診察室
診察日:2006年2月14日
テーマ: 『本当は怖い風邪〜悪夢の週末〜』
『本当は怖いストレス〜幸福の代償〜』

『本当は怖い風邪〜悪夢の週末〜』

S・Yさん(男性)/43歳(発症当時) 会社員
一流商社に勤めるS・Yさんの座右の銘は、「パーフェクト」。週3回はスポーツクラブで泳ぎ、日頃の食生活にも気をつかい、健康もパーフェクト。家庭でも良き夫で、良き父親でしたが、ある週末、突然喉の痛みと微熱を覚えました。久しぶりに風邪をひいたと思ったS・Yさん。幸い翌日は仕事も休みだったため、自宅でゆっくり静養することにしますが、さらに異変は続きました・・・。
(1)風邪
(2)倦怠感
(3)頻尿
(4)喉の渇き
(5)嘔吐
(6)昏睡
劇症1型糖尿病(げきしょういちがた とうにょうびょう)
<なぜ、風邪から劇症1型糖尿病に?>
糖尿病には2種類あります。肥満や食べすぎでなるのは「2型糖尿病」。患者数は、およそ800万人。長年の不摂生で膵臓が酷使されて弱り、血糖値を下げるインスリンが十分に分泌されなくなることで引き起こされます。そして、もう1つが「1型糖尿病」。生活習慣に関係なく、ある日突然、膵臓の破壊がはじまりインスリンが出なくなってしまう病です。現在、この「1型糖尿病」の患者は、約10万人といわれています。多くの場合、この膵臓の破壊は数年単位で進みます。しかし、時としてわずか数日で破壊されてしまうことがあるのです。これこそがS・Yさんを襲った「劇症1型糖尿病」。なぜ急速に破壊が進むのか、詳しいメカニズムはまだわかっていません。ただきっかけの1つと考えられているのが風邪。S・Yさんの場合も、喉の痛みと発熱を覚えたあの時から、膵臓の破壊が始まったと思われます。そして、彼を襲ったあの倦怠感。その本当の原因は、膵臓の破壊によるインスリンの減少でした。インスリンが減ったせいでS・Yさんの身体には、エネルギーとなる糖分が取り込まれなくなり、身体中が異変に襲われたのです。その結果、脳細胞までもが糖分を吸収できなくなり、ついにその機能を停止させてしまいました。発症すれば、わずか数日で重症化してしまう劇症1型糖尿病。では、S・Yさんがこの病に気づくチャンスはなかったのでしょうか。いいえ、ありました。そう、トイレが近くなり、いくら水を飲んでも、異常なほど喉が渇いた、あの時です。これこそ血糖値が急激に上がり始めた証でした。もし、あの時、すぐに病院へ行っていれば最悪の事態は避けられたはず・・・。しかし風邪とともに起きる、これら糖尿病の症状に気づかなければ、あっという間に、最悪の結末を迎えてしまう危険が大きいのです。
「劇症1型糖尿病を早期発見するためには?」
(1)血糖値をこまめにチェックすることが大切です。
(今は自宅で血糖値がチェックできる自己血糖測定器なども市販されています。)
(2)もし風邪をひいた後、【異常に喉が渇く】【頻尿】【倦怠感】など、気になる症状が現れたら、
   迷わず病院で検診されることをおすすめします。
『本当は怖いストレス〜幸福の代償〜』
T・Kさん(女性)/53歳(発症当時) 主婦
真面目で優しい夫に支えられ、幸せを絵に描いたような人生を歩んできたT・Kさん。ある日、田舎の母親が交通事故で亡くなったという知らせを受けました。どんなことでも相談してきた、かけがえのない母親の突然の死。地獄に突き落とされたような思いの彼女は、翌朝一番で実家に戻りますが、通夜の最中に突然、胸に圧迫感を覚えます。こんな時に余計な心配をかけるわけにはいかないと、翌日葬儀が始まっても耐え続けていましたが、さらなる異変に襲われます。
(1)胸の痛み
(2)胸に強い圧迫感
(3)呼吸困難
たこつぼ心筋障害
<なぜ、ストレスからたこつぼ心筋障害に?>
「たこつぼ心筋障害」とは、心臓の左心室の一部が硬直し、収縮しなくなることで、正常に血液を送り出すことができなくなる病。最悪の場合、死にも至る危険な病です。病名の由来は、左心室の形。この病になると、硬直した左心室がたこ漁で使われるたこつぼのような形に見えるため、この病名がつけられました。でも、T・Kさんは体に何の異常もなく、健康そのものだったはず。一体なぜ、彼女は突然、この病に冒されてしまったのでしょうか?病の原因は、突然の母の死という大きなストレスでした。普段からストレスにさらされることがない、まさに幸せを謳歌しているT・Kさんのような専業主婦が、特に危険だと言われています。突然大きなストレスがかかると、自律神経が極度に混乱し、心臓の動きを活発にするよう信号を送ります。ところが、突然のフル回転に慣れていない心臓は、左心室の一部が硬直。動かなくなってしまい、たこつぼ心筋障害となってしまうのです。耳慣れない病名ですが、年間およそ3万人もの人が、この病に冒されているといわれます。特に最近、注目されるようになったのは、2004年の新潟中越地震がきっかけでした。被災者の中から少なくとも50代以上の女性18人が、たこつぼ心筋障害の疑いありと診断されたのです。こうした大きな災害以外にも、肉親や友人の死、激しい口論、仕事上の問題や、娘の離婚など、様々なストレスによる発症が報告されています。それにしてもT・Kさんはこの病に気づくチャンスはなかったのでしょうか?それこそ、あの時、T・Kさんが感じた「胸の圧迫感」。そう、強いストレスの後の、胸の圧迫感こそ「たこつぼ心筋障害」のサインなのです。しかしT・Kさんは、常に健康だったために、事態の深刻さに気付くことができませんでした。こうしてT・Kさんの心臓は、徐々に血液を送り出すことができなくなり、心不全の状態に。そしてついに、帰らぬ人となってしまったのです。どんな健康な人でも、いやむしろ、幸せで健康な人こそ、ほんの数日間で命を落としてしまう、それがこの病の恐ろしさなのです。
「たこつぼ心筋障害を早期発見するためには?」
(1)強いストレスを感じた後に襲う、【胸の痛み】や【胸の圧迫感】などを放置しないことが大切です。
(2)もし強いショックの後に何か違和感を覚えたら、病院で検診されることをおすすめします。