診察室
診察日:2006年6月20日
テーマ: 『本当は怖い発疹〜しっかり者の落とし穴〜』
『本当は怖い性格の変化〜悪魔の仮面〜』

『本当は怖い発疹〜しっかり者の落とし穴〜』

M・Yさん(女性)/52歳(発症当時) 専業主婦
花粉症やハウスダストのアレルギーがひどいため、日頃からこまめな掃除を心がけていたM・Yさん。ある日、風呂上がりに、右足の土踏まずのあたりに小さな発疹を見つけた彼女は、夫の水虫がうつったと思い込み、夫の薬を借りて治療することにしました。以来、毎日薬を塗り続けたM・Yさん。しかし、一向に良くなる気配がありません。ただ、痛みもかゆみもほとんどないため、病院に行くのも恥ずかしいと様子をみていましたが、新たな異変に見舞われます。
(1)足裏の発疹
(2)発疹が増える
(3)手のひらの発疹
(4)胸の激痛
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
<発疹から、なぜ掌蹠膿疱症に?>
「掌蹠膿疱症」とは、小さな水ぶくれが手のひらや足の裏にでき、皮膚が荒れてしまうだけでなく、放っておくと、胸や首、腰などの骨や関節が激しい炎症を起こし、激痛をもたらすこともある恐ろしい病。原因が不明だったため、これまで中高年の女性を中心に多くの患者を苦しめてきました。しかし最近、この病を引き起こすひとつの要因が明らかになったのです。それが「歯科金属アレルギー」。そもそも金属アレルギーとは、ピアスやネックレスなどの金属製品に対して、体がアレルギー反応を起こし、かぶれなどの症状が出ること。そして歯科金属アレルギーとは、読んで字のごとく、歯の治療で使われた金属が原因で起こるアレルギーなのです。M・Yさんの場合、その原因と考えられる金属は、中学生のとき、虫歯治療で詰めた「水銀アマルガム」でした。彼女が治療を受けた60年代から70年代にかけて、虫歯治療の詰め物として、もっとも頻繁に使われていた金属です。M・Yさんの口の中では、長い時間をかけ、この水銀アマルガムから微量の水銀が溶け出し、結果、免疫機能が暴走。水銀を攻撃したため、手のひらや足の裏に発疹が現れたと考えられます。この病の恐ろしいところはその発疹が水虫と非常に似ているため、多くの人が勘違いしてしまうこと。その結果、M・Yさんは、ついに胸の骨にまで炎症が及び、あの激痛に襲われたのです。事実、彼女は原因と考えられた水銀アマルガムを口の中から取り除くことで、病が完治。今は元気に暮らしています。歯科金属アレルギーは、水銀アマルガムがあるからといって、すべての人が発症するわけではありません。ただ、M・Yさんのように、花粉症などアレルギー体質の人は、発症しやすいといわれています。だからこそ、日頃から自分の体質を知っておくことが何より大切なのです。
「掌蹠膿疱症にならないためには?」
(1)歯の詰め物に水銀アマルガムがあるからといって、すぐに掌蹠膿疱症になる訳ではありません。
(2)最も大切なのは自分の体質を知ること。何に対してアレルギーがあるのか知っておきましょう。
   心あたりのある方は、皮膚科で金属アレルギーの検査を受けることをおすすめします。
『本当は怖い性格の変化〜悪魔の仮面〜』
M・Yさん(男性)/55歳(発症当時) サラリーマン
中堅商社に勤務するM・Yさんは、家族に怒った顔を見せたことがないほど温和な性格。妻のNさんからみても、まさに理想の夫でしたが、結婚25年目を迎えた年、突然、性格が豹変。会社の部下からの電話に横柄な口のきき方をしたり、ささいなことで声を張り上げ娘を叱りつけるようになります。妻のNさんは「仕事が大変なのか」と思っていましたが、その性格の変化こそ恐ろしい病魔の仕業でした。
(1)急に横柄になる
(2)些細な失敗を叱る
(3)自慢話をやめない
(4)同じものばかり食べる
(5)暴力をふるう
(6)万引き
ピック病
<なぜ、性格の変化からピック病に?>
「ピック病」とは認知症のひとつ。詳しい原因は明らかではないものの、脳細胞が傷つき、脳が萎縮。正常な行動が出来なくなってしまう病です。現在、日本におけるピック病の推定患者数はおよそ3万人。とりわけ40代から50代の働き盛りの男性を襲うことが多い病気です。この病の最も恐ろしいところは、他の認知症と違って、周囲の人間が病の存在に気づくことが極めて難しいこと。代表的な認知症であるアルツハイマー病の場合、記憶をつかさどる、脳の中心部分が萎縮します。その結果、ひどい場合は、家族の名前や顔すら忘れてしまうため、周りの人が病の発症に気づきやすいと言われます。それに対し、ピック病の場合、萎縮するのは、人間の感情や行動をコントロールしている脳の前頭葉。そのため自分の感情や行動を抑えられず、欲望のおもむくまま、行動するようになるのです。しかしその変化は、性格上のことなので、なかなか病気とは認識できません。妻のNさんも、何かおかしいとは思いながらも、それ以外は異常がなかったため、ついつい見過ごしてしまったのです。その結果、現れたのが、あの「同じものばかり食べる」という症状でした。これこそ欲望の赴くまま行動するピック病の特徴。そして、たとえ異常行動をたしなめられたとしても、理路整然と言い訳をするため、ますます病気に気づきにくいのです。こうして病はさらに進行。行き着いた先が「万引き」でした。このとき、夫のYさんの心を支配していたのは、「ただ欲しい」という欲望だけ。罪の意識は微塵もありませんでした。ピック病は、放置すれば10年から15年で寝たきりとなり衰弱、死亡してしまうこともある恐ろしい病です。病が進行したとき、何より大変なのは、その家族。病気とは知らず対応を誤ると、理不尽な暴力に見舞われたり、生活が根底から崩れてしまうことも少なくないのです。そんな悲劇を防ぐためにも、周囲の人が少しでも早い段階で異変に気づき、専門の病院で診察を受けさせることが、何より大切なのです。Mさん一家は今、治療をつづけながら家族で力を合わせ、病と向き合っています。しかし、長い戦いは、まだ始まったばかりなのです。
「認知症を予防するには?」
(1)前日に食べたおかずの内容をできるだけ思い出す。
(2)寝る前にその日の出来事を5つ以上思い出す。
(3)こんなことだけでも大きな効果があるのです。もし認知症の不安を感じたら、神経内科や精神科を
受診することをおすすめします。
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