診察室
診察日:2006年6月13日
テーマ: 『本当は怖い胃の痛み〜病魔の落とし穴〜』
『本当は怖い夜更かし〜悪魔の目覚め〜』

『本当は怖い胃の痛み〜病魔の落とし穴〜』

O・Kさん(女性)/48歳(発症当時) 専業主婦
愛犬家の友達と一緒にランチを食べるのが、一番の楽しみだった専業主婦のO・Kさん。彼女には、面倒臭がり屋という困った一面があり、ここ数年、区が主催する無料健康診断を受けていませんでした。そんなある朝、キリキリするような胃の痛みを感じたO・Kさん。食べ過ぎのせいだと思っていた彼女ですが、半年ほど経った頃、新たな異変に襲われます。
(1)胃痛
(2)膨満感
(3)腹部の左側が膨らむ
(4)高熱
慢性骨髄性白血病
<なぜ、胃の痛みから慢性骨髄性白血病に?>
「慢性骨髄性白血病」とは、俗に「血液のガン」とも呼ばれる白血病の一種。骨髄の中で、赤血球や白血球などの血液細胞を作っている「造血細胞」が腫瘍化。様々な症状を引き起こし、命を落とすことも少なくない恐ろしい病です。4種類ある白血病の中でも2番目に多く、発病の原因はわかっていません。そのため、いつ誰がかかるか分からず、しかも自分では気づきにくいという厄介な病なのです。この病の最大の特徴は、3つの時期に分かれていること。第1段階は、自覚症状のない『慢性期』。O・Kさんも、最初に胃の痛みを覚えた3年ほど前に、発病していたと考えられます。この時、骨髄の中にあった造血細胞は、すでにガン化を開始。異常な白血球を大量に作り始めていました。困ったことに自覚症状がないため、この段階で病の存在に気づくことは難しいのです。そして発病からおよそ3年後、病状は、『促進期』に移行。ここで初めて、病は症状となって現れます。それが、あの「胃の痛み」。あれは増えすぎた白血球が胃を刺激。胃酸が大量に分泌され、胃酸過多の状態になっていたためと考えられます。さらに大量の白血球が、胃の左側にある脾臓(ひぞう)に詰まって膨らみ、胃を圧迫。その結果、「膨満感」や「お腹の左側が膨らむ」という症状が起きました。でも、これらは全て胃の症状。白血病だと疑う人は、めったにいません。そのため、最終段階の『急性転化期』を迎えてしまうことがあるのです。そして生じたのが、38度の高熱。あの発熱は、増えすぎた異常な白血球に発熱物質が含まれていたため。この『急性転化期』を迎えてしまうと、最悪の場合、半年ほどで命を失うことも少なくないのです。では、この病気を早い段階で発見する方法はないのでしょうか?実は極めて簡単な発見法があったのです。それこそ、O・Kさんが怠ってしまった健康診断。白血病は白血球の数が異常に増えるため、健康診断で血液検査さえ受けていれば、速やかに発見することができます。しかし現在、健康診断を定期的に受けている主婦は、全体のわずか3割程度しかいないのです。その後、O・Kさんは、すぐ抗がん剤の投与を受け、病状の進行を遅らせることができました。現在、無菌室の中で、骨髄移植を受ける日を待ち続けています。
「慢性骨髄性白血病で命の危険にさらされないためには?」
(1)定期的な血液検査が何よりも大切です。
(2)血液は健康のバロメーター。特に症状がなくとも、年に一度くらいは健康診断を受診されることを
   おすすめします。
『本当は怖い夜更かし〜悪魔の目覚め〜』
I・Mさん(女性)/34歳(発症当時) OL(証券会社勤務)
証券会社で働くI・Mさんは最近、長編の連続サスペンスドラマにはまり、寝るのはいつも深夜3時近く。さらに週末の夜になると、見たかったDVDを借りまくって見続け、その分、昼間はぐっすり、という昼夜逆転生活を送っていました。そんな生活を続けて半年が経ったある日、自分でも気づかないうちに寝過ごしてしまったI・Mさん。会社でも普段では考えられないミスを犯してしまいます。以来、朝なかなか起きられず、会社に来ても午前中はボーッとして仕事にならない日が続き、症状はさらにひどくなっていきました。
(1)朝起きられない
(2)頭痛
(3)夜なかなか眠れない
(4)徹夜明けでも眠くならない
(5)うつ状態
概日リズム睡眠障害(がいじつりずむ すいみんしょうがい)
<なぜ、夜更かしから概日リズム睡眠障害に?>
「概日リズム睡眠障害」とは、夜更かしなど、不規則な生活を続けることで、正常な睡眠が出来なくなってしまう病。最悪の場合、I・Mさんのように、「うつ状態」にまで追い込まれてしまうケースもあります。この病の発症には、人間が規則的な睡眠を続けるために欠かせない、ある脳内物質が大きく関わっています。それが、メラトニン。メラトニンとは、眠気を引き起こし、睡眠を促す作用を持つホルモンの一種。通常は夜暗くなると活発に分泌され、自然と眠りに落ち、朝日を浴びるとともに分泌が減り、活動できるようになります。ところがI・Mさんの場合、夜更かし生活によって、脳が誤作動を起こし、メラトニンの分泌リズムが徐々に遅く、ずれていきました。そこへ追い討ちをかけたのが、朝までDVDを観て、昼間寝るという週末の昼夜逆転生活。本来、メラトニンの出る夜に起き続け、昼間眠る。そして月曜の朝、無理矢理起きる。そんな生活を半年以上に渡って続けたI・Mさん。その結果、彼女のメラトニンの分泌リズムは、修正不可能なまでに破壊されてしまったのです。こうして、朝起きられない、夜眠れないといった症状が現れました。さらに、睡眠不足が自律神経の異常を引き起こし、あの頭痛という症状が。そしてついには、夜全く眠れなくなるまで病を悪化させてしまったのです。近年、テレビやパソコンなどの普及に伴い、ますます就寝時間が遅くなっている日本人。患者は増え続け、いまや日本人のおよそ5人に1人が何らかの睡眠障害を抱えているともいわれているのです。
「睡眠障害にならないためには?」
(1)規則正しい睡眠習慣が大切です。
(2)無理に寝ようとせず、朝起きる時間を一定にし、朝日をキッチリ浴びること。
   また、朝食をキチンと摂り、昼寝は30分以内にしましょう。
   これらを守っていれば、正しいリズムが保たれるのです。
(3)もし、ちょっとでも体に違和感を覚えたら、迷わず、精神科や睡眠外来で相談されることを
   おすすめします。