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『本当は怖い喉の痛み〜巧妙なる罠〜』 |
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T・Aさん(女性)/52歳(当時) |
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飲食店経営 |
小料理屋を営むT・Aさんは、大のお酒好きが高じ、夫婦で店を開いて20年。
持ち前の明るさと人懐こさで、近所でも評判の名物女将でした。
ところが、ある晩、酔い覚ましの水を一気に飲んだ瞬間、不意にのどの奥がズキンと痛みました。たいした痛みでなかったため、カゼだと思い込んでしまったT・Aさん。
しかし、その「軽いのどの痛み」こそ、忍び寄る悲劇の第一歩だったのです。 |
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(1)のどの奥が痛む
(2)のどの奥の違和感
(3)飲んだときに耳が痛む
(4)声がかれる
(5)咳が出る |
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下咽頭癌(かいんとうがん) |
<なぜ、のどの痛みから下咽頭癌に?> |
「下咽頭癌」とは、食道のすぐ上にある「下咽頭」と呼ばれる部分に発生するガンのこと。主に50歳以上の男性に多い病気で、年間の患者数はおよそ3000人。過去20年間で3倍と、急激に増加しています。この病気になった人の多くは、ある共通点を持っています。それはT・Aさんのように<毎日大量のお酒を飲み、ヘビースモーカーである>ということ。長年に渡るニコチンとアルコールの摂取が下咽頭の粘膜を刺激、ガン化させたと考えられるのです。そして、この癌の最も恐ろしい点は、転移しやすく、進行が早いこと。T・Aさんの場合も、最初の症状が出てから一年も経たないうちに亡くなってしまいました。では、早期に発見する方法はなかったのでしょうか?実は、T・Aさんが風邪だと勘違いした「のどの奥の痛み」や「異物感」といった症状こそ、下咽頭癌が発した初期の重要なサイン。通常、風邪によるのどの痛みや違和感は、広くのど全体で感じるもの。しかし、下咽頭癌の場合、ガンが出来たのど仏付近だけに痛みや違和感を覚えるのが特徴です。この違いを見分けることこそ、早期発見の最大のポイントなのです。この後、T・Aさんを襲った「耳の痛み」。あれは、のどの神経と耳の神経が合流しているため、脳が誤ってのどの痛みを耳の痛みと勘違いしてしまったものでした。この時点で、病院に行っていれば、最悪の事態は避けられたかも知れません。しかし症状が軽いため、T・Aさんは放っておいてしまいました。こうしてガンはさらに成長、新たな症状を引き起こします。それが、あの「声のかすれ」。これはガンが、下咽頭に隣接する声帯にまで拡がり、発声の機能を冒したことが原因でした。そしてついに、ガンはリンパ節、さらに肺へと転移。咳が止まらなくなってしまったのです。最初の症状からわずか半年のことでした。では一体なぜ、下咽頭癌はこれほど進行が早いのでしょうか?下咽頭は普段、食べ物・飲み物はもちろん、ツバを飲み込むだけでも大きく収縮し、すれ合っています。その回数は、一日あたりおよそ2000回。その度に癌は、常に激しくこすられてバラバラにされ、血管やリンパ管へと進入。あっという間に、全身へと転移してしまうのです。そして、T・Aさんのように発症からわずか1年で死に至ることもあるのです。 |