診察室
診察日:2005年7月26日
テーマ: 『本当は怖い口内炎〜サイレントキラー〜』
『本当は怖い咳〜浮遊する悪魔〜』

『本当は怖い口内炎〜サイレントキラー〜』

N・Mさん(男性)/33歳(当時) 教師
都内の小学校で5年生を受け持つN・Mさんは、春に転任してきたばかりですが、持ち前の明るさと熱血ぶりで子供達から大人気。しかし夏休みを前に通知表の作成や夏休みの宿題の準備と仕事は山積み、しかも転任してきたばかりという事もあり、ストレスをため込んでいました。そんなN・Mさんに、ある日、口内炎ができビタミン剤を飲むことにしますが、その後も様々な異変が現れます。
(1)口内炎
(2)口内炎が繰り返しできる
(3)かすみ目
(4)黒目の下に白いモノができる
(5)目の痛み
(6)目が異様にぼやける
ベーチェット病
<なぜ、口内炎からベーチェット病に?>
「ベーチェット病」とは、私たちの体を外敵から守ってくれるはずの免疫機能が何らかの原因で暴走を始め、守るべき体の組織まで攻撃、炎症を起こし、最悪の場合、失明に至る恐ろしい病。ひとたび発症してしまうと、免疫機能の暴走を止めることはできません。日本はベーチェット病の世界最多の発症国と言われ、患者数は2万人にも達しています。特に、20歳から40歳までの免疫力が活発な世代が発症しやすい病です。では、N・Mさんの発症の原因とは?実はベーチェット病は、遺伝による体質に原因があると言われ、発症のきっかけなど詳しいことは解明されていません。しかし、ストレスが免疫の暴走に大きく関連していると言われています。N・Mさんの場合、転勤してきたばかりでストレスをため込んでいたところに、夏休み前の過労が加わりストレスがピークに達したことで免疫機能が暴走を開始。 体を攻撃し始めたと考えられるのです。そして彼は、この病魔を知らせる重要なサインを見落としていました。それこそが、あの口内炎。実は、「アフタ性口内炎」と呼ばれる通常の口内炎とベーチェット病の口内炎は、まったく同じもの。しかし、ベーチェット病の場合、数週間おきに発症しては消えるのを何度も繰り返すのが大きな特徴。さらにもう一つの重要なサインがあのかすみ目でした。あれは眼球の周囲が炎症を起こし、血管からにじみ出した白血球が眼のレンズを濁らせたことが原因。黒目の下にあったあの白いモノこそ、にじみ出た白血球の残骸だったのです。一見、何の関連もない「口内炎」と「目のかすみ」。この2つの症状を繰り返すことこそ、ベーチェット病最大の特徴なのです。しかしN・Mさんは忙しさのあまり、これらの症状を放っておいたため、免疫機能の暴走が加速。ついに眼球の奥の網膜までが破壊されてしまったのです。その後、入院したN・Mさんは発見が早かったこともあり、徐々に回復に向かっています。
「ベーチェット病を早期発見するためには?」
(1)口内炎・発疹・陰部の潰瘍・かすみ目
(2)以上の4つの症状に注意することが大切です。
(3)特に口内炎や皮膚の発疹などが繰り返し現れた場合は、迷わず病院で検診されることをおすすめします。
『本当は怖い咳〜浮遊する悪魔〜』
S・Nさん(女性)/43歳(発症当時) 専業主婦
夫の転勤で初めて東京に引っ越してきたS・Nさん(43歳・女性)は、希望に満ちた新生活に胸をときめかせていましたが、新居となったマンションは幹線道路に面していたため騒音と排気ガスがひどく、田舎育ちの彼女にとってはつらいものでした。せめて部屋に潤いを持たせようと、彼女は観葉植物を買い込み、リビングや台所、寝室など家のあちこちに飾りますが、1年が経った頃、なぜか咳き込むことが多くなります。特に痰が出るわけではないため、市販の風邪薬を飲むことにしたS・Nさんですが、その体内では恐ろしい病が進行していました。
(1)咳
(2)咳がぶり返す
(3)息が吸いづらい
(4)再び咳がぶり返す
(5)激しい咳
(6)呼吸困難
アレルギー性気管支肺真菌症
<なぜ、咳からアレルギー性気管支肺真菌症に?>
「アレルギー性気管支肺真菌症」とは、カビを大量に吸い込んだことで気管支と肺がアレルギー反応を起こし、呼吸困難などの症状を引き起こす病。ではS・Nさんが吸い込んだカビは一体どこから来たのでしょうか?なんと犯人は、自宅の部屋の中にいました。カビの発生源は彼女が飾りつけた観葉植物の土だったのです。しかし、アレルギー性気管支肺真菌症は、カビが大量発生しなければ、重い症状を引き起こしません。ではなぜ、S・Nさんのマンションでは大量発生してしまったのでしょうか?その原因は、彼女の間違った観葉植物の育て方にありました。まず一つは、狭いマンションの室内に大量の観葉植物を持ち込んでしまったこと。次に日当たりが悪い場所に観葉植物を多く置いていたこと。さらに排気ガスを嫌い、窓を閉め切り、換気が悪くなっていたことも問題でした。この条件がすべて重なった結果、カビが繁殖するには絶好の環境ができてしまったのです。やがて大増殖を始めたカビは、次々と空気中に胞子を飛ばし、部屋中に充満します。元々、弱いアレルギー体質だったS・Nさん。カビを日々、大量に吸い続けたことで、ついにアレルギー症状を発症してしまいました。そしてS・Nさんを襲ったのが、あのしつこい咳や息が吸いづらいといった症状。この時、S・Nさんの体内では侵入したカビに対し、免疫細胞が過剰に反応。気管支が炎症を起こしていたのです。そして彼女は、さらに致命的な過ちを犯していました。それは寝室として使っていた和室に観葉植物を置いてしまったこと。寝室は1日のうちで3分の1近く、最も多くの時間を過ごす場所。ここに大量のカビを繁殖させてしまったのです。そうとも知らず、久しぶりに実家から帰ってきたS・Nさんは、床にたまった大量のカビを一気に吸い込んでしまいました。すると彼女の気管支では激しいアレルギー反応が起き、粘膜から痰が大量に分泌。その結果、気道が完全に塞がれてしまい、呼吸ができなくなってしまったのです。幸いにもS・Nさんは一命を取り留めました。しかし事前に自分のアレルギーを知り、正しく対処していたら、ここまでの事態にはならなかったのです。アレルギー性気管支肺真菌症は、20代から40代の女性に多く発症する病。そしてカビが最も繁殖しやすいのは、梅雨から夏にかけて。そう、この季節、家で過ごすことが多い主婦こそ、注意しなければならないのです。
「アレルギー性気管支肺真菌症にならないためは?」
(1) 日当たりの悪い場所、寝室に観葉植物を置かない
(2) 観葉植物の世話をこまめにする
(3) カビをふやさないよう部屋の換気や掃除をこまめにするなど、正しい知識で観葉植物を育てるよう心がけましょう。
(4)もしちょっとでも体に違和感を覚えたら病院で検診されることをおすすめします。