診察室
診察日:2005年8月8日
テーマ: 『本当は怖い歯茎からの出血〜ずぼらの代償〜』
『本当は怖い水虫〜悪魔の連鎖〜』

『本当は怖い歯茎からの出血〜ずぼらの代償〜』

N・Nさん(女性)/42歳(発症当時) 主婦(パート勤務)
初めての海外旅行に出かける前日、梨をかじったところ、歯茎から出血しているのに気づいたN・Nさん。実は彼女、このところ歯を磨いた時にもよく出血。いつの間にか、歯周病になっていたのです。しかし、そうとは知らない本人は、痛みもなく、しみるわけでもないため、そのままにして旅行に出かけてしまいました。ところが、初めての海外ではしゃぎすぎたのか、帰国してすぐ風邪を引いてしまったN・Nさん。その後、歯を磨き始めた時、突然、歯茎に痛みが走ったのを機に、様々な異変が続くようになりました。
(1)歯茎からの出血
(2)歯茎の一部が赤く腫れる
(3)肉が腐っているような口臭
(4)歯茎全体が赤く腫れる
(5)口の中の激しい痛み
(6)歯茎がただれて腐る
急性壊死性潰瘍性歯肉炎(きゅうせい えしせい かいようせい しにくえん)
<なぜ、歯茎からの出血から急性壊死性潰瘍性歯肉炎に?>
「急性壊死性潰瘍性歯肉炎」とは、口の中の雑菌によって歯茎にひどい炎症がおき、急激にただれてしまう病気です。さらに、高熱も出て、全身がひどく衰弱してしまうこともあります。ではなぜ、N・Nさんは、この病気になってしまったのでしょうか?原因は、彼女がかかっていた「歯周病」にありました。歯周病は30歳以上の日本人のおよそ7割から8割が患っていると言われる非常に一般的な病気です。つまり、この急性壊死性潰瘍性歯肉炎も、誰もがなってしまう危険性があるのです。では、この病になる人と、ならない人、その命運を分けるものとは一体何なのでしょうか?それは免疫力。通常、歯と歯茎の間には浅い溝がありますが、歯周病になると、この溝が破壊され深くなっていきます。すると、そこに大量の雑菌が溜まってしまうのです。しかし、普段は、免疫力で雑菌の繁殖が抑えられているため、炎症はゆっくりとしか進行しません。ところが、N・Nさんの場合、極度の旅の疲れに加え、風邪を引いてしまったことで免疫力が極端に低下していました。そのため、雑菌が急激に繁殖。N・Nさんの歯茎を次々と破壊してしまいました。そしてついには、歯茎がただれ、口が腐ったかのような状態にまで悪化してしまったのです。この病気が恐いのは、進行が極めて早いこと。わずか1日から2日で歯茎全体が壊死してしまうことも珍しくありません。幸い、N・Nさんは、懸命の治療の結果、10日間の入院後、無事退院。歯茎もすっかり元通りになりました。歯周病の人なら誰もがなる危険性のある急性壊死性潰瘍性歯肉炎。夏風邪や夏バテ、さらには年末年始の多忙な時期など免疫力が低下しがちなときは、特に注意が必要なのです。
「歯周病の危険がわかる歯周ポケットの検査は?」
(1)どこの歯科医院でも簡単に受けられます。
(2)その際には、虫歯の治療はもちろん、歯垢や歯石の除去もお忘れなく。
(3)2ヵ月に1度の割合でこの定期検診を受けていれば、歯に関する大きな心配はいりません。
『本当は怖い水虫〜悪魔の連鎖〜』
K・Yさん(女性)/26歳(発症当時) OL
中堅商社に勤めるK・Yさんは、誰もがうらやむ才色兼備のキャリアウーマン。プライベートでも素敵な男性と恋に落ち、すべてが順調そのものでした。そんな彼女の唯一の悩み。それは、この時期、つまり夏になると必ず水虫に悩まされること。1週間後に彼の家で手料理を振る舞うことになったK・Yさん。「なんとか水虫がばれないようにしなくちゃ」と心配していましたが、その夜から次々と異変が起こり始めました。
(1)水虫
(2)皮がむけて赤くただれる
(3)足の甲の痛み
(4)足の甲が赤く腫れる
(5)足の甲全体が赤く腫れる
蜂窩織炎(ほうかしきえん)
<なぜ、水虫から蜂窩織炎に?>
「蜂窩織炎」とは、何らかの理由で皮下組織に細菌が入りこみ、皮膚が炎症を起こす病。放置し続けると、最悪の場合、死に至ることもある恐ろしい皮膚病なのです。この蜂窩織炎のうち、最も多いのが、膝から下に出来るタイプ。そしてなんとその9割近くが、水虫による傷が原因だとも言われています。現在、日本人の水虫患者は、およそ2500万人。実に、国民の5人に1人が水虫だと言われています。では、誰にでもできる水虫がなぜ、彼女にこの病をもたらしてしまったのでしょうか?そもそも水虫とは、「白癬菌(はくせんきん)」という、カビの一種によって引き起こされる皮膚病です。水虫だったK・Yさんの足も、この白癬菌に冒されていました。その結果、足の痒みが現れ、さらに皮がむけ、赤くただれるようになりました。ここまでは、水虫になったら誰にでも起こる症状。でも、この瞬間にこそ、大きな落とし穴が待ち受けていました。水虫によってできた傷口から、なんと、もう一つの細菌が入りこんでしまったのです。それが、黄色ブドウ球菌。人間の髪や皮膚などにも存在する、ごく身近な細菌です。しかし、この菌が傷口から侵入すると、命に関わるほどの危険をもたらすことがあるのです。K・Yさんの水虫の傷口から入りこんだ黄色ブドウ球菌は、皮膚の深いところで爆発的に増殖。あっという間に、足が腫れ上がってしまったのです。この進行の早さこそ、蜂窩織炎の最も恐ろしいところ。幸いにもK・Yさんは、手術を受けずに、投薬による治療で最悪のケースを逃れることができました。かつては、男性の病と思われていた水虫。しかし、働く女性が増え、ストッキングに革靴という、高温多湿を助長するスタイルが、女性の水虫を増やしているといわれています。
「水虫を治すためには?」
(1)水虫の薬は最低1ヵ月以上使用することが大切。足の裏全体から指の間までつけましょう。
(2)水虫の症状は痒みだけとは限らないため、自分が水虫だと自覚していない人が意外と多いのです。
(3)痒くなくても、足の裏がカサカサして硬くなっている、爪が厚くなっている、などの症状があれば、
   迷わず皮膚科で検診されることをおすすめします。