診察室
診察日:2006年11月28日
テーマ: 『本当は怖い頭痛〜闇の底無し沼〜』
『本当は怖い手の震え〜波打つ悪魔〜』

『本当は怖い頭痛〜闇の底無し沼〜』

T・Nさん(女性)/49歳(発症当時) 主婦
神経質で心配性の性格から、家を空けるというだけでいつも一苦労の主婦T・Nさん。そんな彼女の今一番の心配事は、息子の高校受験。これで息子の将来が決まると思った彼女は、合格のために全力を注いでいました。そんなある日、ちょっと息子の帰りが遅くなっただけなのに異常に心配になり、頭の後ろ側が締め付けられるような痛みを感じたT・Nさん。その後も、心配や不安がとめどなくわき起こり、様々な異変が続きました。
(1)頭痛
(2)肩こり
(3)不眠
(4)落ち着かない
全般性不安障害
<なぜ、頭痛から全般性不安障害に?>
「全般性不安障害」とは、はっきりした原因は分かっていませんが、精神を安定させる物質セロトニンが不足することで脳が過敏になり、不安が抑えられなくなる病。中高年の女性に多く、不安にさいなまれ続けることで、やがてはうつ病を発症。社会生活を送れなくなることもあります。では一体なぜT・Nさんは、全般性不安障害になってしまったのでしょうか?最大の要因は彼女の性格。そう、T・Nさんのように、神経質で心配性の人がこの病にかかりやすいのです。そして、もうひとつの原因がストレス。T・Nさんのように、息子の受験といったストレスが引き金となって発症するケースが少なくないのです。やがて症状が進むと、T・Nさんは将来に対する漠然とした不安に悩まされるようになりました。実はこれこそ、全般性不安障害の最大の特徴。未来の出来事に対しあれこれ心配してしまう、いわゆる「取り越し苦労」に苦しめられるのです。とはいえ、先のことを考えて不安になるのは誰にでもあること。病気と見分ける方法はないのでしょうか?そのポイントこそ、最初にT・Nさんを襲ったあの頭痛や肩こり。あれは、過敏になった脳が周囲の筋肉を緊張させたために起きたもの。この病の重要なサインだったのです。しかしT・Nさんはサインに気づかず、その取り越し苦労は、一層エスカレートしていきました。そして、起こり得ないことに対する不安まで、抑えきれなくなってしまったのです。幸い、T・Nさんは、この段階で心療内科を受診。現在は、投薬治療によって取り越し苦労から解放されました。
「全般性不安障害にならないためには」
(1)ネガティブな考え方の人が全て全般性不安障害を発症するわけではありません。
(2)ただ、なりやすい性格だと自覚することが大切。
(3)長引く頭痛や肩こりなどがあれば、迷わず心療内科などで相談されることをお勧めします。
『本当は怖い手の震え〜波打つ悪魔〜』
T・Mさん(女性)/52歳(発症当時) 介護士
5年前に両親に先立たれて以来、高齢者の介護に目覚め、人気の介護士として忙しい毎日を過ごしていたT・Mさん。冷え込みの厳しくなった12月も半ば、介護先でお年寄りをベッドに横たわらせた直後、突然右手が震え出す異変に襲われました。意識した途端、すぐに止まってしまったため、特に気にも留めなかったT・Mさんですが、異変はそれだけではありませんでした。
(1)手の震え
(2)力を入れなくても震える
(3)振れ幅が大きくなる
(4)震えの回数が増える
(5)震えを止めようとしても止まらない
(6)無表情
(7)身体が動かない
パーキンソン病
<なぜ、手の震えからパーキンソン病に?>
「パーキンソン病」とは、脳内の神経伝達物質ドーパミンが異常に減少することで、運動機能に障害を起こす病。最悪の場合、寝たきりになってしまうこともあります。未だに原因が分かっていないため、難病に指定されていますが、決してまれな病気ではありません。20代から80代まで幅広い年代で発症し、現在国内の患者数は、およそ12万人。50代以上に限ると、何と100人に1人がかかっていると言われるほど。しかし、詳しい症状が知られていないため、病気に気付かない人も多く、重症化させてしまうケースが珍しくありません。T・Mさんもその1人でした。彼女を最初に襲ったあの右手の震え。実はこれこそがパーキンソン病の典型的な初期症状。ドーパミンが不足すると、脳から指令が送れなくなり、まずはこのように手や足が震え出すことが非常に多いのです。でも、そのことを意識したり、何か作業をしようとすると震えはすぐに止まってしまいました。これが、パーキンソン病の落とし穴。手足の震えは、安静時にのみ起きるのが特徴。最初は日常生活に支障がないことも多く、さらに長い年月をかけて徐々に進行するため、見過ごしやすいのです。T・Mさんが放置している間にも病は着実に進行。無表情という症状が現れました。あれは顔の表情をつくる筋肉への指令までもが異常をきたしてしまったせい。そしてついには、とっさに立ち上がろうとしても、全身の筋肉を全く動かせないほどに病を悪化させてしまったのです。現在、T・Mさんは薬を飲みながら懸命にリハビリを続けています。未だ完治の方法がみつかっていないこの病。しかし、早期に発見することが出来れば、薬によってそれまでとほとんど変わらない生活を送ることも出来ると言われているのです。