診察室
診察日:2005年11月8日
テーマ: 『本当は怖い目のぼやけ〜忍び寄る黒い悪魔〜』
『本当は怖い手荒れ〜赤い刻印〜』

『本当は怖い目のぼやけ〜忍び寄る黒い悪魔〜』

N・Kさん(男性)/55歳(当時) 無職
東京郊外に暮らすN・Kさんには、最近、待望の初孫が誕生。毎週のように息子夫婦を家に招いては、趣味のカメラでその可愛い姿を写していましたが、ある夜、孫の寝顔を撮ろうとした時、さっきまで鮮明に見えていた孫の顔がなぜか急にぼやけて見えました。ぼやけたのは一瞬だけだし、歳をとれば老眼になるのは当たり前。そう思い込んだN・Kさんは、その異変を深刻には受け止めていませんでしたが、その後も彼の目を奇妙な異変が襲います。
(1)視界の中心がぼやける
(2)視界の中心が歪んで見える
(3)視界の中心が薄暗く見える
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)
<なぜ、目のぼやけから加齢黄斑変性に?>
「加齢黄斑変性」とは、老眼と同じように歳をとることで目の機能が衰える病。しかし、老 眼と違って放っておくと、失明にいたることもある恐ろしい病なのです。近年、日本で患者が急増しており、現在、約40万人がこの病にかかっているといわれています。ではなぜ、この病の患者数が増えているのでしょうか?原因は、高齢者数の増加にあることはもちろんですが、他にも様々な生活習慣が大きく関係しているといわれています。そもそも加齢黄斑変性とは、老化によって網膜の奥に新しい血管が生えてくる病。また偏った食生活や、喫煙などの生活習慣によっても、新しい血管が生えやすくなってしまうのです。そして、病の進行と共に、この血管からじわじわと出血し始めます。N・Kさんに現れた視界の中心のぼやけ。あれは出血により、網膜の中心がダメージを受けたことによるもの。ところが、この時N・Kさんは、自分の目の異常を老眼であると勘違いしてしまいました。老眼は近くの物が全体的にぼやけるのに対し、加齢黄斑変性は視界の中心部だけに異常が現れるのが特徴。ただし、どちらも歳をとってから起きるため、N・Kさんのように加齢黄斑変性を、老眼と勘違いしてしまうケースが多いのです。では、N・Kさんが老眼との違いに気づくポイントはなかったのでしょうか?それこそが、視界の中心部が歪んで見えたり、薄暗く見えたあの異変でした。ところが、N・Kさんはこの病のもう1つの落とし穴に引っかかってしまいました。それは、片目で見た時は異常を感じるのに、両目で見ると、その異常がなくなってしまうこと。実はN・Kさんが異常に気づいたのは、右目だけで見ている時ばかりでした。そう、この病は一方の視野に異常が起きても、もう一方の正常な目が補ってくれるため、なかなかその異変に気づきにくいのです。これこそが、この病の最も恐ろしいところ!そしてついに、目の中の出血は、網膜の中心部に壊滅的なダメージを与えてしまったのです。右目の視力を、ほとんど失ってしまったN・Kさん。少しでも早く眼科を受診していれば、病の進行は防げたはずなのです。
「加齢黄斑変性を早期発見するためには?」
(1)片方ずつの目でふすまや障子を見て、線の歪みがないか、薄暗く見えないかを
こまめにチェックしましょう。
(2)もし、ちょっとでも視界に違和感を覚えたら、迷わず病院で眼底の検査をされることを おすすめします。
『本当は怖い手荒れ〜赤い刻印〜』
M・Aさん(女性)/42歳(当時) 花屋経営
1カ月前、夫と花屋を開店したばかりのM・Aさん。夫婦の長年の夢が叶い幸せな日々を送っていましたが、最近、ちょっと気になることが。まるでしもやけのように指が赤くなる手荒れに悩まされていたのです。
水を使う仕事をする以上、手荒れは職業病と諦めていた彼女でしたが、さらなる異変が襲いかかります。
(1)手荒れ
(2)腕が重い
(3)全身がだるい
(4)渇いた咳が出る
(5)激しい咳が出る
皮膚筋炎(ひふきんえん)
<なぜ、手荒れから皮膚筋炎に?>
「皮膚筋炎」とは膠原病(こうげんびょう)の一種で、その原因はまだ解明されていません。30代から60代の女性に多く発症し、現在、全国に約6千人の患者がいると言われています。この病になると、本来は体を守る働きをしている免疫細胞が異常をきたし、皮膚や筋肉の細胞を攻撃。体中に炎症を起こすのが特徴です。M・Aさんに起きた突然の手荒れ。あれこそ、病からの最初の警告でした。異常をきたした免疫細胞が、皮膚の細胞を攻撃し炎症を起こしていたのです。こうして起きた手荒れは、水洗いなどによる手荒れと異なり、関節部分だけが赤く腫れ、痛みやかゆみがないことが特徴。しかし、M・Aさんは単なる手荒れだと思い込んでしまったのです。そして炎症は全身の筋肉へと広がり、M・Aさんの筋力は少しずつ低下。そのため、腕が重く感じたり、全身がだるくなったりという、体の脱力感に襲われたのです。突然の手荒れと同時に、体のだるさが続くこれは、実は皮膚筋炎の特徴的な症状。しかし、どれも些細な症状のため、見過ごしてしまうことが多いのです。これこそがこの病の落とし穴。この時点で病院へ行っていれば、助かったはずなのに…。そしてついに、病は最終警告を発します。それが、彼女を襲った「渇いた咳」。そう、この病の最も恐ろしいところは、皮膚や筋肉で起こる炎症が肺や心臓などの内臓にまで及ぶことなのです。M・Aさんの場合も、肺で炎症が起こり始め、一気に肺全体へと広がりました。そして呼吸困難に陥り、そのまま帰らぬ人になってしまったのです。皮膚筋炎は、何気ない症状が続くため、なかなか気付きにくい病。しかし、小さな異変を見逃さず早期発見できれば、充分コントロール可能な病なのです。
「皮膚筋炎を早期発見するためには?」
(1)かゆみや痛みのない手荒れ、まぶたの発疹、今までにない筋肉の脱力感などに注意することが大切です。
(2)もし、ちょっとでも身体に違和感を覚えたら、迷わず病院で検診されることをおすすめします。