診察日:2006年2月7日
テーマ:
『本当は怖い咳〜忍び寄る黒い影〜』
『本当は怖い歯の痛み〜雇われ店長の悲劇〜』
『本当は怖い咳〜忍び寄る黒い影〜』
K・Mさん(女性)/56歳(発症当時)
不動産屋経営
首都圏近郊で不動産屋を営むK・Mさんの悩みは、夫がヘビースモーカーだということ。タバコを吸わない彼女にとって、その煙はどうにも耐えがたいものでした。しかし夫婦で受けた健康診断で高血圧を指摘されたことを機に、夫が一念発起して禁煙を決意。長年にわたる願いが叶ったK・Mさんでしたが、1年後、突然、タンの絡んだ激しい咳に襲われます。熱もあったため風邪と思い込んでいましたが、その後も更なる異変が続き・・・。
(1)タンが絡んだ咳が出る
(2)息切れ
(3)高熱
(4)胸から笛を吹くような音がする
(5)激しい息切れ
COPD(慢性閉塞性肺疾患/まんせいへいそくせい はいしっかん)
<なぜ、咳からCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に?>
「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」とは、気管支や肺に異常が起き、充分な空気を取り入れることが出来なくなる病。満足に呼吸が出来ず、最悪の場合、死に至ることもあります。国内における潜在患者数は、およそ530万人。全世界の死亡原因の第4位を占め、今後ますます増えることが予測されています。このCOPDを引き起こす最大の原因こそ、喫煙。COPD患者の、実に95パーセント以上が、喫煙者だと言われているのです。しかし、なぜタバコを吸っていた夫ではなく、タバコを吸わないK・Mさんの方がCOPDを発症したのでしょうか?その犯人は、副流煙。実はタバコの先端から出る煙を副流煙といい、フィルターを通して吸う煙より数倍毒性が強いのです。結婚以来35年間、狭い職場で副流煙を吸い続けたK・Mさん。タバコの煙に含まれる200種類以上もの有害物質が、肺の末端にある肺胞に侵入。その壁の破壊を繰り返していました。その結果、彼女の肺は壊滅的なダメージを受けていたのです。自分の肺がそんな状態だとは夢にも思わず、夫が禁煙したことで、すっかり安心していたK・Mさん。でも、その禁煙はすでに手遅れ・・。病は密かに、爆発の機会をうかがっていたのです。その引き金となったのが、あの風邪でした。実はCOPDは、風邪をきっかけに、症状が悪化するケースが多いのです。風邪をひくと全身の免疫力が低下し、COPDによって傷ついていた気管支の粘膜の炎症が一気に悪化。この時、大量に分泌された粘液を吐き出すため、タンが絡んだ激しい咳に見舞われたのです。そして、あの運命の朝。またもやK・Mさんは風邪をひきます。すると、厚くなっていた気管支の壁がさらに腫れ上がり、空気の通り道が極端に細くなりました。それが、笛のような呼吸音の原因だったのです。こうして、最後の瞬間がやってきました。もはや肺の機能をほとんど失っていた彼女は、少し歩いただけで呼吸困難に陥ってしまったのです。入院後、懸命の治療によって一命を取り止めたK・Mさん。でもCOPDに破壊された肺の機能は、二度と戻ることがありません。K・Mさんは、酸素を補うために、片時もボンベを手放せない体になってしまったのです。
「COPDにならないためには?」
(1)喫煙者はなるべく早く禁煙する。
(2)非喫煙者は副流煙に気をつける。
もしちょっとでも身体に違和感を覚えたら、呼吸器内科を受診されることをおすすめします。
『本当は怖い歯の痛み〜雇われ店長の悲劇〜』
U・Mさん(男性)/55歳(発症当時)
レストラン店長
U・Mさんは、チェーン展開しているレストランの店長。このところ店の売り上げが思ったように上がらず、頭を悩ます毎日が続いていました。そんなある日、本社から突然部長が視察にやってきて、U・Mさんを激しく叱責。その時、U・Mさんは左の奥歯に重く響くような痛みを覚えました。奥歯の痛みは部長が去ると嘘のように消えたため、すぐに忘れてしまったU・Mさんですが、その後も気になる異変に襲われます。
(1)歯の痛み
(2)あごの痛み
(3)ひどいあごの痛み
(4)激しい胸の痛み
心筋梗塞
<なぜ、歯の痛みから心筋梗塞に?>
心筋梗塞とは、何らかの原因で心臓の血管が詰まり、心臓の筋肉が壊死してしまう病気のこと。最悪の場合、死にいたることもある恐ろしい病です。この病気を引き起こすと考えられている要因は、過度の飲酒や喫煙、偏った食生活などによって生じる血管の動脈硬化。U・Mさんの場合も、脂っこい食事を好んで摂り続けていたため、血液中に大量のコレステロールがあふれていました。その結果、心臓の血管で動脈硬化が進行してしまったのです。でも、U・Mさんに現れていたのは、歯の痛みやあごの痛みなど、心臓とは直接関係ないもの。これらの痛みは、心筋梗塞とどのような関係があるのでしょうか?そもそも私たちの体内には、痛みを感知するための神経が、全身に張り巡らされています。しかし、この神経は複雑に入り組んでいるため、心臓で異常が発生しても、痛みを脳に伝える途中で、他の神経と混線してしまう場合があるのです。そんな時、脳が心臓の異常を別の場所の痛みと勘違いする症状こそ・・・「放散痛」。そう。U・Mさんを襲った歯やあごの痛みも、実はこの「放散痛」の仕業でした。U・Mさんの場合、脳が心臓の痛みを歯やあごの痛みと取り違えてしまったのです。しかし、この「放散痛」を、心臓の痛みだと気づくチャンスはなかったのでしょうか?もちろんありました。最大のヒントは、痛みを感じた時の状況です。U・Mさんが痛みに襲われたのは、部長に叱られ強いストレスを感じた直後や、早朝の寒い中、急いで走った後でした。実はこうした状況になると、人間の体は反射的に血管を収縮。動脈硬化が進み、血管が狭まっていると、この収縮で血流がストップしてしまい、心臓の筋肉が一時的な酸素不足に陥ります。U・Mさんの場合、その痛みが「放散痛」となって現れたのです。心筋梗塞になりかけていても、心臓の痛みがないまま、歯やあご、肩や腕などの放散痛だけを感じるケースは少なくありません。だからこそ大きなストレスがかかったときなどに、何らかの痛みを感じたら、心筋梗塞から起こる放散痛を疑い、早期に病院を受診することが大切なのです。
「動脈硬化を防ぐためには?」
(1)高血圧、タバコの吸い過ぎ、お酒の飲み過ぎ、悪玉コレステロールを増やす油物等の多い食生活などに
注意することが大切です。
(2)もしちょっとでも体に違和感を覚えたら、迷わず検診されることをおすすめします。