診察室
診察日:2007年5月29日
テーマ: 「本当は怖いストレス〜理不尽な囁き〜」
「本当は怖い胸のときめき〜奪われた心〜」

『本当は怖いストレス〜理不尽な囁き〜』

S・Kさん(女性)/33歳(発症当時) OL
大手文具メーカーに入社以来、宣伝畑一筋、今ではチームリーダーを務めるS・Kさん。やりがいのある仕事に充実した毎日を送っていましたが、最近来た新しい上司が悩みの種になっていました。彼は何事も大雑把で具体的な指示をくれない上、徹夜で仕事をこなしてもねぎらいの言葉もなく、すぐ別の仕事をふってくる始末。しかし、上司の命令を拒む訳にはいかず、S・Kさんにとって大きなストレスになっていたのです。それでも食欲は旺盛で、夜もすぐに熟睡できるため、大丈夫と思っていたS・Kさん。ところが翌朝から、様々な異変が彼女に襲いかかるようになります。
(1)食欲が増す
(2)よく眠れる
(3)手足が鉛のように重い
(4)好きな人と話すと症状が和らぐ
(5)突然キレてしまう
(6)ベッドから起き上がれない
(7)無性に悲しくなる
(8)イライラする
非定型うつ病
<なぜ、ストレスから非定型うつ病に?>
「非定型うつ病」は、うつ病の一種ですが、従来のうつ病とは症状が異なるため、1994年、アメリカで新しく分類された病。16歳から30代半ばの女性に急増していると言われています。一見、うつには見えないため、見逃しやすく、自殺など最悪の事態に至ってしまうことも少なくありません。「非定型うつ病」の初期症状は、通常のうつ病とは真逆。食欲が増したり、よく眠れたりするため、健康に見えてしまうことが大きな落とし穴。しかし重症化してしまう理由はそれだけではありません。S・Kさんの場合、母親からの1本の電話で急激に症状が改善しました。実はこれが「気分反応性」というこの病、最大の特徴。自分にとって好ましいことがあると、突然、症状が改善。そのため、発見がさらに遅れてしまうのです。発症の原因は通常のうつと同じくやはりストレス。S・Kさんの場合も、あの身勝手な上司の存在が大きなストレスとなり、知らず知らずのうちに病を発症。そして、一気に重症化してしまったと考えられます。S・Kさんが普通のうつではなく、なぜ非定型うつになったのかは、残念ながらわかりません。しかし、この病は、症状が重くなる前ならば、ストレスの原因から一時的に遠ざかり、休養することで改善できる病。そのためにも早期発見が大切なのです。
『本当は怖い胸のときめき〜奪われた心〜』
H・Tさん(男性)/50歳(発症当時) 会社員
オフィス機器のサービスマンとして働くH・Tさん。仕事柄ストレスが多く、気の休まることのない毎日を送っていましたが、最近、いつも優しくしてくれる取引先の事務の女性が気になり、彼女と接した時、胸がキュンと締め付けられる様な感じに襲われました。それ以来、今まで以上に彼女を意識するようになり、会う度に胸がキュンキュン締め付けられっぱなしだったH・Tさん。その後も気になる症状が彼に襲いかかります。
(1)胸が締め付けられる
(2)胸にチクチクする痛み
(3)激しい動悸
心房細動
<なぜ、胸のときめきから心房細動に?>
「心房細動」とは、不整脈の一種で、心臓の心房という部分の筋肉が痙攣し、体に様々な障害をもたらす病。現在、この病の患者数はおよそ100万人。しかし、自覚症状のない潜在的な患者も含めると200万人以上いるとも言われています。この病になりやすいのは50歳以上の男性で、過度の飲酒や睡眠不足など、生活習慣に問題がある人。さらに、ストレスも大きな危険因子の一つです。H・Tさんの場合も、仕事上のストレスが原因でした。しかし、ストレスの元はそれだけではありませんでした。そう、あの愛しい彼女との接触も実はストレスに。過剰に意識した結果、それが緊張という名のストレスになっていたのです。では、なぜストレスが心房細動を引き起こしてしまうのでしょうか?実は心臓は、ストレスに敏感に反応する自律神経が数多く張り巡らされている臓器の一つ。恋愛しているときに胸がキュンとするのは、自律神経が過剰に反応し、血管を収縮させるためと考えられています。そうとは知らないH・Tさんは、極度のストレスを溜め続けたことで心臓を取り囲む自律神経が異常をきたし、通常は1分間に60回から80回の心房の拍動数が、痙攣によってなんと300回から500回にまで速まってしまいました。しかし、心房細動だけでは、命に関わることはまずありません。怖いのは、長期間、心房細動が続いた場合。そうなると心房の中になんと血栓が生まれます。心房細動が起きると、血液が滞るため血栓ができやすいのです。そして、運命の日。気持ちが焦り、走ったことで血圧が急上昇。その結果、血栓が心臓を飛び出して脳の血管へ。そこを詰まらせたことで、H・Tさんは脳梗塞になってしまったのです。この心房細動は、緊張しがちで、しかもストレスを溜め込みやすいタイプの人が危ないと言われています。ストレスの受け止め方一つで、H・Tさんのように恋も病に変えてしまうのです。
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