診察室
診察日:2006年5月16日
テーマ: 『本当は怖い頭痛〜真紅の切り裂き魔〜』
『本当は怖い飛蚊症〜軽視の代償〜』

『本当は怖い頭痛〜真紅の切り裂き魔〜』

Y・Sさん(男性)/42歳(発症当時) サラリーマン
マンションメーカーの支社で働く営業マンY・Sさんは、人間関係も良好で、充実した毎日を送っていました。しかし、売り上げが落ちている支社のてこ入れに、本社からやり手の支社長がやって来てから生活は一変。昼間は足を棒にしての外回り、夜は遅くまでデスクワークに追われるように。責任感の強い彼は、突然の激務にも不満を感じることなく前向きに取り組んでいましたが、ある日、職場でだけ頭痛に襲われるようになります。健康診断でも血圧は正常で、健康状態は良好と太鼓判を押されていたY・Sさん。頭痛は目の疲れからきたものと思っていましたが、その後も異変は続きました。
(1)締めつけられるような頭痛
(2)再び頭痛
(3)突然の背中の激痛
(4)体の芯から発するような痛み
職場高血圧⇒急性大動脈解離(きゅうせい だいどうみゃくかいり)
<なぜ、頭痛から急性大動脈解離に?>
「急性大動脈解離」とは、心臓から全身に血液を送り出す大動脈の血管壁に亀裂が生じて、 そこから血液が流れ込み、本来一本のはずの血管が2つの筋に分かれてしまう病。年間約7000人が発症。働き盛りの男性に多い病です。発症のメカニズムはまだよくわかっ いませんが、大きな要因の一つに高血圧があると言われています。しかし、Y・Sさんは、 健康診断では血圧は正常という結果が出ていました。なのに、なぜ病に冒されてしまったの でしょうか?実はY・Sさんの血圧は、職場にいるときだけ異常に高くなっていたのです。 これこそが、「職場高血圧」と呼ばれる症状。ある調査によれば、この「職場高血圧」、健康 診断で血圧が正常と判断された人の、なんと3割もの人が起こしていました。Y・Sさんの 場合、その原因は新任の支社長に対するストレスと考えられます。そのため普段は正常なY・ Sさんの血圧が、職場にいるときだけ高くなっていたのです。そしてこの時、Y・Sさんの 体の中では、高血圧によって大動脈の血管壁が強い圧迫を受け続けていました。こうなると 血管壁はもろくなり、いつ亀裂が入っても、おかしくない状態に。Y・Sさんを襲った背中 の激痛。あれこそ、大動脈に亀裂が入った瞬間でした。そして瞬く間に、大動脈は二つの筋 に別れてしまったのです。でも、この状態になっても破裂しない限り、病院で適切な処置を 受ければ、命は助かるといわれています。しかしY・Sさんは、痛みを我慢してしまったこ とで助かるチャンスをどんどん減らしてしまいました。そしてついに大動脈が破裂し、体内 では大量出血が発生。Y・Sさんは帰らぬ人となってしまったのです。
「急性大動脈解離にならないためには?」
(1)日々の血圧に注意することが大切です。
もし体に違和感を覚えたら、病院で検診されることをおすすめします。
『本当は怖い飛蚊症〜軽視の代償〜』
M・Mさん(女性)/51歳(発症当時) 主婦
ミステリー小説にはまり、読書三昧の毎日を送っていた主婦のM・Mさん(51歳)。その日も、時間が経つのを忘れ読みふけっていたところ、目の前に虫のような小さく黒い物が飛んでいるのが見えました。夫に話すと、「それは飛蚊症(ひぶんしょう)だ、俺も見える」と言われたM・Mさん。そのため彼女は特に気にすることもなく放っておきますが、その症状こそ体が発する恐怖の警告でした。
(1)目の前に黒い物が見える
(2)はっきり見える飛蚊症
(3)視野に光が走る
(4)視界の一部が霞んで見える
(5)視野欠損
(6)視界が真っ白
網膜剥離(もうまくはくり)
<なぜ、飛蚊症から網膜剥離に?>
「網膜剥離」とは、外から入ってきた光を映像として感じる網膜が、何らかの原因で剥がれてしまい、最悪の場合、失明に至ることもある恐ろしい病。特に痛みなどの症状がないため、知らず知らずのうちに悪化させてしまうことが非常に多いと言われます。だからこそ、網膜剥離を疑う重要なサインを知っておくことが何よりの予防策なのです。そのサインこそ、あの「飛蚊症」。そもそも普通の飛蚊症は、眼球内の硝子体に濁りができ、それが影となって網膜に映り見えるもの。年を重ねるに従って多くの人が体験するもので、そのほとんどは放置しても特に問題はありません。ところがM・Mさんの場合は、普通の硝子体の濁りではなく網膜剥離につながる、危険な飛蚊症だったのです。普通の飛蚊症と比べると、M・Mさんに現れた危険な飛蚊症は、濃く、はっきりと見えるのが特徴。そして、なによりも重要なポイントは、それらが突然見えるようになったこと。実はこの時、彼女の眼球内では、何らかの原因で硝子体が縮み始めていたのです。すべてのサインはこれが原因。そして、この時、一緒に網膜も引っ張られていたのです。こうなると、いつ網膜剥離を引き起こしてもおかしくない、非常に危険な状態。そんな状態にも関わらず、M・Mさんはある危険な過ちを犯してしまいました。それは、あの目をグリグリとこする癖。目をこすると眼球は変形し、押された硝子体が元に戻るとき網膜を引っ張ります。これを何度も繰り返すうち、ついに網膜に穴が開いてしまったのです。視野の異常に気付き、走って病院へと向かったM・Mさん。しかし、これこそが最大の過ちでした。走った振動で破れた穴から眼球内の水分が勢いよく流れ出し、網膜を引き裂いてしまったのです。まさか病院へ急いだことが仇になってしまうとは・・・。治療の結果、幸い失明の危機は免れたM・Mさん。しかし、物が歪んで見えるなど少なからず障害が残ってしまったのです。網膜剥離を引き起こす危険因子としては、強度の近視、年齢が40歳以上、目に対する激しい衝撃などが挙げられます。失明の危険から身を守るには、たかが飛蚊症と勝手に判断せず、早めに専門医の診断を仰ぐことが大切なのです。
「飛蚊症から網膜剥離にならないためには?」
(1)飛蚊症の治療法はありませんが、網膜剥離などの目の病を発見する重要なサインです。
(2)もし突然、濃くはっきりとした飛蚊症が見える、数が増えたなど、急激な変化が起きたら、
迷わず眼科専門医に検診してもらうことをおすすめします。