診察室
診察日:2005年11月1日
テーマ: 『本当は怖い立ちくらみ〜悪魔の騙しうち〜』
『本当は怖い喉の痛み〜巧妙なる罠〜』

『本当は怖い立ちくらみ〜悪魔の騙しうち〜』

I・Tさん(男性)/51歳(当時) 建設会社社長
小さな建設会社を営むI・Tさんは、この道一筋35年、頑固一徹な職人気質の持ち主。 50歳を過ぎても、健康そのものでしたが、ある晩、不意の立ちくらみに襲われました。 立ちくらみは、ほんの数秒間だったため、気にも留めなかったI・Tさん。 しかし、実はその立ちくらみこそ、彼の身体を蝕む病魔の産声でした。その後、新たな異変が次々とその身に降りかかります。
(1)立ちくらみ
(2)片目の視力が落ちる
(3)蒸気機関車のような耳鳴り
(4)片手の力が抜ける
(5)右半身麻痺
頚動脈狭窄症(けいどうみゃく きょうさくしょう)
<なぜ、立ちくらみから頚動脈狭窄症に?>
「頚動脈狭窄症」とは、脳に血液を送る頚動脈が動脈硬化のため狭くなってしまう病。血管がほとんど塞がれて、脳に十分な血液が行き渡らなくなり、様々な症状を引き起こします。I・Tさんが頚動脈狭窄症になってしまった最大の原因は、食生活と高血圧にありました。彼の場合、頚動脈の狭窄は、首の横の動脈の分岐点で起きていました。ここは血流が渦巻きやすく、血管の壁が最も圧力を受ける場所。そのため血圧の高いI・Tさんは、その圧力で血管壁を壊してしまったのです。おまけに彼は、日頃から肉類や油っこいものが大好き。その結果、血液中には大量のコレステロールが溢れ、それが壊れた血管壁の隙間から次々と進入。徐々に血管の壁を膨らませ、ついには動脈硬化を招いていたのです。最初にI・Tさんを襲った「立ちくらみ」や「片側の視力の低下」といった症状はすべて、頚動脈が狭くなり、脳に充分な血液が送られなくなったため起きたものでした。あの「蒸気機関車の音のような耳鳴り」は、狭い頚動脈の中を無理に血液が流れたため、隙間風のような音が発生。それが、耳鳴りとして聞こえたのです。そしてついに最終警告。それが片手の力が抜けるという症状。あの時、I・Tさんの頚動脈では、血管壁が壊れ、血栓ができていました。その小さな血栓がはがれ、血流に乗って脳の細い血管に詰まることで、脳が一時的な酸素不足状態に。そして片手が麻痺してしまったのです。これは「一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)」と呼ばれる症状。片方の手がしびれる、ろれつが回らない、などの症状が数分から数時間続き、すぐに消えてしまうのが特徴です。I・Tさんも症状が間もなく消えたため、すぐに病院へは行きませんでした。これこそが最大の落とし穴。実は一過性脳虚血発作のあと、数時間から一カ月以内に脳梗塞が起こる場合が多いのです。あの夜、I・Tさんの頚動脈からはがれた大きな血栓が脳の太い血栓を詰まらせ、大規模な脳梗塞を起こしていたのです。幸い、I・Tさんは一命をとりとめましたが、強い後遺症が残り、リハビリの生活を余儀なくされています。現在、脳梗塞による年間死亡数は、およそ9万人。その一割が、頚動脈狭窄症によるものと言われています。そして今後は、食生活の欧米化に伴い、さらに増えると考えられているのです。
「頚動脈狭窄症にならないためには?」
(1)動脈硬化の危険因子を避けることが大切
(2)喫煙、大量の飲酒、肉類・脂物中心の食生活をやめる
(3)50代以上の方や高血圧の方は、年に一度、エコー検査を受けることをおすすめします。
『本当は怖い喉の痛み〜巧妙なる罠〜』
T・Aさん(女性)/52歳(当時) 飲食店経営
小料理屋を営むT・Aさんは、大のお酒好きが高じ、夫婦で店を開いて20年。 持ち前の明るさと人懐こさで、近所でも評判の名物女将でした。 ところが、ある晩、酔い覚ましの水を一気に飲んだ瞬間、不意にのどの奥がズキンと痛みました。たいした痛みでなかったため、カゼだと思い込んでしまったT・Aさん。 しかし、その「軽いのどの痛み」こそ、忍び寄る悲劇の第一歩だったのです。
(1)のどの奥が痛む
(2)のどの奥の違和感
(3)飲んだときに耳が痛む
(4)声がかれる
(5)咳が出る
下咽頭癌(かいんとうがん)
<なぜ、のどの痛みから下咽頭癌に?>
「下咽頭癌」とは、食道のすぐ上にある「下咽頭」と呼ばれる部分に発生するガンのこと。主に50歳以上の男性に多い病気で、年間の患者数はおよそ3000人。過去20年間で3倍と、急激に増加しています。この病気になった人の多くは、ある共通点を持っています。それはT・Aさんのように<毎日大量のお酒を飲み、ヘビースモーカーである>ということ。長年に渡るニコチンとアルコールの摂取が下咽頭の粘膜を刺激、ガン化させたと考えられるのです。そして、この癌の最も恐ろしい点は、転移しやすく、進行が早いこと。T・Aさんの場合も、最初の症状が出てから一年も経たないうちに亡くなってしまいました。では、早期に発見する方法はなかったのでしょうか?実は、T・Aさんが風邪だと勘違いした「のどの奥の痛み」や「異物感」といった症状こそ、下咽頭癌が発した初期の重要なサイン。通常、風邪によるのどの痛みや違和感は、広くのど全体で感じるもの。しかし、下咽頭癌の場合、ガンが出来たのど仏付近だけに痛みや違和感を覚えるのが特徴です。この違いを見分けることこそ、早期発見の最大のポイントなのです。この後、T・Aさんを襲った「耳の痛み」。あれは、のどの神経と耳の神経が合流しているため、脳が誤ってのどの痛みを耳の痛みと勘違いしてしまったものでした。この時点で、病院に行っていれば、最悪の事態は避けられたかも知れません。しかし症状が軽いため、T・Aさんは放っておいてしまいました。こうしてガンはさらに成長、新たな症状を引き起こします。それが、あの「声のかすれ」。これはガンが、下咽頭に隣接する声帯にまで拡がり、発声の機能を冒したことが原因でした。そしてついに、ガンはリンパ節、さらに肺へと転移。咳が止まらなくなってしまったのです。最初の症状からわずか半年のことでした。では一体なぜ、下咽頭癌はこれほど進行が早いのでしょうか?下咽頭は普段、食べ物・飲み物はもちろん、ツバを飲み込むだけでも大きく収縮し、すれ合っています。その回数は、一日あたりおよそ2000回。その度に癌は、常に激しくこすられてバラバラにされ、血管やリンパ管へと進入。あっという間に、全身へと転移してしまうのです。そして、T・Aさんのように発症からわずか1年で死に至ることもあるのです。
「下咽頭癌にならないためには?」
(1)喫煙と飲酒に気をつける (お酒は適度な量を守り、煙草はやめることが最大の予防となります)

(2)もし、のどの同じ場所に、痛みや異物感をもち続けるようなことがあれば、 迷わず、病院で
   検診されることをおすすめします。