診察室
診察日:2005年7月12日 
テーマ: 『本当は怖い朝の頭痛〜自縛〜』
『本当は怖い子供の頃の頭痛〜悪魔の目覚め〜』

『本当は怖い朝の頭痛〜自縛〜』

S・Aさん(女性)/52歳(当時) 編集会社社長
いつかは自社出版をという夢を胸に、結婚もせず、がむしゃらに働いてきたS・Aさん。5年前に受けた健康診断で血圧が高いから注意するように言われていましたが、特に症状があるわけでもなく、毎日のように夜の街に繰り出し飲み歩いていました。そんな彼女を最初の異変が襲ったのは、いつものように深酒をした翌朝のこと。ベッドから起きあがった時、頭全体にズキンズキンという痛みを感じたのです。1時間後、会社に着いた頃には頭痛はすっかり消えていましたが、その後も奇妙な異変に見舞われます。
(1)朝の頭痛
(2)目のかすみ
(3)体がおしっこ臭い
(4)顔のむくみ
 悪性高血圧症
<なぜ、朝の頭痛から悪性高血圧症に?>
「悪性高血圧症」とは、急激に血圧が上昇し全身の臓器に障害を起こすことで、最悪の場合、死に至る恐ろしい病。S・Aさんの場合も、すべての原因は高血圧にあったのです。まず高血圧が真っ先に狙い撃ちしたのが、「腎臓」でした。腎臓は血液をろ過し、老廃物や不要な水分を尿として体の外に排泄する重要な臓器。高血圧を放置していたS・Aさんの腎臓では、無数に存在する細かい血管が絶えず、ものすごい圧力にさらされていました。そのため血管の壁がどんどん厚くなり、弾力性を失う動脈硬化を起こしていたのです。その結果、血液が流れにくくなり、腎臓がろ過できる血液の量が著しく減少。すると腎臓は、ろ過できる血液の量を増やそうと血圧を上げる物質を大量に分泌してしまうのです。そうなると、全身の血圧は上昇し、動脈硬化はさらに進行。そのため、血圧を上げる物質がいっそう分泌され、高血圧と動脈硬化がどんどん進んでしまうという悪循環に。これこそ「悪性高血圧症」が引き起こす悪魔のスパイラル。そんな危険な病の最初のサインが、「朝の頭痛」でした。体が眠りから目覚める朝は、血圧が急激に上がる危険な時間。この時、S・Aさんの血圧は、異常なまでに高まり、脳全体の圧力が上昇。頭痛を引き起こしてしまったのです。さらには脳の圧力が高まったことで視神経が脳に圧迫され、モノがかすんで見えてしまいました。しかし、その後も不摂生を続けてしまったS・Aさん。その結果、腎臓の動脈硬化は加速度的に進み、機能が低下。本来なら尿として体外に排泄すべき不要な水分や物質を、血液中に大量に残してしまう「尿毒症」へと進行してしまいました。それが、「おしっこ臭さ」や「顔のむくみ」の原因だったのです。すでにこの時、下の血圧が130という危険な領域に足を踏み入れていたS・Aさん。病が最後のターゲットとして選んだのは、心臓でした。異常なまでに高い圧力で血液を送り出すため、限界を超えて働いていた心臓が不整脈を起こし、ついには停止してしまったのです。現在、日本人の4人に1人が高血圧。そのうち「悪性高血圧症」は、なんと330万人にも達すると言われているのです。
「悪性高血圧症にならないためには?」
(1) 血圧を正常に保つことが大切。
(2)塩分の摂りすぎ、喫煙、アルコールの大量摂取、肥満、ストレスなど、血圧をあげる要因は出来るだけ避ける。
(3)もしちょっとでも血圧が高めなら、病院で尿検査をされることをおすすめします
『本当は怖い子供の頃の頭痛〜悪魔の目覚め〜』
O・Sさん(男性)/35歳(発症当時) コンビニ店経営
30年ほど前の東京の下町。夫に先立たれ女手一つで八百屋を営んでいたO・Mさん(当時29歳)の一人息子S君(当時5歳)は、いつも青っぱなを垂らしていました。男の子なら当たり前と誰も気にとめていませんでしたが、小学生になった頃、小さな異変が起こります。S君が度々頭痛を訴えるようになったのです。月日は流れ、八百屋はコンビニ店に生まれ変わり、35歳になったSさんは苦労をかけた母親に楽をさせてあげたいと頑張っていましたが、そんな彼の体に原因不明の異変が襲いかかります。
(子供の頃)
(1)頻繁に起こる頭痛
(35歳)
(2)ろれつが回らない
(3)手が勝手に動く
 もやもや病
<なぜ、子供の頃の頭痛からもやもや病に?>
「もやもや病」とは、脳に血液を送る動脈が何らかの原因で詰まり、その代役として脳内に無数の細い血管が新たに生み出されてしまう病。この血管がタバコの煙のように「もやもや」して見えることから「もやもや病」と呼ばれるようになりました。なぜ動脈が詰まるのか、原因は特定されていません。しかしO・Sさんの場合、その原因の一つと思われる症状が、なんと30年前に出ていたのです。それこそ彼が垂らしていた、あの青っぱな。実はあの時、彼の鼻の中では、風邪のウィルスや細菌による炎症が起きていました。放ったらしにされたその炎症は、副鼻腔にまで及び、さらにそのすぐ後ろを通る大脳の動脈にまで拡がっていきました。そのため、動脈が詰まり始めたと考えられるのです。驚くべきことに、詰まり始めた動脈は、脳の酸素不足を補おうと新たに細い血管を作り出しました。この時、起きた症状こそ、あの頭痛。あの時、詰まり始めた動脈だけではなく、頭皮の血管からも酸素不足を補うため、細い血管が大脳の中へと伸び始めていました。その結果、血流が増し、頭皮の血管が拡がったため、あのドキドキという頭痛が襲ったのです。こうして、およそ10年の歳月を経て、O・Sさんの頭の中では、詰まり始めた動脈を補うための細い血管が張り巡らされていました。そしてそのネットワークが完成し、動脈の代わりを何とか果たすことが出来るようになったため、頭痛は消えてしまったのです。しかしこれが、「もやもや病」の落とし穴。動脈の代役となったのは、元々がごくごく細い血管。十分な酸素を送ることはできず、O・Sさんの脳は、慢性的な軽い貧血状態にありました。その酸素不足が積もり積もって、脳細胞が壊死する小さな「脳梗塞」が始まったのです。ろれつが回らなくなってしまったり、手が思うように動かなくなってしまったのは、脳のあちこちで起こり始めた小さな梗塞が原因だったのです。そして、長年酷使し続けた細い血管に、限界が訪れようとしていました。重い荷物を持ち上げようと力んだことで、細い血管の血流は一気に増大、高まった圧力に耐えられなくなり、ついに破裂、脳内出血を起こしたのです。もやもや病は日本人に特に多い病。風土の違いなのか、理由は定かではありませんが、アメリカのなんと30倍という世界一の発症率なのです。
「もやもや病にならないためは?」
(1) 子供の頭痛を甘く見ないことが大切。
(2) 頭痛のほか、鼻の炎症、貧血症状、成績の低下などがある時は要注意。
(3) もし、それらの異常を感じたら病院でMRI・MRAなどの検査をされることをおすすめします。