診察室
診察日:2005年8月30日
テーマ: 『本当は怖いアゴの音〜踏み込んだ迷宮〜』
『本当は怖い虫歯〜虫歯がもたらす最悪の結末〜』

『本当は怖いアゴの音〜踏み込んだ迷宮〜』

M・Kさん(女性)/25歳(当時) OL
経理部で働くM・Kさん(25歳・女性)は、几帳面な性格で仕事もきっちりこなすタイプ。決算に向けて任される仕事も多く、連日残業続きでしたが、ある日、食事をしようと口を大きく開けたとき、アゴがカクッと音を立てるのを感じました。その後もアゴは時々鳴るものの慣れてしまい、特に気にとめていませんでしたが、奇妙な異変が続きます。
(1)アゴが鳴る
(2)肩こり
(3)頭痛
(4)背中の痛み
顎関節症(がくかんせつしょう)⇒うつ病
<なぜ、アゴの音から顎関節症⇒うつ病に?>
「顎関節症」とは、アゴを支えている関節部分と周りの筋肉が異常をきたし、痛みや口が開かないなどの症状が現れる病。やわらかい物中心の食生活でアゴの筋肉が弱っていることに加え、噛み合わせの悪さなどが重なり発症すると考えられています。潜在的な患者を入れると、その数はなんと2人に1人と言われ、特に多いのが20代から30代の女性なのです。M・Kさんを最初に襲った、あのアゴの音。あの音は、上アゴと下アゴの間でクッションの役目を果たす部分がずれたために鳴ったものだったのです。その後に続いた、肩こりや頭痛、背中の痛みといった症状。これらの症状は、アゴの関節のずれと周りの筋肉の緊張状態が続き、起こったと考えられます。さらに、彼女の場合、その症状に拍車をかけたのが、うつ病でした。「うつ病」とは、ストレスや脳内物質の異常など様々な原因からなる心の病。10人に1人は罹るとも言われ、最近患者が増え続けている病気です。M・Kさんの場合、しつこく続く症状の原因が、複数の病院で診てもらったにも関わらず、全く分からなかったことに対する苛立ちが強いストレスとなり、精神的に追い込まれていきました。こうして、ついにうつ病を発症してしまったのです。肩こりや頭痛はうつ病によっても起こるため、こうなると、どこまでが顎関節症による症状か判別するのは極めて困難です。そして最近、M・Kさんのように、「顎関節症」と「うつ病などの精神的な問題」を併発する人が増え、全体の3割を占めると言われているのです。現在、M・Kさんはアゴと精神面の両方の治療を行って、徐々に元気を取り戻しつつあります。顎関節症は必ずしもうつ病を併発する訳ではありません。しかしM・Kさんのように、痛みや病に対する不安といったストレスが、さらに病を悪化させてしまうケースもあるのです。
「顎関節症にならないためには?」
(1)「歯を食いしばる」、「片側だけで噛む」、「頬杖をつく」、「うつ伏せで寝る」など、 アゴに負担をかける生活習慣を避けることが大切。
(2)必ずしもうつ病を併発するとは限りませんが、 様々な症状が大きなストレスとなりうる事も事実。
(3)もし生活に支障が出るようなら、歯科や口腔外科で相談されることをおすすめします。
『本当は怖い虫歯〜虫歯がもたらす最悪の結末〜』
K・Gさん(男性)/48歳(当時) 会社員
K・Gさんは、会社ではうだつの上がらない、いわゆるダメ社員。ところが、夜になると仕事のうさを晴らすかのように毎晩はしご酒。不摂生がたたったのか、すっかり中年太りの体型になっていましたが、ある日、左の奥歯が痛み出しました。1ヶ月後、相変わらず奥歯は痛むものの、一時的な痛みのため放っていたK・Gさんでしたが、翌朝から更なる異変が起こり始めます。
(1)虫歯
(2)頭頂部を針で刺すような頭痛
(3)嘔吐
脳静脈血栓症(のうじょうみゃく けっせんしょう)
<なぜ、虫歯から脳静脈血栓症に?>
「脳静脈血栓症」とは、脳梗塞の一種で、脳の静脈に血栓が詰まることで脳が壊死し、最悪の場合、死に至ることもある恐ろしい病。では、K・Gさんの脳静脈はなぜ詰まってしまったのでしょうか?検査の結果、血栓が詰まった所から驚くべきものが発見されました。それは「虫歯菌」。そう、この虫歯菌こそがK・Gさんを死に至らしめた犯人だったのです。では一体なぜ虫歯菌が脳静脈に存在したのでしょうか?K・Gさんが放っておいた虫歯は、すっかり奥まで穴が開いていました。こうなると、その穴は血管にまで到達していることが少なくありません。つまりK・Gさんの口の中にあった虫歯菌は、その穴から血液へと侵入してしまったのです。通常なら、虫歯菌は免疫細胞によって退治されてしまいます。しかしK・Gさんの場合、不摂生な生活のせいで疲労がたまり、免疫力が落ちていました。こうして生き延びた虫歯菌が行き着いた先、それが脳静脈だったのです。脳静脈に張り付いた虫歯菌は炎症を引き起こし、血管を狭くしてしまいました。さらにK・Gさんの場合、酒やタバコ、脂っこいものを多く摂る生活習慣によって、いわゆる濃縮型血液になっていたのです。そのため、血液の流れはますます悪化。あの頭痛や嘔吐といった症状は、脳静脈の血液の流れが悪くなり、脳内の圧力が増したために起こったものでした。そして、虫歯菌によって血管が狭くなった部分に血栓が溜まり始め、ついには完全に詰まってしまったのです。病院に着いた時には、すでに脳の半分以上の機能が停止。K・Gさんは死に至ったのです。たかが虫歯とあなどってはいけません。虫歯菌は、このような脳障害だけでなく、心臓の血管にも影響を及ぼし、最悪の事態を招いてしまうこともあるのです。
「脳静脈血栓症にならないためには?」
(1) 口の中を清潔に保つことが大切
(2) 虫歯や歯周病などは早めに治療
(3) 脂もの中心の偏った食生活、過度の飲酒、喫煙、ストレスなど濃縮型血液の危険因子は避けましょう。
(4)もしちょっとでも体に違和感を覚えたら、迷わず病院で検診されることをおすすめします。