたいと頑張ってきたI・Rさん。その娘も大学を卒業し、あとは第二の人生を豊かに暮らしたいと思っていました。そんなある朝、突然くしゃみと鼻水が止まらなくなった彼女は、薬箱にあった使いかけの鼻炎薬を飲むことに。薬が効いたのか症状はいったん治まりますが、昼過ぎになるとまた、くしゃみと鼻水がぶり返し、I・Rさんは1日3回、まる2日間同じ薬を服用し続けました。すると3日目の朝、ズキズキと脈打つような頭痛に襲われたI・Rさん。もともと頭痛持ちの彼女は、いつものことと軽く考えていましたが、その後、更なる異変に襲われます。
(1)頭痛
(2)手のしびれ
(3)激しい頭痛
(4)半身麻痺
脳内出血
<なぜ、古い薬で脳内出血に?>
「脳内出血」とは、脳の中の血管が切れ脳の一部が壊死、最悪の場合、死に至る恐ろしい病です。でもなぜI・Rさんは突然、脳内出血に見舞われてしまったのでしょうか?様々な検査の結果、浮上してきたのは彼女が服用していたあの鼻炎薬。薬に含まれる成分に、問題があったのではないかと考えられたのです。それは「塩酸フェニルプロパノールアミン」。通称、PPA。このPPAという物質には、交感神経に働きかけ血管を収縮させる作用があります。血管が収縮すると血流が速まり、鼻の粘膜にたまっていた血が取り除かれます。その結果、鼻づまりが解消。鼻炎の症状が緩和されるのです。もちろん、用法を正しく守り使用している限り、問題はなかったはず。ところが、I・Rさんは薬の服用から脳内出血を起こす、重大な原因を抱えていました。タバコやアルコールが大好き、おまけに多忙で不規則な生活を送っていた彼女は、自分でも気づかぬうちに高血圧症になっていたのです。しかもその数値は、最低血圧100、最高血圧150という高いレベル。実は、彼女が午前中に感じていたあの軽い頭痛こそ、高血圧のサインでした。ところがI・Rさんはそのサインを見過ごし、PPAが含まれている鼻炎薬を服用してしまいました。薬のケースに「高血圧の人は使ってはいけない」という注意書きがあったことにも気づかぬまま・・・。そう、あの薬は高血圧の人が使うと、重大な副作用が起きる可能性があったのです。それを知らずにPPAを含む鼻炎薬を2日間服用し続けたI・Rさん。その結果、ただでさえ高かった彼女の血圧は、PPAによってさらに上昇。ズキズキと脈打つような頭痛を引き起こしました。そして最後の瞬間、血圧の上昇に耐えきれなくなった彼女の脳の動脈は、ついに破裂。脳内出血を起こし、半身麻痺に陥ってしまったのです。I・Rさんの場合、救命処置のお陰もあって、その後意識を回復。一命を取り留めることが出来ましたが、あと少し発見が遅れていたら、手遅れになっていたかも知れないのです。
I・RさんのようにPPAの服用による脳内出血が報告されたのは、日本では7例。アメリカでは服用患者が死亡した例も確認されました。こうしたかつてない事態に、2003年8月、厚生労働省は各製薬会社に対して、PPAを含む市販薬の製造中止を指導。一方、製薬会社もPPAの危険性を訴え、積極的に回収を進めました。その結果、現在販売されている薬はすべて、PPAにかわる安全な成分を含むものへと変更。事実、製造中止となって以降、PPAによる脳内出血は一度も起きていません。しかし、万が一、あなたがご家庭の古い薬を処分されていないなら、そこにはまだ危険が潜んでいる可能性もあるのです。
「古い薬で危険な目に遭わないためは?」
(1) 使用期限を守る
(2) 開封した日付を把握していく
(3) 使用上の注意をよく読む
(4) 薬は正しい保管をしてこそ、本来の効果が得られることを忘れずに。
心当たりのある方は、今すぐご自宅の薬箱をチェックしてみるようおすすめします。
『本当は怖い薬の飲み方(3)〜薬の飲みすぎ〜』
K・Mさん(女性)/56歳(当時) 主婦
腰の痛みが消えないため、近所の整形外科を訪れたところ、骨粗しょう症と診断されたK・Mさん。彼女の腰痛は、骨粗しょう症で弱くなった腰の骨が上半身を支えきれなくなり、圧迫されていたことが原因でした。K・Mさんは処方されたカルシウムと活性型ビタミンD3という2種類の処方薬を服用。さらに徹底した食事療法や骨を丈夫にする運動をはじめました。しかし、2週間たっても腰痛が一向に治まらないため、総合病院の整形外科を訪れ、別の医師の診断(セカンドオピニオン)を聞くことに。でもこの時、K・Mさんは別の病院で骨粗しょう症と診断されたことは伏せていました。この病院でも骨粗しょう症と診断され、カルシウムと活性型ビタミンD3を処方されたK・Mさん。たくさん飲めば早く治るかもしれないと2つの病院で貰った処方薬を両方飲むことにしますが・・・。数ヶ月後、異変に襲われ始めます。
(1)イライラする
(2)むくみ
(3)尿が出ない
急性腎不全
<なぜ、薬の飲みすぎから急性腎不全に?>
「急性腎不全」とは、血液の毒素などを取り除き、尿をつくる腎臓の機能が、急激に低下する病。治療が遅れれば、死に至ることもあります。しかし、骨粗しょう症の治療をしていたK・Mさんが、一体なぜ急性腎不全になってしまったのでしょうか?その原因は、彼女の間違った薬の飲み方にありました。たくさん飲んだ方が早く治る。そう思い込んでしまったK・Mさんは、骨粗しょう症の治療薬であるカルシウムを指示されている倍の量飲み続けました。これがカルシウムだけなら特に問題はありません。本来カルシウムは、体内のビタミンDの量によって制限されているため、体内に吸収されないのです。しかし、彼女は、カルシウムの吸収を助ける処方薬、活性型ビタミンD3も一緒に飲んでいました。その結果、大量に摂ったカルシウムがすべて体内に吸収されてしまったのです。こうして骨では使い切れない余分なカルシウムは、全身をかけめぐり、神経細胞を刺激し始めます。それがあのイライラの原因。そうとも知らず、K・Mさんは、さらに余分なカルシウムを飲み続けてしまいました。その余分なカルシウムによって、破壊し始めたのが腎臓。それまで腎臓はK・Mさんが摂りすぎた余分なカルシウムを尿と一緒に排出していました。しかし、あまりに大量なため、処理できなくなり、腎臓の中にカルシウムが溜まり始めたのです。あのむくみと尿が出ないという症状は、溜まってしまった大量のカルシウムによって、腎臓が壊死し、尿を作れなくなってしまったのが原因。そしてついに尿として排出されなかった毒素が、脳へと達する尿毒症へと進行。K・Mさんは意識不明の状態に陥ってしまったのです。骨粗しょう症の恐怖から逃れようと焦るあまり、薬を飲みすぎ、思わぬ病に冒されてしまったK・Mさん。現在彼女は、週3日、1日4時間におよぶ人工透析を受け、徐々に回復に向かっています。
「薬を飲んで危険な目に遭わないためには?」
(1) 使用上の注意をきちんと読む
(2) 医師や薬剤師の指示を守るなど、正しい飲み方を心がける
(3) それでこそ薬は大きな効果を発揮してくれるのです。
もし自分で判断しにくいことがあったら、医師や薬剤師に相談されることをおすすめします