診察室
診察日:2005年8月16日
テーマ: 『本当は怖いシミ〜いま、そこにある危機〜』
『本当は怖いストレス〜幸せに潜む罠〜』

『本当は怖いシミ〜いま、そこにある危機〜』

K・Sさん(男性)/51歳(当時) 不動産会社営業課長
仕事は外回り中心の営業、趣味はゴルフというK・Sさん。ある夏の夜、鼻の脇に小さなシミが出来ていることに気づきましたが、年を取ったらシミなんか当たり前と、気にも留めていませんでした。しかし、2年後、シミが出来た場所がイボのように盛り上がってきたのを機に、次々と異変が現れます。
(1)シミができる
(2)イボのような物ができる
(3)イボが取れる
(4)皮膚の赤みが消えない
(5)再びイボができる
(6)イボが繰り返しできる
(7)イボを取った跡がただれる
(8)傷口が悪化する
有棘細胞癌(ゆうきょくさいぼうがん)
<なぜ、シミから有棘細胞癌に?>
「有棘細胞癌」とは、表皮に生じる皮膚癌のこと。転移すれば命を失うこともある恐ろしい病です。現在、日本では毎年およそ3000人が発症。50代以上の男性に多く見られます。しかし、なぜK・Sさんは癌になってしまったのでしょうか?実は彼のごく普通の生活の中に、落とし穴がありました。彼が日頃、仕事や趣味のゴルフで何の気なしに浴びていた太陽光線。そこに含まれる紫外線こそが犯人だったのです。強い紫外線が当たると、皮膚組織はメラニン色素を大量に作り出し、褐色に染まります。これが日焼けの状態。ところが紫外線を繰り返し浴びると、一部の皮膚組織が異常をきたし、メラニン色素がたまってしまいます。これこそがシミの正体。しかし、この段階ではK・Sさんのシミはただのシミ。まだ癌は出来ていませんでした。ところが、その後もK・Sさんは、無防備に紫外線を浴び続けてしまったのです。その結果、紫外線は彼の皮膚組織を次々と破壊し続けました。50代という年齢もあって、皮膚組織の回復力が弱まっていたK・Sさん。紫外線で壊れた皮膚組織を治しきれず、ついには有棘細胞癌を発生させてしまったのです。癌が最初に放った警告が、あのイボのような出来物。癌細胞は日々新陳代謝を繰り返し、少しずつ大きくなっていきますが、その際、アカと呼ばれるモノを発生させます。実はこのアカがイボの正体。そのため、軽く触れただけで取れてしまったのです。実は、その跡に残った赤みの奥に、癌細胞が隠れていたのです。もしこの時、専門医の診断を受けていれば、最悪の事態にはなりませんでした。しかし痛みもかゆみもないため、傷跡みたいなものと軽く考え、見逃してしまいました。これこそ、有棘細胞癌のワナ。癌だと気づかず、放置してしまうケースが多いのです。その後も、2、3ヶ月ごとに繰り返しイボができました。もちろんこれも、癌のアカ。その間にも癌は着実に成長。ついには癌自体が皮膚を押し上げてしまいました。ところが、そうとは知らないK・Sさんは、いつものイボだと思い、取ってしまいます。でもそれは、癌そのものをちぎってしまう行為だったのです。病院で検査を受けた時、癌はすでに周辺の組織にまで拡大していました。結局、癌を取り除くため鼻の左下半分を切除。命を守るには、この方法しか残されていなかったのです。オゾン層の破壊が進み、いま地上に降り注ぐ紫外線の量は「普通の生活を送っていても危険なレベルに達している」と言われます。日本でも今年5月、気象庁が紫外線予報を開始。全国各地で、有害な紫外線量を時間ごとに予測し、外出時の注意を呼びかけるようになりました。夏は1年で最も紫外線の量が増える時期。まさに紫外線は「いま、そこにある危機」なのです。
「有棘細胞癌にならないためには?」
(1)日頃から日焼け止めクリームを塗る
(2)外出する時は化粧をする
(3)夏場は午前10時から午後2時までの外出をなるべく控える
(4)日頃の紫外線対策が重要です。
顔だけでなく、手や足などにもイボのようなものが繰り返し出来るなら、 すぐに病院で検診されることをおすすめします。
『本当は怖いストレス〜幸せに潜む罠〜』
H・Yさん(女性)/34歳(当時) 広告代理店勤務
外資系の広告代理店に転職したばかりのH・Yさん。入社早々大きなプロジェクトを任されプレッシャーと向き合いながら頑張っていましたが、プロジェクトも大詰めを迎えた頃、37度4分の微熱を出しました。風邪を引いたと思った彼女は、市販の風邪薬を飲んで仕事を続け、見事に契約を獲得。プレッシャーから解放されたH・Yさんには、念願のマイホームへの入居と夫の誕生日という楽しみな出来事が待っていましたが、なぜか原因不明の異変が続くようになります。
(1)微熱
(2)毎日微熱が出る
(3)異常な倦怠感
(4)異常な脱力感
慢性疲労症候群
<なぜ、ストレスから慢性疲労症候群に?>
「慢性疲労症候群」とは、強いストレスによって免疫機能が低下し、脳の神経細胞に異常が発生。ひどい倦怠感や脱力感が半年以上続いてしまうという病気です。現在、慢性疲労症候群の患者数は、全国でおよそ22万人。予備軍と言われる人は、推計なんと240万人。それもH・Yさんのような25歳から34歳の女性が最もかかりやすい病気なのです。しかし、なぜH・Yさんは、この得体の知れない病気になってしまったのでしょうか?きっかけは、あの微熱を出した風邪にありました。普通、風邪をひくと体内に侵入したウイルスに対して、サイトカインという免疫機能を活発にする物質が作られます。このサイトカインが免疫細胞を刺激し、ウイルスを撃退することで風邪は治るのです。ところがH・Yさんは、ある事が原因でなかなか熱が治まりませんでした。そのある事とは…ストレス。そう、すべての原因はストレスにあったのです。実はストレスがかかると、人間の免疫細胞は力を失い、いくらサイトカインが刺激しても、ウイルスを撃退できなくなるのです。しかもH・Yさんの場合、これだけではすみませんでした。その後、さらなるストレスにさらされ続けた結果、弱った免疫細胞を働かせようと、大量のサイトカインが作られてしまったのです。これこそが慢性疲労症候群の元凶でした。H・Yさんを突然襲った、あの信じられないほどの倦怠感と脱力感。それは増えすぎたサイトカインが脳の神経細胞を刺激し、異常を引き起こしたために現れた症状なのです。とはいえ、彼女の場合、プロジェクトは成功。その後は新居への引っ越しや夫の誕生日計画など、幸せなことばかりでストレスとは縁遠い生活だったはず。それなのに一体なぜ?ストレスはどこにあったというのでしょうか?実は幸せに見えた一連の出来事も、ストレスだったのです。なぜならストレスとは、環境や状況が変化した時に生じるもの。たとえ嬉しいことでも、その変化が大きければ、本人は感じていなくても、体はそれをストレスとして捉えてしまいます。慢性疲労症候群は、こうした様々なストレスが短期間に重なって起きると、発症しやすくなるのです。この病気の厄介なところは、すべてが脳の中で起きている現象のため、内臓や血液には異常が現れず、通常の検査では何の異変も見つけられないことにあります。幸い、この病気の専門医に巡り会えたH・Yさん。適切な治療を受け、3年後には家事が出来るまでに回復。しかし、彼女が仕事に復帰できる見通しは、まだ立っていません。命を奪う病気ではありません。しかし失うものは決して少なくないのです。

「慢性疲労症候群にならないためには?」
(1) ストレスを溜め込まない
(2) 良い環境の変化もストレスになることを自覚する
(3) 自分に合うストレス発散法を見つける
もしちょっとでも体に違和感を覚えたら、迷わず病院で検診されることをおすすめします。