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『本当は怖い性格の変化〜悪魔の仮面〜』 |
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M・Yさん(男性)/55歳(発症当時) |
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サラリーマン |
中堅商社に勤務するM・Yさんは、家族に怒った顔を見せたことがないほど温和な性格。妻のNさんからみても、まさに理想の夫でしたが、結婚25年目を迎えた年、突然、性格が豹変。会社の部下からの電話に横柄な口のきき方をしたり、ささいなことで声を張り上げ娘を叱りつけるようになります。妻のNさんは「仕事が大変なのか」と思っていましたが、その性格の変化こそ恐ろしい病魔の仕業でした。 |
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(1)急に横柄になる
(2)些細な失敗を叱る
(3)自慢話をやめない
(4)同じものばかり食べる
(5)暴力をふるう
(6)万引き |
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ピック病 |
<なぜ、性格の変化からピック病に?> |
「ピック病」とは認知症のひとつ。詳しい原因は明らかではないものの、脳細胞が傷つき、脳が萎縮。正常な行動が出来なくなってしまう病です。現在、日本におけるピック病の推定患者数はおよそ3万人。とりわけ40代から50代の働き盛りの男性を襲うことが多い病気です。この病の最も恐ろしいところは、他の認知症と違って、周囲の人間が病の存在に気づくことが極めて難しいこと。代表的な認知症であるアルツハイマー病の場合、記憶をつかさどる、脳の中心部分が萎縮します。その結果、ひどい場合は、家族の名前や顔すら忘れてしまうため、周りの人が病の発症に気づきやすいと言われます。それに対し、ピック病の場合、萎縮するのは、人間の感情や行動をコントロールしている脳の前頭葉。そのため自分の感情や行動を抑えられず、欲望のおもむくまま、行動するようになるのです。しかしその変化は、性格上のことなので、なかなか病気とは認識できません。妻のNさんも、何かおかしいとは思いながらも、それ以外は異常がなかったため、ついつい見過ごしてしまったのです。その結果、現れたのが、あの「同じものばかり食べる」という症状でした。これこそ欲望の赴くまま行動するピック病の特徴。そして、たとえ異常行動をたしなめられたとしても、理路整然と言い訳をするため、ますます病気に気づきにくいのです。こうして病はさらに進行。行き着いた先が「万引き」でした。このとき、夫のYさんの心を支配していたのは、「ただ欲しい」という欲望だけ。罪の意識は微塵もありませんでした。ピック病は、放置すれば10年から15年で寝たきりとなり衰弱、死亡してしまうこともある恐ろしい病です。病が進行したとき、何より大変なのは、その家族。病気とは知らず対応を誤ると、理不尽な暴力に見舞われたり、生活が根底から崩れてしまうことも少なくないのです。そんな悲劇を防ぐためにも、周囲の人が少しでも早い段階で異変に気づき、専門の病院で診察を受けさせることが、何より大切なのです。Mさん一家は今、治療をつづけながら家族で力を合わせ、病と向き合っています。しかし、長い戦いは、まだ始まったばかりなのです。 |