診察室
診察日:2005年7月19日
テーマ: 『本当は怖いダイエット(1)〜脂肪の逆襲〜』
『本当は怖いダイエット(2)〜低コレステロールの罠〜』

『本当は怖いダイエット(1)〜脂肪の逆襲〜』

S・Tさん(女性)/31歳(当時) 専業主婦
主婦のS・Tさんは、夏が来る前に少しでもスリムにしたいとダイエットを決意。高タンパク・高カロリーな肉や炭水化物をなるべくさけるようにした食事ダイエットを始めました。その後、2ヶ月で15sもの減量に成功しますが、大好物のケーキに手を出したのをきっかけに堰を切ったように食べ始め、半年後、元の体重より3sも太ってしまいました。いわゆるリバウンドです。その後も夏前にダイエットしては夏が終わると再びリバウンドする悪循環を繰り返し10年が経過。その結果、彼女は75sに!「またダイエットすれば痩せるし…」と特に気にも留めなかったS・Tさんですが、彼女の体内では取り返しのつかない病魔がうごめき始めていたのです。
(1)手のひらの赤み
(2)頻繁に起こる倦怠感
(3)奇妙な行動
(4)多量の吐血
非アルコール性脂肪性肝炎
<なぜ、食事ダイエットから非アルコール性脂肪性肝炎に?>
S・Tさんの死因は「肝硬変」。その原因は、サラダとフルーツが中心のダイエットにありました。実は、そこには重要な栄養素が欠けていました。そう、たんぱく質です。通常、肝臓に送られた脂肪はタンパク質と結びつき、エネルギーとして全身に送り出されます。しかし、彼女の体内では、タンパク質不足により脂肪がそのまま肝臓にたまり続けました。これが「脂肪肝」。とはいえ脂肪肝だけなら、命に関わる症状を引き起こすことはめったにありません。しかしS・Tさんは、ダイエットとリバウンドの繰り返しによって、「非アルコール性脂肪性肝炎」を発症させてしまっていたのです。非アルコール性脂肪性肝炎とは、アルコールを飲まない人でも脂肪肝から肝炎、肝硬変、肝癌へと病状が進行していく恐るべき病。そして、その原因の一つとして考えられるのが、あの無謀なダイエットとリバウンド。こうした行為を繰り返すことは、肝臓にとって大きな負担となるのです。彼女の脂肪肝が肝炎に進行し始めたのは、手のひらの赤みと全身の倦怠感が出たあの瞬間。しかし、特に痛みはないため、放っておいてしまったS・Tさん。これこそが、沈黙の臓器と言われる肝臓の落とし穴。肝臓の機能が低下しても、症状がほとんど出ないため、気づきにくいのです。その後も、ダイエットとリバウンドを繰り返してしまったS・Tさん。この体重の急激な変化が肝臓に決定的なダメージを与え、わずか5年で肝硬変へと進行してしまったのです。こうして肝硬変を起こした彼女を襲った症状が、トイレの場所を忘れるといった奇妙な行動。そして、多量の吐血。これらは肝硬変の特徴的な症状なのです。そしてS・Tさんは、肝臓の機能が戻らないまま、帰らぬ人となりました。現在、日本人の4人に1人は脂肪肝と指摘されています。そしてS・Tさんのように無理なダイエットとリバウンドを繰り返すと、非アルコール性脂肪性肝炎を目覚めさせるばかりか、その進行のスピードも早めてしまうことがあるのです。
「非アルコール性脂肪性肝炎にならないためには?」
(1)無理なダイエットはしない
(2)リバウンドしないよう注意
(3)適正な体重を保つ努力をする
(4)栄養のバランスに気をつけ、適量のタンパク質を摂る
もしちょっとでも体に違和感を覚えたら、病院で検診されることをおすすめします
『本当は怖いダイエット(2)〜低コレステロールの罠〜』
S・Hさん(女性)/55歳(発症当時) 専業主婦
高級住宅街に暮らす主婦S・Hさん(55歳)の悩みは、最近、少しお腹が出てきたこと。5年前に閉経し更年期を迎えていた彼女は、近所の病院で検診を受けたところ、医師から「若干コレステロール値が高いので少し脂肪分を控えた方がいい」とアドバイスされました。まだまだ美しく健康に暮らしたいと思った彼女は、コレステロールが多いと言われる卵と牛乳をやめて食事の量を半分にした上、肉も出来る限り抑えるなど、コレステロールを減らしながら健康的に痩せるダイエットを開始。1年で8sもの減量に成功します。主婦仲間からもスマートになったと言われ、ダイエットをして良かったと思っていたS・Hさん。しかしある日、突然、腰の辺りに鈍い痛みを感じます。たかが腰の痛みと放っておいてしまった彼女ですが・・・。
(1)腰痛
(2)激しい腰痛
骨粗しょう症
<なぜ、ダイエットから骨粗しょう症に?>
「骨粗しょう症」とは、骨が軽石のようにスカスカの状態になり、もろくなってしまう病。現在、日本人の骨粗しょう症の推定患者数は、1000万人。そのうち女性患者はおよそ800万人で、その多くが閉経を迎えた50歳以上の女性です。S・Hさんも、まさにこの時期を迎えていました。彼女の体内でも、卵巣で作られる女性ホルモン、エストロゲンが減少していたのです。骨がもろくなるのを防ぐ力がある、この女性ホルモンが減ったことで、S・Hさんの骨は年齢相応にもろくなっていました。そして、そんな時期に始めてしまったのが、あのコレステロールをさけた食事ダイエット。一見、理想的に見えるこのダイエット法には、彼女の年齢にとって、必要なものが抜け落ちていたのです。それはコレステロールを減らすために避けた、あの牛乳と卵。牛乳にはカルシウムが豊富に含まれ、卵にはカルシウムの吸収を助けるビタミンDが含まれています。この二つの成分が足りなかったために、S・Hさんの体内ではカルシウムが吸収されず、慢性的に不足してしまったのです。さらにビタミンDが豊富に含まれる魚介類やキノコなどが昔から苦手で好んで食べなかったことも、カルシウム不足に一層の拍車をかけていました。そんなことも知らず、食事ダイエットを続けてしまったS・Hさん。彼女の体は、ついに自らの骨を溶かしてまでカルシウムを補おうとし始めました。こうして、ただでさえ骨がもろくなっている更年期に、間違ったダイエットを続けてしまったS・Hさんの骨は、加速度的にもろくなってしまったのです。さらにもう一つ、意外な落とし穴が。あのダイエットで確かにS・Hさんの皮下脂肪の量は、徐々に減っていきました。実は脂肪でも、わずかではありますが、女性ホルモンのエストロゲンが分泌され、骨がもろくならないようにサポートをしています。しかしS・Hさんはダイエットで脂肪を減らしてしまったために、脂肪から供給されるエストロゲンさえも減っていき、骨がますますもろくなってしまったのです。間違ったダイエットを続けていたS・Hさんに現れた、その症状が腰の痛み。あの時、スカスカになった背骨は、押しつぶされ変形しはじめていたのです。彼女に骨粗しょう症の危険を知らせたサインは、これだけ。実は、この病ははっきりとした自覚症状がほとんど現れないのです。これこそが骨粗しょう症の最も恐ろしいところ。そして最後の瞬間、S・Hさんの背骨は、抱きかかえた孫の重さに耐えることが出来ず、あっさりとつぶれてしまったのです。一度折れた背骨は完全には元に戻らないため、S・Hさんは若くして一生、腰が曲がったままの生活を余儀なくされました。
「骨粗しょう症にならないためは?」
(1) 閉経後のダイエットに注意。
(2) カルシウムやビタミンDを充分に摂る。
(3) 適度な運動を心がける。
もし、少しでも体に違和感を覚えたら、すぐに病院で検査をされることをおすすめします。