診察室
診察日:2006年1月17日
テーマ: 『本当は怖い微熱〜誤謬〜』
『本当は怖い首の痛み〜曲がる〜』

『本当は怖い微熱〜誤謬〜』

S・Eさん(女性)/31歳(当時) 主婦
主婦のS・Eさん(42歳)の趣味は、韓流ドラマを観ること。毎晩のようにビデオを見ては夜更かしをしていましたが、ある朝、風邪のような熱を感じ体温を計ってみると、37度4分の微熱がありました。このぐらいの熱なら病院に行くまでもないと、市販の感冒薬を飲むことにしたS・Eさん。翌日には熱はすっかり下がり安心していましたが、その後、気になる異変が現れます。
(1)微熱
(2)指に力が入らない
(3)動悸
(4)脈がない
高安動脈炎(たかやす どうみゃくえん)
<なぜ、微熱から高安動脈炎に?>
「高安動脈炎」とは、膠原病(こうげんびょう)の一種。体を守るための免疫細胞が異常をきたし、自分自身の動脈を攻撃。多くの動脈に炎症が起きることで全身に様々な障害が出る病。最悪の場合、血流が極端に悪化し、命を落とすこともあります。この病気は10代後半から30代の女性に多く発症すると言われ、原因が不明のため予防が難しい病です。しかし、早い段階で発見すれば、完治することも可能な病なのです。S・Eさんに現れた最初のサイン、「微熱」こそが典型的な症状。彼女の大動脈が異常をきたした免疫細胞に攻撃され始めたために、体温が上がってしまったのです。しかしS・Eさんのように、解熱剤の入った感冒薬を飲むと、一時的に熱が下がることもあるため、ただの風邪と勘違いしてしまうことがあるのです。指に力が入らなかったことや、急に起こり始めたあの動悸も、腕や心臓につながる動脈に炎症が起きたことを知らせるサインでした。でも、こういった小さな症状は、つい見過ごしがち。S・Eさんも自分が病魔に冒されているとは、夢にも思っていなかったのです。では、彼女が病に気付くチャンスはなかったのでしょうか?実は彼女が血圧を計った時の、血圧計のエラーの表示。あれは機械の故障などではなく、S・Eさんが高安動脈炎に冒されていることを知らせる大事なメッセージだったのです。のちにS・Eさんが気付いた「脈がない」という症状。これこそが高安動脈炎の最大の特徴!この症状がよく現れることから、別名「脈なし病」とも呼ばれているのです。そしてついに、動脈の炎症は心臓へと飛び火。彼女の大動脈弁はほとんど機能しない状態に。こうなるともう、いつ倒れてもおかしくありません。そして、最後の瞬間。「脈がない」という事実に気付き、慌てて走り出したS・Eさん。その心臓は、ついに悲鳴を上げ、心不全で倒れてしまったのです。幸いS・Eさんは、医師の懸命の治療で危機を脱することが出来、現在は入院治療中です。しかし、一歩間違えば、命を落としていたかもしれないのです。
「膠原病を早期発見するためには?」
(1)2週間以上続く微熱や、慢性的な倦怠感、左右対称の関節の痛みなどに注意することが大切です。
(2)もしちょっとでも身体に違和感を覚えたら、迷わずリウマチ科や膠原病内科を受診することをおすすめします。
『本当は怖い首の痛み〜曲がる〜』
Y・Sさん(女性)/30歳(当時) OL
半年前に大手通販会社に転職したY・Sさん。待遇に不満はなく、仕事にもやりがいを感じていましたが、ことあるごとに体を触ってくるイヤな部長がいました。今の職場を失いたくない彼女は、内気な性格もあって、部長のセクハラを拒否することが出来ずにいましたが、ある朝、首の後ろに軽い痛みを感じました。「寝違えるなんてツイてない」と思っていたY・Sさんですが、その後も首の痛みは続き、さらなる異変に見舞われます。
(1)首の痛み
(2)首が曲がる
(3)首が大きく曲がる
(4)首が曲がったまま動かない
(5)首が大きく曲がったまま動かない
痙性斜頸(けいせいしゃけい)
<なぜ、首の痛みから痙性斜頸に?>
「痙性斜頸」とは、脳と神経回路に異常が生じ、自分の意思とは関係なく、首が不自然に傾いたまま硬直してしまう病。患者数は年々増え続け、現在1万人から3万人。男女とも、30代から40代の働き盛りに発症しやすい病気だと言われています。この病を発症する大きな要因と考えられているもの、それはストレスです。部長から受け続けていたセクハラのストレスが、Y・Sさんの脳に異常をもたらしていました。さらにもう一つの要因は、セクハラ部長がいつも自分の右側にいるため、常に顔を左側に向けて仕事をしていたこと。強いストレスのもとで首を曲げた同じ姿勢を長時間続けると、脳が誤作動を起こし、不自然な姿勢を正しい姿勢だと判断してしまうことがあるのです。Y・Sさんが、この病に冒された最初のサイン。それは寝違えたと思ってしまった、首の痛み。首を無理に横に向けようとする脳からの間違った命令が、神経を通して筋肉に伝わり、首に痛みを感じたのです。やがてY・Sさんの首は、徐々に間違った命令に従うようになりました。それが、わずかに首が曲がり始めた、あの朝の症状。以来、度重なる部長からのストレスが、Y・Sさんの病を悪化させ、彼女の首をさらに曲げていったのです。そしてついに訪れたあの瞬間。ストレスの元凶だった部長が、Y・Sさんに顔を近づけた時・・・彼女は反射的に首をのけぞらせました。その結果、首がそのまま硬直してしまったのです!痙性斜頸は、発見が遅れると、首が大きくねじれたまま動かなくなり、日常生活を送ることすら難しくなるといわれています。だからこそ、癖や仕事などで同じ姿勢を続ける人や、強いストレスを感じている人は、特に注意が必要なのです。
「痙性斜頸にならないためには?」
(1)ストレスを避ける。
(2)長時間、無理な姿勢を続けないようにすることが大切です。
(3)もしちょっとでも体に違和感を覚えたら、迷わず神経内科で検診されることをおすすめします。