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『睡眠外来〜Y・Kさんの場合〜』 |
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Y・Kさん(男性)/26歳(発症当時) |
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会社員 |
入社して1週間しか経っていないというのに、早くも寝坊してしまったY・Kさん。二度と遅刻しないと誓った彼は、それ以来、早く起きられるよう以前より早めに床に就くよう心がけましたが、どうしても眠れず、またまた寝坊。どんなに頑張っても週に1〜2度遅刻してしまいます。その後も、何とか眠れるように、枕を変えてみたり、ヒーリング音楽を流したり、色々なことを試してみたY・Kさん。しかし、どれも効果はなく、布団に入って数時間眠れない状態が続きました。 |
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(1)不眠
(2)不眠が続く
(3)どうしても朝起きられない |
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概日リズム睡眠障害(がいじつりずむすいみんしょうがい) |
<睡眠外来での診察と治療とは?> |
一口に睡眠障害といっても、その種類は様々。なんと50種類にも分けられると言います。しかも症状がどれも似ているため、特定するのは容易な事ではありません。例えば、同じ眠れないという症状でも、夜寝つきが悪い人や、睡眠の途中で起きてしまう人、さらに本人は寝ているつもりでも熟睡できていない人など様々。それによって治療法も変わってくるのです。そこで最も大切になるのが問診。複雑に絡み合った症状を丁寧に解きほぐし、病の正体に迫るのです。まず行なうのは、精神的な病の可能性を排除すること。Y・Kさんのように眠れない悩みを持つ人は、その背景に「うつ」などの精神の病を抱えている場合が多いのです。しかし、事前の問診表やY・Kさんの様子から、杏林大学医学部 精神神経科 主任教授 睡眠障害センター 古賀良彦先生は精神的な病ではないと判断。その他の問診結果も踏まえて、50を超える睡眠障害の中から7つにまで絞り込んだのです。その7つこそ、代表的な睡眠障害でした。過去に眠れなかった経験がトラウマとなって、眠れない不安から不眠に陥る「精神生理性不眠」。現在抱えているストレスや悩みを気にする余り、眠れなくなる「ストレス性不眠」。睡眠中に呼吸が何度も止まり、いびきなどから熟睡できないため、昼間強い眠気に襲われる「睡眠時無呼吸症候群」。睡眠のリズムが乱れ、寝付きが悪くなる「概日リズム睡眠障害」。日中、突発的な眠気に襲われる「ナルコレプシー」。足がむずがゆく、眠れなくなる「むずむず足症候群」。そして睡眠中、怖い夢にうなされ大声を上げたり暴れたりする「レム睡眠行動障害」。この7つの睡眠障害から一つに絞り込むために、先生はさらなる問診を行ないます。問診の際、まず1つ目のキーワードは、「眠りにつくまでに時間がかかる」。そして2つ目は「一旦眠ると途中で目覚めることはない」ということ。この2つのキーワードによって、先生の頭の中に一つの病名が浮かび上がりました。そして最後に、「今のような睡眠の習慣がついたのはいつ頃からなのか」を尋ねました。Y・Kさんによると、4年前、大学に入った頃から自由な一人暮らしを開始。以来、夜中までレンタルビデオを見て過ごすようになり、眠るのはいつも朝の4時頃。毎日のように寝坊をし、起きるのはいつも昼過ぎだったというのです。全ての問診を終え、古賀先生はついにY・Kさんの睡眠障害を特定しました。病名「概日リズム睡眠障害」。概日リズム睡眠障害とは、長年にわたる夜更かしなど深夜型の生活を続けることで、脳内神経物質メラトニンの分泌に異常が起きる病。眠気を誘うメラトニンの出るタイミングがずれることで睡眠のリズムが変わってしまうのです。すると「夜眠れない」「朝起きられない」などの睡眠障害を引き起こしてしまいます。そして概日リズム睡眠障害の特徴は、睡眠のリズムに問題があるだけで、眠りの質には問題がないこと。つまり一度寝てしまうと、途中で目覚めることがほとんどないのです。まさにY・Kさんの睡眠のタイプと合致します。さらに睡眠中の脳波などを測定する睡眠ポリグラフ検査でも、Y・Kさんの睡眠の質には問題がなく、リズムがずれていることを確認。こうしてようやく、Y・Kさんを悩ませていた睡眠障害の正体が明らかになったのです。睡眠外来で眠れない原因が分かったY・Kさんは現在、投薬を続け、社会復帰を果たしています。 |
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『女性外来〜S・Tさんの場合〜』 |
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S・Tさん(女性)/28歳(発症当時) |
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派遣社員 |
生活が不規則な営業の仕事から心機一転、事務職の派遣社員となったS・Tさん。ところが、そこにはちょっとヒステリックな、お局様的上司がいました。周囲の派遣社員たちが次々と辞めていく中、自分さえ我慢すれば、と勤め続けたS・Tさん。転職して3ヵ月、突然、左足の太ももの筋肉が痙攣し始めたのです。しかし異変はそれだけではありませんでした。 |
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(1)太腿の痙攣
(2)筋肉の痛み
(3)微熱が続く
(4)喉の痛み
(5)頭皮の激痛
(6)全身の痛み |
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慢性疲労症候群(まんせいひろうしょうこうぐん) |
<女性外来での診察と治療とは?> |
女性外来の場合も問診が最も重要。最低でも30分、時には1時間以上をかけ、じっくりと患者の症状を聞き出します。しかも千葉県立東金病院 副院長 天野恵子先生は患者の話を遮らず、何を言っても決して否定しません。実はこれが最大のポイント!こうすることで患者自身も忘れていたことや、関係ないと思う症状まで、洗いざらい聞き出すことができるのです。そして聞き出した問診内容から、天野先生は一見バラバラだった症状を結びつけることで、病の正体を探っていきました。まず注目したのは、2つの症状。「毎晩続く微熱」と「喉の痛み」。このとき天野先生の脳裏に、ある病の名が浮かびました。そして、それを確認するために、S・Tさんの日常生活にまで踏み込んだ問診を始めたのです。実はこれこそ女性外来の真骨頂。生活の中で何らかのストレスや問題を抱え、日々の暮らしが辛いなど、「暮らしの質」が低下していると、それが病の発症に関わっている可能性があります。病の本当の原因となっていることを暮らしの中から探り出すのです。その結果、S・Tさんの場合、あの職場でのストレスが病のきっかけと判断されました。しかし、多少のストレスや悩みは誰しもあるもの。問題となるのは、その受け止め方です。生真面目なS・Tさんは、そのストレスを重く受け止め、さらに周りへの気遣いから症状を誰にも打ち明けませんでした。それが更なるストレスとなり、病をここまで悪化させたと考えられたのです。そして血液検査などで他の病の可能性を完全に排除した結果、ついに最終的な診断が下りました。病名「慢性疲労症候群」。ストレスや感染症などが原因で、神経・内分泌・免疫系に変調をきたした結果、体中に痛みが現れ、重い疲労感が半年以上続く病です。症状が多岐にわたり、検査をしてもほとんど異常が見つからないため、診断が極めて難しいのです。年間患者数は、およそ20万人。そのうちの7割近くが女性という女性に多い病です。長時間に渡って問診を受けるうち、いつしかS・Tさんは、それまで溜め込んでいた苦しみを洗いざらい打ち明けていました。そして・・・一筋の涙が。これも女性外来の重要な要素。女性の場合、心の負担が身体の異変につながることが多いため、丁寧に話を聞く問診自体が絶大なカウンセリング効果をもたらすのです。診察を終えたS・Tさんには、4種類の薬が処方されました。抗鬱剤、抗不安剤、鎮痛剤、そして漢方薬。このように、女性の身体に優しい漢方薬を積極的に使用するのも、女性外来の特徴なのです。それから5年。S・Tさんは、病も完治。現在一児の母となり、幸せ一杯の毎日です。 |
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