診察室
診察日:2007年1月23日
テーマ: 『本当は怖いめまい〜悲劇のスパイラル〜』
『本当は怖い風邪〜危険な漂流者〜』

『本当は怖いめまい〜悲劇のスパイラル〜』

Y・Sさん(女性)/29歳(発症当時) 専業主婦
念願の子宝を授かったことがわかり、夫と一緒に喜んでいたY・Sさん。しかし数日後、片付け物を終えた時、突然グルグルと回るようなめまいに襲われました。1週間後、今度は下腹部の激しい痛みに襲われた彼女は、すぐに病院に行きますが、妊娠3ヵ月目で流産をしてしまいます。そんな悪夢から1年、再び妊娠したY・Sさんは、二度と同じ過ちを繰り返さないよう体調管理に細心の注意を払っていましたが、さらなる異変が続きました・・・。
(1)めまい
(2)1年前と同じめまい
(3)ふくらはぎが網の目状に赤くなる
(4)ろれつが回らない
抗リン脂質抗体症候群
<なぜ、めまいから抗リン脂質抗体症候群に?>
「抗リン脂質抗体症候群」は、膠原病の一種。体内にできた抗リン脂質抗体という異物が、突如暴走を開始、血栓を発生しやすくするというもの。脳梗塞や心筋梗塞を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあるのです。残念ながら、どうしてこうした暴走が起きるのかは、ほとんどわかっていません。ただ欧米の調査では、100人に1人がこの抗体を持っていることが確認されています。この病気の特徴は、2対1の割合で女性に多いこと。特に問題視されているのが、妊娠中の女性です。実は妊娠をきっかけに発病することが多いのです。その結果、胎盤の血管に血栓が発生し、赤ちゃんに充分な栄養が届かなくなり流産しやすくなると考えられています。Y・Sさんの2度に渡る流産は、この抗リン脂質抗体症候群が原因でした。そしてY・Sさんを襲った様々な異変は、脳や足の血管に一時的に血栓ができたことが原因でした。この病の特徴は、全身のあらゆる血管に血栓ができ、多種多様な症状が現れること。そして女性の場合、流産を繰り返してしまうことが重要なサインなのです。実際、Y・Sさんのように、繰り返し流産することがきっかけで、この病が発見されるケースは、少なくありません。だからこそ、心当たりがある場合は、早めに検査を受けることをお勧めします。「抗リン脂質抗体症候群」の血液検査は、内科や産婦人科で希望すれば、誰でも受けることが可能なのです。2回目の流産から1年、血栓を出来にくくする治療を受けながら、Y・Sさんは無事、念願の我が子を出産しました。そう、この病はその存在を知ることが出来れば、薬でコントロールすることも可能なのです。
『本当は怖い風邪〜危険な漂流者〜』
T・Tさん(男性)/68歳(発症当時) 大工棟梁
この道50年、大工の棟梁T・Tさんは1年前、30歳年下の女性と再婚。いまだ人生の春を謳歌していましたが、寒さが厳しくなった1月、風邪を引いてしまいました。「病は気から」と、これまでも風邪を引いても自力で治してきたT・Tさん。2日後、風邪が続いているにも関わらず工事が遅れ気味のため、現場に出かけたところ、さらなる異変に襲われるようになります。
(1)風邪
(2)湿った咳
(3)微熱
(4)わき腹が痛む
肺炎
<なぜ、風邪から肺炎に?>
「肺炎」とは、細菌やウィルスなどの感染により肺の細胞が激しく炎症を起こし、呼吸困難を引き起こす病。よく耳にする病名のため、あまり怖いイメージはありませんが、実は日本人の死亡原因の第4位。年間9万5000人もの人々が犠牲になっている恐ろしい病なのです。しかも、そのうちの92%が、65歳以上の高齢者。一体なぜなのでしょうか?それは「免疫力」の低下。年代別の免疫力のグラフを見ると、20代の免疫力を100とすると、60代ではなんと5分の1の20にまで低下してしまうのです。さらにT・Tさんの場合は運悪く、風邪を引いてしまいました。その結果、ただでさえ低い免疫力が、さらに低下。こうして全く無防備な状態になったT・Tさんの体に、肺炎を引き起こす細菌、肺炎球菌が侵入。あっという間に感染が広がり、肺炎を発症してしまいました。しかし、これだけで死に至ることはほとんどありません。実は高齢者の肺炎による死の影には、もう一つの原因が隠されていたのです。高齢者肺炎の特徴を調べてみると、その殆どが、何らかの基礎疾患を持っていた事が明らかになったのです。中でも近年最も増えているのが、喫煙などを原因とした呼吸器疾患、COPD。「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」とは、タバコなどに含まれる有害物質によって肺や気管支の組織がボロボロに破壊され、肺機能が著しく低下してしまう病。T・Tさんの場合、40年に渡る喫煙によって、知らず知らずのうちにCOPDを発症していたのです。そう、COPDの恐ろしいところは、肺の機能が低下しているにも関わらず、普段は特別な症状が出ないこと。ところが、ひとたび肺炎などになってしまうと、急激に症状を悪化させてしまうのです。風邪を引いてわずか1週間。T・Tさんは、激しい呼吸困難に見舞われ、命を落としてしまいました。免疫力が下がっている高齢者は風邪を甘く見ないこと。そして、COPDなど気づかないうちにかかっている基礎疾患に注意することが大事なのです。
<高齢者の肺炎を予防する最も良い方法>
それは肺炎球菌ワクチンの注射です。
1回の接種で5年間、肺炎球菌による肺炎の予防に高い効果があります。
呼吸器内科などで受け付けていますので、心配な方はぜひご相談下さい。