診察室
診察日:2006年11月7日
テーマ: 『本当は怖い腹痛〜幸せの代償〜』
『本当は怖い寝言〜恐怖の正夢〜』

『本当は怖い腹痛〜幸せの代償〜』

T・Kさん(女性)/56歳(発症当時) 主婦
20年前に夫と死別、長い老後のパートナーを求め、思い切って中高年のためのお見合いパーティに参加したT・Kさん。翌日、お見合いパーティで一番人気だった男性から交際を申し込まれた彼女は、フランス料理店で初めてのデート。20年ぶりの恋に胸をときめかせていましたが、帰宅後、へその辺りに締め付けられるような痛みを感じます。市販の胃腸薬を飲むと痛みは消えたため、ただの腹痛と思っていたT・Kさんでしたが、その後も異変は続きました。
(1)食後の腹痛
(2)くり返す食後の腹痛
(3)激しい腹痛
(4)吐き気
腸間膜動脈血栓症(ちょうかんまくどうみゃくけっせんしょう)
<なぜ、腹痛から腸間膜動脈血栓症に?>
「腸間膜動脈血栓症」とは、腸に血液を送る血管が血栓によって詰まってしまい、腸が壊死してしまう病気です。発病後5時間から10時間以内に治療をしなければ、死に至る可能性が非常に高い病なのです。ではなぜ、T・Kさんはこの病に冒されてしまったのでしょうか?原因は、趣味の食べ歩きなど、度を越した食生活による動脈硬化。動脈硬化といえば、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす原因として知られていますが、T・Kさんの場合は、同じことが腸でおきてしまいました。そもそも人間の腸は、食事をとると、それを消化吸収するエネルギーとして大量の血液を必要とします。その血液を送るのが、腸間膜動脈と呼ばれる血管。ところがT・Kさんのように、この血管の動脈硬化が進み狭くなると、消化吸収に必要な血液が流れにくくなり、腸が一時的に血液不足に陥ってしまうのです。その結果、起きたのが、あの「締め付けられるような腹痛」でした。この病気が恐ろしいのは、消化が終り、腸の血液不足が解消されると、痛みがウソのように消えてしまうこと。これこそが、この病の落とし穴。動脈硬化のサインを体が発しているにも関わらず、単なる腹痛としか思えないため、T・Kさんのように、つい軽く見て放置してしまうことが多いのです。しかし、その間にも動脈硬化はさらに進行。そして、ついに完全に血管が詰まり、腸が壊死してしまったのです。幸いにもT・Kさんは、一命を取りとめることができました。しかし、壊死した範囲が広かったため、腸の大部分を切除。もはや食事は取れず、点滴でしか栄養を吸収できない体になってしまったのです。
「動脈硬化を予防するためには?」
(1)最低限、「禁煙」「肉より魚中心の食事」「過度の飲酒を避ける」という3つを守りましょう。
(2)年1回の定期検査を受けることが大切です。
『本当は怖い寝言〜恐怖の正夢〜』
S・Hさん(男性)/54歳(発症当時) サラリーマン
リストラされて半年、ようやく小さな商社に再就職できたS・Hさん。その1ヵ月後、妻のAさんは夜中、夫の激しい寝言で目を覚ましました。翌朝、夫から「上司と言い争う夢を見ていた」と聞き、安心していたAさんでしたが、異変はさらに続きました。
(1)はっきりとした寝言
(2)眠りながら動く
(3)(妻の)首を絞める
レム睡眠行動障害
<なぜ、寝言からレム睡眠行動障害に?>
「レム睡眠行動障害」とは、夢で体験していることを、そのまま言葉として発したり、行動に移したりしてしまう病のこと。原因は、はっきりとはわかっていませんが、S・Hさんのように真面目でストレスをためやすいタイプが発症しやすいと言われています。ある調査によれば、現在、この病の患者数は推計12万人。しかも、その8割が、50代以上の男性だと報告されています。では一体なぜ、S・Hさんのような異常行動が起きてしまうのでしょうか?そもそも人間の眠りは、二つの状態を交互に繰り返すことで成り立っています。眠りが浅く、夢をみる「レム睡眠」と、眠りが深く、夢をみない「ノンレム睡眠」です。健康な人の場合は、夢を見ているレム睡眠中には、脳からの命令が遮断され、寝言を言うことも体を動かすこともありません。寝言を言うのは、夢をみていないノンレム睡眠のときだけ。寝言と夢とは、実は全く関係がないのです。ところが、この病を発症すると、脳幹部の機能が低下。レム睡眠中にも関わらず、脳の命令がそのまま体に伝わり、夢の中で発した言葉や行動が、実際に寝言や体の動きとなって現れてしまうのです。そのため、このように「夢の内容と一致した寝言」を言うようになるのです。さらにもう一つ、この病に気づくポイントがあります。それが夢の内容。この病になると、誰かと争ったり、何者かに襲われたりするなど、悪夢をみることが増えてくるのです。幸いS・Hさんは、大事に至ることはなく、今では医師の処方した薬で平穏な夜を取り戻すことができました。
「レム睡眠行動障害を自分で早期発見するには?」
(1)夢の内容の変化に注意することが大切です。
(2)ある時を境に、争うような夢を頻繁に見るようになったら、迷わず、睡眠外来など専門医を受診することを
   おすすめします。