診察室
診察日:2007年3月13日
テーマ: 「本当は怖い歯茎のしみ〜悪魔が棲む暗い穴〜」
「本当は怖い口臭〜臭う悪魔〜」

『本当は怖い歯茎のしみ〜悪魔が棲む暗い穴〜』

K・Sさん(男性)/56歳(発症当時) 営業マン
酒グセの悪さから昇進が遅れ、この春からようやく課長に昇進したK・Sさん。ところが昇進して間もないある日のこと、冷たいものを飲んだ瞬間、歯茎がピリッとしみるのを感じました。ほんの一瞬のことだったため、気に留めていなかったK・Sさんですが、その後も気になる症状が続きました。
(1)歯茎がしみる
(2)舌がピリピリする
(3)舌が頻繁にピリピリする
(4)歯がグラグラする
口腔底癌(こうくうていがん)
<なぜ、歯茎のしみから口腔底癌に?>
「口腔底癌」とは、舌の付け根から歯茎の下部にかけての、いわゆる口の底、「口腔底」に出来る癌のこと。癌の中でも早期発見が非常に難しい、恐ろしい病です。主な発病の原因は、お酒とタバコ。長年、過度の飲酒や喫煙などの刺激に口腔底の粘膜がさらされ続けていると、癌ができやすくなると考えられているのです。それにしても、患部は口の中。すぐに判りそうなものなのですが、なぜ、こんなにも発見が遅れてしまうのでしょうか?K・Sさんを度々襲ったのは、「舌がピリピリする」という症状。この時、K・Sさんは鏡で舌を調べていました。しかし、鏡で見ても舌には何も異常がありません。実はこれこそ、口腔底癌の落とし穴!この時、K・Sさんの口腔底には、すでに癌が巣食っていました。しかし、異変は口腔底の上に位置する舌に現れるのです。これは口腔底にできた癌細胞が、舌の神経を刺激したため。このように直接、患部に症状がでないことが多いため、本来の病巣を見逃し、病を進行させてしまうことが多いのです。その結果、癌は静かに拡大を続け、あごの骨にまで進行。歯がグラグラしたのはそのためでした。ここまで来るともはや手遅れ。口腔底という場所は、口の中心にあるため、左右のリンパ節に転移しやすく、K・Sさんの癌もすでにリンパ節への転移を起こしていたのです。
『本当は怖い口臭〜臭う悪魔〜』
T・Mさん(女性)/67歳(発症当時) 無職
2年前に夫を亡くして以来、一人で暮らしてきたT・Mさん。ある日、遊びにきた孫娘から口が臭いと指摘されてしまいました。最近では人と接することが少なくなり、日々の歯磨きも怠りがちになっていたT・Mさん。さっそく歯磨きを始めたところ、歯茎から血がにじんでしまいました。孫娘に嫌われないよう、ちゃんと歯を磨こうと決心したT・Mさんですが、その後も気になる異変が続きました。
(1)口臭
(2)歯茎からの出血
(3)食後、声がかすれる
(4)倦怠感
(5)食欲不振
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
<なぜ、口臭から誤嚥性肺炎に?>
「誤嚥性肺炎」とは、通常、食道を通るべき食べ物が誤って気管から肺に入り、そこに含まれる雑菌などで起こる肺炎のことです。夫を亡くして以来、気ままな一人暮らしを送るうち、日々の歯磨きを怠るようになっていたT・Mさん。「口臭」や「歯茎からの出血」といった症状にみられるように、いつしか彼女は歯周病になっていました。その結果、口の中に肺炎を引き起こす様々な雑菌が繁殖してしまったのです。ではT・Mさんの場合、なぜ口の中の雑菌が肺にまで侵入してしまったのでしょうか?普段、私たちは物を飲み込む時、脳から送られた指令で喉頭蓋と呼ばれる弁を閉ざし、気管に入り込むことを防いでいます。ところがT・Mさんは、高齢であることに加え、自覚症状のない小さな脳梗塞を引き起こしていたため、脳からの指令がうまく伝わりませんでした。その結果、物を食べるときはもちろん寝ている時にも、口の中にある大量の雑菌が唾液とともに肺の中に流入。ついに炎症を起こしてしまったのです。しかし、高齢のため強い症状が出ず、肺炎になっていることに気付かなかったT・Mさん。でも実は彼女の場合、とても分かりやすいサインが出ていたのです。それこそが、あの「食後に声がかすれる」という症状。これは誤って気管に入った食べカスが声帯の上に付着し、一緒に振動して起きたもの。食後にだけ声がかすれるのは、誤嚥性肺炎を疑う重要なサインなのです。ところがT・Mさんは、これも大したことはないと放置。ついに炎症は、片側の肺の大半に広がってしまったのです。幸いギリギリのところで発見されたため、T・Mさんの病は大事に至らず済みました。この病の予防で最も大切なのは、何と言っても、口の中を清潔にしておくこと。事実、誤嚥性肺炎の発症率は、口腔ケアを行わないと、およそ2倍になるというデータもあるのです。